第二章(四) 俺は一人じゃない

文字数 2,075文字

 買い物を済ませると、スーパーの近くにあった宝籤売り場に目が行った。
「昔はよくミニロトを買ったな。四等しか当たった経験がないけど」
 これからの将来を占う運試しに、ミニロトを買う気になった。 

 さて、どの番号にするかと思うと、自然に数字が頭に浮かんだ。頭に浮かんだ数字を申込用紙に記入して購入した。
 当選発表日にインターネットで番号を確認すると、二等が出て、十六万円の当たりが出た。気を良くしてもう一度、ミニロトを買った。

 また、二等が当たった。二回も連続で二等が当たると、嬉しさよりも、少し気味が悪くなった。
 ないとは思うがと、再度、ミニロトを買うと、また、二等が当たった。ミニロトの賞金合計が五十万円ほどになった。明らかに異常な事態が起きていた。仙人化の影響だ。
 単に未来が朧げにわかる能力が開花したなら問題ない。だが、開花した能力が幸運の前借だったりすると、目も当てられない。

 家で悩んでいると、インタホーンが鳴った。
 玄関に出てドアを開けると、紺のスーツを着た大波が立っていた。大波には、実家の住所は教えていない。生存報告が警察から大波に行ったとも、考えられなかった。

 毒殺事件がなかったかのように、大波が柔和な笑みで話し掛けてきた。
「こんにちは、天笠くん。ちょっと話があるんだけど、いいかしら。天笠くんのためにもなる話よ」
「おかしな料理を食べる仕事は辞めましたから」とドアを閉めようとすると、大波が口を開いた。
「仙人について、興味がお有りかしら?」
 ドアを閉めようとした手が止まった。

 大波は、天笠が仙人になったと知っていた。仙人になった経緯は、大波の料理が関係すると見て間違いない。ただ、死体を遺棄して殺人事件にした大波とは、あまり関わりに合いになりたくはなかった。
 話を聞くか迷った。だが、近所の目もあるので、とりあえず玄関に入れた。

 控えめな態度で、大波が申し出た。
「今日は、日本にある超能力者訓練機関を天笠くんに紹介に来たのよ。機関は、国のお墨付きを得ている真っ当な施設よ。どう、面白そうな話でしょう」
 仙人と超能力者は違う気がしたが、大波の話に興味が湧いた。ただ、興味の赴くままに喰い付くと、悪い条件しか出てこないので、一度は気のないふりをした。

「怪しいなー。超能力者育成機関なんて、本当に日本にあるんですか? 超能力なんて、信用できませんよ」
「私の料理を食べて屍解仙になって現世に蘇った天笠くんの言葉とは、思えないわね。成りたくて成った仙人ではない、は通用しないわよ。きちんと、私は肉体的変化が起きても保障はしないと確認したからね」

 大波には、仙人になる料理だとわかっていて出していた。とすると、大波も料理を作って、仙人になったのかもしれない。
「大波さんも、自分で料理を作って食べたんですか」

 大波が、残念だといった顔で感想を述べた。
「仙人になれる料理なので、私も試してみたわ。だけど、味が酷くて、食べられなかったわね。あの料理とまともに向き合って、半分以上も食べられた人間は、一人だけ、天笠くんだけよ。天笠くんは料理に選ばれた人間だったのよ」

 物は言いようだと、少し感心した。
「一応、話を聞きますが、どんなところですか。軍隊式に訓練されて、世界各国に派遣される場所なら、お断りですよ。仙人は、権力者に仕える存在ではないので」
「天笠くんの行く場所は『黄昏園(たそがれえん)』よ。『黄昏園』は、自由な学校みたいな場所よ。黄昏園では日本中から超能力者を集めて、十二歳から二十二歳までの超能力者に、能力の使い方を教えたり、社会の中で生活できるようにしたりする場所よ。超能力の研究もしているわ」

「俺、高校まで出ているんで、今さら学校に行く状況は、気が引けますよ。それに、あまり、高校生活も楽しくかったですしね」
「世の中で(くすぶ)っていれば、堕落して行く未来はあっても、明るい未来はないわ。なら、いっそ特別な環境に身を置いて、学んでみたほうがいいわよ。別に、嫌なら、途中で辞めてもいいわ。辞めるにあたっての条件はないから。それと、お金は一切、掛からないわよ」

 本当なら悪くない話だ。仙人の修行なんて、どうやっていいかわからない。ならば、いっそ似たような境遇の人間や、超能力者の能力開発のノウハウを持っている組織を頼ったほうがいい。
「まあ、お試しでいいんなら、入ってあげても、いいですよ。あと、一つ、聞いてもいいですか?」

 大波が頷いたので、当然の疑問を投げ掛けた。
「大波さんの目的は、なんですか。なんのために仙人になる料理を開発していたんです。不老不死になりたいからですか」
「私の目的は、仙人の誕生と育成よ。誕生は成功したから、後は天笠くんが、立派な仙人になってくれれば、目的は達成するわ」

 大波の言葉には、なんか裏が有る気がする。されど、簡単には白状しないだろう。大波は、必要な書類と『黄昏園』を紹介した冊子を置くと、帰って行った。
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