第77話 人の面白さ ~分からない心・欠点~ Bパート

文字数 5,894文字

 今日の事を心配と応援をしてくれていた朱先輩に、メッセージだけでも結果を伝えようとして携帯を手にしたところで
「妹さん?」
 何回か妹さんからの着信を確認する。
 優希君と今、すれ違いみたいになっているからまた何か言われるのかなと思いながらも、放っておくと後が大変だって言う事も思い出して、ため息をつきながらこちらからかけ直しをすると、案の定
『アンタはなんでいつもいつも一回で電話を取らないのよ』
 開口一番文句を言われる。
『さっきまで進路と受験の話を両親としていたの』
 妹さんに対して変に取り繕ったり変な事を言うと、電話ならその場で切られかねないから、今の優希君が気になる私としてはそのままを言わざるを得ない。
 因みに目の前にいる時だと手か足が出て来るのはもう分ってはもらえると思う。
『アンタ本当にわたしの気持ちを逆撫でするのが好きなのね。その理由だとわたしがアンタに文句の一つもゆえないじゃない』
 何で取り繕わずに本当の事を言って文句を言われないといけないのか。だんだんと妹さんの性格が分かってきた今、そろそろこっちからも文句を言っても良いのかもしれない。
 いくら優希君の妹さんだか何だか知らないけれど、私は妹さんとお付き合いをしているんじゃなくて、あくまで優希君とお付き合いをしているのだ。優希君が仲良くしてほしいって言うから出来るだけ優希君の気持ちは聞きたいとは思うし、私も優希君関係なしで優珠希ちゃんとは仲良くはしたいとは思てはいるけれど。
 だからっていつまでも妹さんに気を使ってはいられないかも知れない。
 幸いにも取り繕わずにちゃんと言えと言って来たのも妹さんの方なのだから。
 だからそのうち優希君にバレないように喧嘩をしそうな気がする。
『まあそんな事はこの際どうでも良いわよ。アンタお兄ちゃんに何ゆったの? それとも何したのよ。昨日からお兄ちゃんが拗ねてて口も利いてくれないのよ』
 焦る妹さんの口調に対して出てきた言葉が、あまりにも意外過ぎて思わずむせてしまう。
 だって優希君が拗ねているところを想像できなく……はないのか。思わぬところから優希君の秘密を知ることが出来たのは嬉しいけれど、その理由が私と他の男の人である倉本君との事だから、妹さんに言い辛い。
『ちょっと何で黙るのよ。聞こえてるんでしょ? 何とかゆいなさいよ』
 当然そんな私を見逃すはずもなく、私を問い詰めてくる妹さん。
 妹さんならこの時点で私に原因がある事には気づいているだろうから、
『私と優希君の話だから、優珠希ちゃんには関係ないよね』
 下手に繕って隠そうとするより、ハッキリ言って弾いた方がまだマシな気がする。
『ハァ? アンタわたしの話聞いてた? お兄ちゃんが拗ねてて、口利いてくれなくて今、わたしが困ってるってゆったはずだけど』
 私の判断が正しかったのか、

1

オクターブ下がる妹さんの声。
『明日優希君の話をちゃんと聞くつもりだから』
 だから優珠希ちゃんには言わないって言ったつもりだったのだけれど、
『このままだったら明日も部屋からは出ないと思うけど、それでも良いのね』
 困るのは妹さんも、のはずなのに私との会話の機会が無くなる事が嬉しいのか、少し勝ち誇り気味に言う優珠希ちゃん。
 それだと妹さんもだけれど私も困るって言うか、男の人ってみんなそうなのかな。
 でも私は今、妹さんから聞いたから知っているだけで、優希君からしたら今の優希君の事を私は知らない事になってるのか。
 しかしどうしよう。いくら本当の事で、私の中に全くやましい気持ちが無かったとしても倉本君との事を口にしたら優珠希ちゃんなら暴れるって言うか、今すぐ私の所まで飛んでくる気がする。
『私が優希君にもう一回メッセージを送って伝えるよ』
 だからあくまで私と優希君で解決しようと伝えるも
『分かった。あくまでアンタがその気だってゆうなら、いつ信頼出来なくなるか分からないアンタとの付き合いを考えてもらうように、お兄ちゃんにゆうから』
 私と優希君を別れさせると遠回しに言う妹さん。さっきの事と言い優珠希ちゃんとの付き合い方・扱い方が形になって分かって来たかなと、少し思うように喋ってみる。
『仮に優希君が別れるって言っても、私にはそのつもりは全く無いけれど、優希君が別れたくないって言ってくれても優珠希ちゃんは、優希君の気持ちを

