第67話 断ち切れない鎖 2 ~悪意と優しさと~

文字数 7,876文字


 週頭の月曜日。お母さんは早朝のうちに家を出てる。
 それにしても昨日は酷かった。いやまあ優希君と仲直り出来たと言うか、お互いの事を確認出来たし、確かに優希君の事も分かりはした。ジョハリの窓で言う秘密の窓・盲目の窓も少しは小さくなった気もする。
 そう言う意味においてはとても良かったし手放しで喜びたいのは山々なんだけれど、いかんせんとどまるところを知らない優希君の前での失態……いやもうあれは失態じゃなくて痴態と言っても過言じゃないくらいの出来事の数々。
 私は頭を抱えながら体が重くなって四日目。そろそろピークを迎えそうな体を動かして、当たり前の事ではあるんだけれど、今日こそは制服を着てから下へ降りる。
 その上、いやだからこそなのか、昨日も試験勉強は進んでいないから、それはそれで気がかりだったりする。
 今朝の分はお母さんが作り置きをしてくれているから、いつもの朝と違って慌てる必要はどこにもなかったりする。
 そのお母さんも昨日帰って来た私の姿を見て、どういう結論になったのか “ちゃんと彼氏の前で女の子してるのねぇ” なんて言う始末だ。これじゃあまるっきり咲夜さんの相手をしているのと変わらない。
 私は仕方無しにいつもとは違うお弁当箱と水筒でお弁当の用意をするも、その大半は昨日の残り物を詰めるだけだから、これもさほど時間のかかる事じゃない。
 最近は雪野さんに振り回されてばっかりで、優希君との事でもすれ違いは出るし、あの一件で手元からお気に入りのお弁当箱と水筒は消えてしまうし……お気に入りのものは見つからないかも知れないけれど、いつまでも代わりの物と言う訳にもいかないから、新しい物を買う事も視野に入れないといけない。
「おはようねーちゃん。メシは?」
 私がつらつらと取り留めのない事を考えながらお弁当を詰め終えたところで、慶が自分から起きてくる。
「お母さん作ってくれてるから、すぐに食べられるよ。先に顔洗っといで」
「……おう」
 私の言葉を素直に聞く慶。その慶の反抗期で私もたくさん怖い思いをして来たけれど、本気の姉弟喧嘩をしたのはこれが初めてかもしれない。もちろん私が慶に手を上げたのもあの時が初めてだったりする。
 ひょっとしたら、今までからしてあげるとは思っていなかった私が手を上げた事がショックだったのかもしれない。
 それ以降目に見えて態度が変わった慶が戻って来たところで
「今週の金曜日に蒼ちゃんと一緒にリビングで勉強する事になったから、慶も一緒にするなら蒼ちゃんの前で恥をかかなくても良いようにちゃんと準備しておきなよ」
 これが怪我の功名なのかなと考えながら、慶に蒼ちゃんが来ることを伝える。
「金曜日だよな? 分かった。サンキューねーちゃん」
 これで慶の所もテスト一週間前。やる気が上がって結果が出ると良いなとは思うから、
「そうそう。蒼ちゃんが手作りのお菓子を作って持ってきてくれるって言ってたよ」
 慶が喜びそうな事は出し惜しみしないで一通り伝えておく事にする。
「さすがねーちゃん。恩に着るぜ」
 さすがは蒼ちゃんに心酔してるだけの事はある慶が、あまり調子に乗り過ぎないように釘を刺す意味でも
「そう言えば次はお父さんとお母さんの両方が帰って来るって言ってたから」
 蒼ちゃんにはもう既に彼氏がいる事だけは情けとして言わないでおくかわりに、次の週の事を慶に伝えると
「またおかんも帰って来るのかよ」
 さすがに文句をこぼす慶。さすがにこればかりは仕方が無いかと聞き流して
「じゃあお姉ちゃん先に行くから。慶が出る時、戸締りだけはしっかりお願い」
 学校へ行くために玄関へ向かう。
態度・行動・言葉、どれを取っても穏やかになりつつある慶と、喋るようにはなって来たとは言え、また両親とも今週末までは帰って来ない。
 少し登校するには早い時間ではあるけれど、私はあの視線を感じる前に家を出る。


