第七章(二) 動き出す黄昏園

文字数 1,646文字

 ジョンソンから接触が会って一週間が経つが、特段これといって何も起きなかった。授業も普通に続いていた。 
 休み時間に蓮村に、黄昏園が取り組んでいる研究について聞いたが、明確な答はなかった。明峰や竜宝にも聞いてみたが、誰も口を濁したので、深くは追及しなかった。

 生徒たちは、本当に良い教師役だった。天笠か質問すれば、どうにかわかるように教えようとする。
 一人で説明できなければ、数人でチームを作って対策を立てる生徒も現れた。
 他人がしている授業を聞き積極的に取り込んだりもしていた。そうして、天笠や亜門で通用する授業のノウハウを基に、もう一つのクラスで、授業を教えると、効果抜群だった。

 天笠自身は全く授業をしていないが、学校全体に、勉強をする習慣が根付こうとしていた。執行部の評判も上がり、生徒同士の友達関係も上手くいっているようだった。
 平和だが、退屈ではない時間があった。
 下校時間になって帰っていく生徒を見送りながら、しみじみと思った。
「修行は停まったけど、現状で良い気がする。このまま、平和で張り合いのある日々をしばらく過ごすのも、いいかもしれない」

 天笠が生徒を全て見送って、帰ろうとすると、黒塗りの車が来客用駐車場に停まる光景が見えた。 
 帰り仕度をして外に出ると、運転手姿の叔父が待っていた。車に乗ると、後部座席と運転席を隔てている窓が開いた。

 叔父が静かに語り出した。
「ここから離れた場所に、黄昏園から隔離された研究施設がある。研究施設ではアポカリプスBと呼ばれる兵器を開発していた。その、アポカリプスBが誤作動を起こして暴走を始めた。どうか、アポカリプスBを停めて欲しい」

「ちょっと待ってください。兵器の誤作動を停める任務は、教師の仕事ではないですよね」
 叔父は淡々とした態度で、
「ところが、この話には裏が存在する。アポカリプスBの誤作動は管理派が仕組んだ罠の可能性が捨てきれないんだ。ことの真相は管理派が対超能力者用兵器として開発したアポカリプスBを使って、庵くんを排除するのが目的かもしれない」

 叔父の話は藤林が話していた危惧と一致していた。だが、果たして本当だろうか。
「俺は、行かないほうが良いんですか?」
「判断は任せる。だが、もし本当にアポカリプスBが暴走していたら、アポカリプスBは全ての超能力者を抹殺しようとするだろう。黄昏園も戦場になる。もっとも、管理派が画策していても、やはり黄昏園を襲わせるだろうが」

 戦場が黄昏園になるか、黄昏園の外になるかの違いだった。生徒を巻き込みたくないなら、罠だろうが暴走だろうが、出て行って戦うしかない。降りかかる火の粉は、払うまでだ。
「わかりました。一度、家に寄って準備をしてから、アポカリプスBを停めに行きます」

 叔父は何も言わずに、後部座席と運転席を区切っている窓を上げた。
 家に帰って、カメラマン・ベストを装着して、冷凍庫から仙術ソースを取り出した。『獅子王金丹風ソース』だけは、冷凍保存できないので、新たに作り直した。

 ソースを作ると、出発前に蓮村に連絡した。
「黄昏園で問題が起きた。対超能力者兵器が誤作動を始めたらしい。このまま放って置くと、黄昏園までやって来る。どこまで、力になれるかわからないが、停めてくる」

 蓮村は、いつもの冷静な口調で返して来た。
「わかりました。行ってらっしゃい」
 あまりにも呆気ないので「それだけ?」と訊くと、「他に何か?」と逆に聞き返された。
 電話越しで顔は見えないが、声の調子から話を信用していないわけではなかった。
 意気込んで行くので、もっと激励の言葉をとか欲しかった。だが、天笠から励まして欲しいとは口にできない。

「じゃあ、行ってくるよ」と電話を切った。
「感じていた以上に俺って人望ないのかな。いや、信頼されていると思っておこう」
 叔父の運転する車に乗って、アポカリプスBが待つ現場に向かった。
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