して

私と優希君を別れさせるの? お兄ちゃんの話を聞ける私

?』
 逆撫で結構。引いてダメなら押してみな。一部の言葉をわざと強調した上で、皮肉も込めて妹さんに返すと
『~~っ! アンタ! 次会った時覚えてなさいよっ!』
 効果てきめんだったのか、私に言い返すことなく悔しそうな返事があっただけだ。
 だからもう一言、今までの分の借りを返す意味も含めて釘を刺すことにさせてもらう。
『覚えておくのはもちろん良いけれど、優希君からは私に手を出さないように言われてるんじゃなかったっけ? 優希君の話を聞く事が妹さんの最低条件だったと思うけれど、当然優珠希ちゃんも優希君の意見は聞くんだよね?』
 公園で妹さんの口から聞いたことがある。
 ただ、その後の役員室での事は、妹さんの言ってる事も理解できて、私自身も悔しい思いをした事も覚えているから、両者引き分けって事で、口には出さないでおく。
『……


 妹さんの方もあの公園でのやり取りを思い出しているのか、全く同じセリフを吐く。
『良かったよ。妹さんもあの時の会話を覚えていてくれたんだね』
 あの会話の後に優希君とのお付き合いを始めたのだから、私の方はバッチリと覚えている。
 妹さんの意図した返事を、あの時の会話を覚えていると言う言質に変えて念を押すと、
『……』
 妹さんも、自分で藪蛇だったと思ったのか電話口でだんまりを決め込む。
 その反応を見ても間違いなく、妹さんとの接し方はこれで良いのだと自信をもって、優希君の希望も兼ねて揺さぶりもかけさせてもらう。
『私は

言ってくれているのもあるし、優珠希ちゃんとも仲良くしたいんだけれどな』
 いや、私の本心を優珠希ちゃんに伝える。
 分かってくれば、私にとっては“今は”って付くけれど、可愛い後輩に思えてくるから、人の気持ちってホント不思議だなって思う。
『……アンタ。まさかとは思うけれどお兄ちゃんを引き合いに出したら、何でも言う事聞くと思ってるんじゃないでしょうね』
『……』
『ちょっと。なんでそこで黙るのよ』
 そう言う考え方をした事は無かったけれど、よく考えればそう言う事なのかもしれない。
 頭の回転が速い妹さんだからこそ、勘が働いたのかもしれない。
『気付かせてくれてありがとう』
だからもう少し借りを返す意味でも、今の優珠希ちゃんが言った事をどこかで使わせてもらおうと匂わせるために、お礼だけは伝えておく。
『ホントはアンタ! わたしと仲良くする気なんてなんいでしょ!』
『私は優希君の気持ちと、素直な自分の気持ちを優珠希ちゃんに伝えただけなのに』
 まあ好きな人を引き合いに出すような事は私は、したくないけれど、一つの選択肢として覚えておくことにする。
『分かった。明日お兄ちゃんを何とかしてアンタの所に行かせるから、明日一日で何とかしなさいよ! 分かったわね』
 妹さんが言いたい事だけを言って、一方的に電話を切ってしまった。


 今まで言い負かされて来ていたからか、柄にもなく初めて妹さんを言い負かせた余韻に浸りながら、妹さんって実はすごく可愛いのかもと、都合の良い事を考えながら

題名:明日のデート 
本文:優希君だけには倉本君とは何もないって信じて欲しいから、いつもの図書館の
   いつもの席で優希君を閉館までずっと待ってる  

 それでも優希君と仲良く出来ないのなら一緒の事なのだから、私の素直な気持ちを文面に乗せて優希君へ送る。その後時間も時間だからって事で、 

題名:ありがとうございました 
本文:両親に将来の福祉の事まで話したら、喜んでもらえた上にもう少し受けたら?
   とまで言ってもらえました。朱先輩に相談して本当に良かったです。本当にあ
   りがとうございました。  

 朱先輩にも今日の話の結果とお礼を送って、明日いつ優希君が来ても良いように、開館から勉強しながら優希君を待とうと思い、私の気持ちを伝えるために、明日はいて行くスカートとそれに合わせた服を選んでから、布団の中に入った。


 翌朝。昨日両親と色々話せた上に、初めて妹さんを言い負かせた余韻もまだ残っていて、体はだるかったけれど、心はスッキリとしている。
今年は空梅雨なのか今日は曇ってはいるけれど、雨の少ない梅雨の大詰めの七月の上旬。
 学校が無い分いつもよりは遅いけれど、図書館の開館には十分間に合う時間に目を覚ました私は念のため、部屋着に着替えてからリビングに顔を出す。
「あら? 今日は日曜日なのにその格好で良いの?」
 私の姿を見たお母さんが朝の挨拶も無く、昨日の雰囲気すらも微塵に感じさせることも無く、私の事に興味津々なお母さん。
「服が汚れたら嫌だから家を出る間際まではこの格好で良いの」
 昨日の時点で今日は優希君に会うって伝えてあるから、下手な言い訳はしないで開き直る。
「はいはい。今日は勉強なのよね。朝食べたら行くの? 今日はお父さん起きるの少し早いと思うわよ?」
 今日は優希君に少しでも喜んでもらいたい私の気持ちが伝わるようにスカートで行こうと思ってるのに、お父さんに見られると、悪いとは思うけれど朝から根掘り葉掘り聞かれるところしか想像できなくて、
「分かったよ。朝ごはん食べたら開館に合わせて家を出るよ」
 少しだけ忙しなく朝ご飯を食べる。
 その後一度自室に戻ってから、昨日出しておいた前回とは違う二本しかない内の、裾の部分から腰回りにかけて水色
 から群青色のグラディエーションになっているふくろはぎ位まであるスカートに薄い空色のポロシャツに紺色のタイを結んで図書館へ行こうと、忘れずにお揃いのペンをカバンに中に入れて玄関に向かったところで、
「おはよう愛……美?」
 起きて来たお父さんが、頑張って着飾った私を見て固まる。
 その時点で面倒な事になると予想した私は、
「じゃあ行くから。また夜にね」
 挨拶だけをして図書館へ向かう。