 いつもより早く教室に着いた分、教室内にいる生徒はまばらだ。そしてこの時間、まだ咲夜さんは来ていないから実祝さんも一人で本を読んでいる。
そして私がいるから実祝さんに悪意ある言葉が飛ばないのか、それとも実祝さんに聞くのを辞めたのか。私がそう結論付けて自分の席で授業の用意をしていると
「やっぱり高飛車な姫に聞くより隣のクラスの子の方が気持ちよく教えてくれるわ」
「そりゃ、冷徹女よりかはよっぽど愛想も良いからな」
 そう言いもって教室へ戻って来たらしきクラスメイトは私を見るなりその口を閉ざす。
 そして、その直後に咲夜さんが登校してくる。
 私は担任の一言で本当にこのクラスがバラバラになりかねないなと感じながら
「咲夜さんちょっと良い?」
 金曜日の話を聞こうと場所を変える。

 朝も早い時間だから少しくらいなら余裕もあると言う事で、比較的人が少なくて話を聞かれる心配も少ない先週と同じ階段の踊り場の所で足を止める。
「……」
 場所が場所なだけに咲夜さんの方も何の話をするのか見当がついているのか、咲夜さんから口を開く様子はない。
「咲夜さんのその態度だと、二つのグループに話を聞けたんだよね」
「金曜日の放課後に聞いた」
 朝から空気が重たくなる。
「つまり実祝さんの件に関しては二つのグループで連携があったって事で良いんだね」
 私の断定に目を見開いて驚く。
「じゃあ咲夜さん

どうするの? 加担するの? それとも実祝さんをお願いして良いの?」
 私の質問に唇を戦慄かせながら、
「あたしは……」
 言いかけるも言葉にならない。あの雨降って地固まるの話をしてくれた時の真剣な咲夜さん。公園で蒼ちゃんの本音を聞き出した時と見せかけは違うけれど、状況は似通っている気がする。
 ただし蒼ちゃんの時とは決定的に違うのは、咲夜さんは自分の意志をちゃんと持ってる。潰れて言えなくなっている訳じゃ無い。そして同調圧力から抜け出ようともがいている。純粋に今の友達との繋がりの懊悩が深いのだと思う。
 そこまで分かってしまったなら、私には黙っている事なんて出来ない。
「実祝さんとの事をそこまで真剣に考えてくれるのなら、実祝さんの事をこの後も任せるから、その代わり実祝さんとはちゃんと前もって話をして。それが私からの条件。それさえ守ってくれたら私はギリギリまでは我慢するから」
 私は自分が

事を理解している。
 間違いなくこの会話を朱先輩に聞かれたら全てを分かってくれた上で “今日は一日中お説教なんだよ” って言われるに決まってる……と言うか、下手をしたら泣かれるかもしれない。
「ただし限度を “超えたら” 私はクラスの

だろうと怒るからね」
 それでも不器用な私にはこのやり方しか取れない。
「愛美さん。あたしは……あたしはっ! ――っ!」
 戦慄(わなな)いた咲夜さんの唇から出る言葉を、人差し指を使って途中で止めてしまう。
「咲夜さん。今はまだその続きを聞かない。ううん、聞いて


「……愛美さんは優しいのに厳しいよ」
 私は咲夜さんの唇に人差し指を一本添えただけなのに、たったそれだけなのにたくさんの感情が咲夜さんの中に去来したのが見えた気がした。
「……また。夜にでも……電話、しても良い?」
「良いに決まってるって。私は、咲夜さんと友達のつもりだから。だから間違った事をした時にはちゃんと注意もするよ」
 蒼ちゃんとも頻繁に電話してるし。そ
れに私と優希君との信頼「関係」においては朱先輩の協力もある。
 そして優希君とも昨日じっくり話してお互いの理解と気持ちもちゃんと確認し合っている。だから大丈夫。私は負けない。
「ありがとう愛美さん」
「ううん。こっちこそちゃんと教えてくれてありがとう。さぁ、教室戻ろっ」
 私は自分の気持ちを胸に咲夜さんと教室に戻る。

 朝礼間近だった事もあって
「……」
 蒼ちゃんに小さく手だけを振ってあいさつ代わりとしたところで、担任の先生から朝礼の伝達事項が伝えられる。
「今日からテスト一週間前で部活禁止期間に入るから気を付けろよー。特に今回はペナルティが初学期末までだからなー。連絡は以上!」
 本当は朝礼中に確認したい事があったのだけれど、露骨な先生の視線の中で質問をすると言うのは(はばか)られたから
「ごめん蒼ちゃん。先生に一つ確認したい事があるんだけれど、一緒に来てもらっても良い?」
 朝礼が終わってから先生が行ってしまう前に蒼ちゃんに声を掛ける。
「分かった。じゃあ先生が行っちゃう前に行かなきゃ」
 蒼ちゃんが同意してくれたと同時に、教室を出たところで先生を捕まえる。
「先生! 一つ質問があるんですけれど」
 私の声に振り向いた先生が蒼ちゃんの姿をとらえる。
「……」
 そんな先生を蒼ちゃんはやっぱり無表情で見ている。
「……」
 その視線を嫌った先生が私の方に視線を移すけれど、先生に気まずい気持ちがあるのか、私とは微妙に視線をずらすと
「どうしたの? 蒼ちゃん」
 蒼ちゃんが私を少しだけ横に押す。
「ううん。愛ちゃんは気にしないで良いよ」
 少し気になりはしたけれど、先生の嫌そうな顔を見てあまり聞かない方が良さそうなのと、何よりほとんど時間のない今は、確認したい事を優先する事にする。
「先生。今回も “余程の事がない限り” 部活は禁止って事で良いんですか?」
 蒼ちゃんのせいなのか、私の質問のせいなのか、先生から私に視線を合わせて来て
「ああ。内容や注意事項は中間の時と同じで、期間だけが初学期終わりまでと長くなっただけだ。部活チェックでもするのか?」
 答えてくれる。
「はい。統括会としても同じ轍は踏みたくないですし、何より私たちは生徒が気持ちよく学校生活を送れるようにするための組織ですので」
 だからもしこっちが先に見つけてしまえば、そのまま無かった事にしてしまう事も言外に含ませる。
 特に園芸部には昨日初めて会話した御国さん。それに優希君の妹さんもいる。もちろん一つの部活に肩入れしてしまうのは組織としてはあるまじき考え方ではあるけれど、それでも動植物、

は生き物を扱う部活としては、その特殊性は考慮すべきだとは思う。
「万一の時は顧問の先生にだけは話を通しておいてくれな」
 私に答えた先生は、蒼ちゃんには一瞥しただけで結局蒼ちゃんには一言も声を掛けずにそのまま職員室へと行ってしまう。
「ごめん。ありがとう蒼ちゃん……さっきのは聞かない方が良いんだよね?」
「ううん。蒼依は大丈夫だよ。それよりも統括会大変だね……うん。愛ちゃんは気にしなくても良いよ」
 先生が立ち去った後、表情を戻して私に笑いかけてくれる蒼ちゃん。
「でも私たちが頑張った分だけ、この学校の生徒は楽しく、充実するはずだから」
 それに一人じゃなくて五人だから助け合いも出来るし。
「やっぱり愛ちゃんだねぇ」
 そんな蒼ちゃんの口癖になりつつある言葉を聞きながら、咲夜さんとの話をするには時間が短すぎるからと今話すのは諦めて、並んで教室に戻り午前の授業に備える。