 途中マナー違反だとは分かってはいるけれど、電車内ではあるけれど優希君からの返信が無いか携帯を見るも、

題名:愛さんからのお礼っ! 
本文:愛さんからのお願いをちゃんと聞いてくれるご両親で良かったんだよ。これ
   からも何かあれば

わたしにどんどん言って欲しいんだよ。
 
 打ち間違いなのかよく分からない一文字があった朱先輩からの返信だけだった。いや、もちろん朱先輩からの返信はどんな内容の物でも嬉しいし、 

題名:集中します 
本文:これで心置きなく今日は模試対策に集中できます。

 そのまま返信してしまったくらいだ。
 だけれど、今日中に何とかして誤解を正して、すれ違いを解消して、仲直りをしたい優希君からの連絡は、妹さんを含めて、音沙汰がないのだ。
 そのまま開館した図書館に着いてしまった私は、はやる気持ちと一抹の不安を抑え込んで、不安を忘れるくらいまで集中して模試対策を進める。

 私としては集中しているつもりだったのだけれど、やっぱり優希君の事が気になって、返信も沙汰も何もない携帯を見てはため息をしょっちゅうついているからなのか、はたまた館内で携帯を触っているのを見咎められているのか、時折視線を感じる。
 そうした中、10時の開館に合わせて来てから早三時間。何度確かめてもウンともスンとも言わない携帯に完全に集中力も切らせてしまった私は、途中のコンビニで買ったお昼を、いつも優希君と二人でお昼をしていた席で、今日は一人で食べる。
 一人で食べているのが原因かは分からないけれど、最近のコンビニは美味しくなったとは聞く割には、全然美味しくもないし、味もしない。
 いつもなら蒼ちゃんと食べたりもしていたし、その時は味がどうのと言うよりは純粋に楽しかった。慶と喧嘩した時に一人で食べた時なんかも確かに味気なかったけれど、今日ほどじゃなかった。
 一人で味気ないお昼を採るくらいなら、優希君の前でおなかを鳴らした方がまだましだと思い、途中でお昼を辞めてしまう。
 別に別れたわけでもないし、喧嘩と言うケンカをしたわけでもない。ただの誤解と言うには、私も雪野さんの事があるから、決して軽くは言えないけれど、些細なすれ違いだけで味覚まで変わってしまうくらい辛い思いをするなら男の人に合わせる女の人の気持ちが分からなくはない。
「優希君は寂しくないのかな?」
 私から送った返信もないし、優希君からくれるって言ってくれていた着信もメッセージも何もない。
 無理矢理良い方向に考えれば、倉本君と喋っただけでそこまで感情をむき出しにしてくれるって言う事なんだろうけれど、今までの事を思い返すと、どうもそれだけじゃない気もする。
「ひょっとして倉本君。優希君にプレゼントの話をした?」
 にしては私は受け取ってはいないのだから、どうもちぐはぐな感想しか出て来ない。
 せっかく少しでも私の気持ちを優希君に分かって貰おうと、喜んでもらえるようにってスカートにしたのに、その優希君が私の前に姿を見せてくれない。
 優希君……私の事を大切にしてくれるって私に告白してくれた時に言ってくれたのに、私、今、すごく寂しいよ。


 私がどれだけ寂しがろうが、さほど時間は経ってないにしても館内で椅子と机を占有している以上、公共の場。
 あまり長時間無人にしてしまうのも、他の人の迷惑になりかねないからと、私の心をそのまま映したかのような鈍色の空をその頭上に、再び館内へと戻り、どこまで集中出来るかは分からないけれど、模試対策の続きを進める。

―――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――
          「ごめん……僕に愛想尽かせた?」
         不安な気持ちが先に出てしまう優希君
        「……愛美さん僕以外に好きな人。出来た?」
             考えてもいなかった言葉
        「優希君。私から一つ提案があるんだけれど」
           もっと開放の窓を大きくするために

      「……父さんは! 愛美に彼氏なんて認めないからな」

         78話  横槍と解放の窓 ~独占欲と嫉妬~
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