 昼休み。朝の咲夜さんとの話を蒼ちゃんに伝えようと席を立ったところで
「……」
 蒼ちゃんが申し訳さなそうに私に目を合わせて教室を出て行く。
 そう言えばテスト期間中は出来るだけ戸塚君と一緒にいるみたいな事を言ってたっけ。そんな申し訳ない顔をしなくても良いのに。
だったらばと言う事で、蒼ちゃんを見送った私が先週決意した事を実行しようと昼休みの職員室へ足を向け――
「あ~あ。(つつみ)の奴、今度は友達を放って自分だけオトコの所かよ。相方は二年に男を盗られて傷心中だってのに」
「だったらさぁ。今日こそは一緒にお昼しない? その手に持ってるのって弁当だよね」
 初めの方は例のグループが、後の方は咲夜さんグループがそれぞれ私に声を掛ける。
 先週の金曜日以降、この二つのグループの連携が強くなってる気がする。
 ただ優希君と雪野さんの事を言っていたとしても、昨日じっくり話をしてるからさすがに全く気にはならない。
 それどころか勝手にどうぞ。くらいの気持ちでもある。
「……」
 ただ、当然のように咲夜さんもその中にはいる。
「咲夜もそう思うでしょ。一回くらい一緒に食べても良いと思わない?」
「あたし

一緒に食べたい……かな」
 間違いなく私と咲夜さんの事を分かった上で、けしかけている咲夜さんグループ。
「違うでしょ咲夜。あたしたち

一緒に食べたい。じゃないの?」
「……あたし

一緒に食べない?」
 もう咲夜さんに無理やり言わせているのは明白だった。
 それだけ分かれば私としては十分だ。後は咲夜さんを待つって決めたのだから、我慢比べみたいなものだ。
「ごめん。今日もこの後用事があるから今日も無理かな」
 余計な事は何も言わずに、少し遅くなってしまったけれどそのまま職員室の方へと足を向ける。


 前に聞いたからと職員室で保健の先生を探していると担任の巻本先生と目が合ったけれど
「あの、先生。お時間良いですか?」
 その近くにいた保健の先生を呼ぶ。
 保健の先生が苦笑いを見せながらこっちに来てくれる。その間も巻本先生からはずっと視線を感じるけれど、目は合わせない。
「どうしたの? この前の事、話してくれるの?」
 前半部分は普通に。後半部分は声量を絞って小声で私に話しかけてくれる。
「はい。出来れば誰にも、特に巻本先生は聞かれなくて」
 そして保健の先生が私の意を汲んでくれたのか、
「じゃあ保健室の方へ移動しよっか」
 一度職員室を先生と二人離れる。

 保健の先生からしたら保健室なんて自分の部屋みたいなもののはずなのに、わざわざノックをしてから入室をするのがおかしくて、思わず笑みをこぼすと私の方を振り向いた先生が、
「あら。

とても可愛い笑顔で笑うのね」
 感心したように笑う。
 そう言ってもらえるのは笑顔が好きな私としてはとても嬉しいのだけれど、少しだけ違う。
「どんな人でも、心からの笑顔なら私は、尊いと思いますよ」
 だって私は人の笑顔が大好きなのだから。
 私の意思と言うか、気持ちを聞いた先生が驚いた表情でこっちを見ると同時に、誰かいるのか閉められたベッドのあるパーティションの中から、誰かが身じろぎをする音と言うか、した気配を感じる。
 そう言えば何度か中庭から、優珠希ちゃんが昼休みの保健室にいるのを何回か見たっけ。
「先生。誰かいるんですか?」
 私は誰にも聞かれたくない話ってちゃんと伝えたのにと、奥の閉じられたパーティションへ視線を向ける。
 私の心の中に生まれた猜疑心を感じ取ったのか
「ええ、奥に一人……いや二人かしら。いるわよ」
 隠す素振りは無く正直に答えてくれるけれど、
「私、本当にこの話を下手に広げたくないんです。それくらいに私にとって大切な親友なんです」
 それはつまり私の言葉に対して、不足を持って伝わっていたって事で、それは私の落ち度であるとは言え、先生との温度差がある以上
「……」
 先生がいくらこっちを見てこようが、簡単に口を割る訳にはいかない。
「分かったわ。まだ先生を信じてくれるなら校長室の奥にある外来用の応接室を使いましょう。そこだったら内側から鍵がかかるから」
「……分かりました」
 本当はどうしようかとも迷ったけれど
 ――いろんな理由で保健室の先生を頼る子も多いから大丈夫―― 
 朱先輩が言ってくれていた事を思い出して、もう一度だけ先生の事を信じようと後について行く。

 そして職員室側と、廊下側の二か所に内側から鍵のかかる扉のある外来用の部屋へ案内される。
 その中は少し広めの部屋で、応接用のテーブルがあり、それに向かい合う形で三人掛けの皮張りのソファと一人掛け用のソファと言うか椅子が二個並んで置いてある。
 私は、見た事が無いからこれは想像だけれど、一般的なビジネスで使う応接室みたいな雰囲気が近いかも知れない。
 外からの喧騒が全く聞こえなくなったその部屋の中でどうしようかと迷っていると、先生がどこでも好きなところに座ってくれた良いと言ってくれたから、三人掛けのソファの端に腰掛けさせてもら――
「――っ?!」
 ――うと、見た目にそぐわずふっかふかのソファで体が沈み込んで行く感覚に驚いていると、また先生に笑われた……気がする。

「それでこの前の子って、話を聞いていた限りだとケガをしたわけじゃないわよね」
 もう少しこの応接室の中を見たかったのだけれど、昼休みの時間も限られてるって事でそのまま本題に入る。
「はい。あの日は友達……友達同士の喧嘩でした」
 呼称に迷って、そのままの呼称で続ける。
「ただの喧嘩にしては切羽詰まってたわよね」
 あの時は蒼ちゃんが潰れてしまうんじゃないかと思ったのだから当然だ。
「……それで担任の巻本先生の相談したのはその事?」
「いえ、それとは別件なんですけれど……」
 廊下側の喧騒も、職員室側からの音も遮断されたこの応接室の中、無音の帳が支配する。
 一度あしらわれた質問をするのはやっぱりハードルが高い。
 朱先輩は私のこの気持ちを弱さではなく、個性・優しさだと言ってくれた。
 朱先輩の優しさに名一杯甘えてから口を開く。
「先生。この学校でいじめがあったらどうしますか? って言うか、いじめがあるって言って信じてくれますか?」
 そして、一度は相手を全くしてもらえなかった質問を同じ先生に、けれど別の人に聞く。
 私は不安に負けないように心の中で朱先輩の優しい表情を思い浮かべる。
「……そう言う事ね。誰にも聞かれたくないって言う本音は分かったわ。それとさっきの岡本さんの質問に対する答えだけど、いじめを信じるって言うより、実際にあるわよ。そして、今

どうにも、何にも出来ないわよ」
 そんな私の質問に先生が安心と失望を同時にくれる。
「何も出来ないって! じゃあ先生も見て見ぬふりをするんですか!」
 担任と言い、保健の先生と言い、私は誰を頼れば良いのだろう。
 私が唇を噛んで悔しさをこらえていると
「違うわよ。放っておくわけじゃない。ちゃんと順を追って説明するわね」
 先生が私の言葉と言うか反応を予想していたのか、全く驚く事もなく、そのまま私にかみ砕くように説明を始めてくれる。
「先生も岡本さんと同じ気持ちなんだけど、岡本さんの親友に今日岡本さんが先生の所に相談に来てくれた事、話しても大丈夫?」
「今日の話は誰にも聞かれたくないって、さっき私言いました!」
 冗談じゃない。
 蒼ちゃんは誰にも知られたくないからと私にも言ってくれなかったし、前腕についていたアザもすぐに隠してしまったくらいなのに。
 もうこれ以上この学校の先生には頼れない。
「先生さっきの話は忘れて下さい」
 朱先輩が言ってくれるならって勇気を出したのに、この対応。
 私の声にどうしても涙が混じる。
 私が諦めて部屋から出ようと席を立った瞬間、
「待ちなさいっ!」
 保健の先生とは思えないほどの鋭い声が私に向かって飛ぶ。


―――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――
              「言いたくありません」
              保健の先生との駆け引き
        「あ。ああ……終礼前の職員連絡で伝えられた」
                その中身とは……
       「蒼依が学校に来るの。そんなにおかしい事ですか?」
              この答えに対する質問は

             「先生って彼氏いますか?」

       68話  見え始める全体像 ~「信用」のかけ引き~
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