第69話 親友のカタチ ~ 友達のカタチ ~ Aパート
文字数 8,034文字
結局後輩二人が試験前で余裕が無いと言う事もあって、お茶会は試験後に改めて開催する事になった。
私がテスト勉強を一緒にしようかとも提案したのだけれど “そんな事をしたら、絶対にテスト勉強どころじゃなくなります” とは中条さん談。
私としては、私に懐いてくれた後輩がそう言ってくれるのはすごく嬉しいのだけれど、そんな集中力で大丈夫なのかなって少し心配しながら、彩風さんの方はむしろ倉本君と一緒に勉強する口実にもなって良いのかななんて考えて、大した心配もせずに園芸部の活動場所に足を向ける。
「今日はしっかりと雑草抜いて綺麗にしとくさかい、来週まで力強う生きなあかんで」
私の予想通りと言うか、期待通りに御国さんが一人で活動していた。
「こんにちは。今日も一人で活動?」
そんな御国さんに出来るだけ優しく声を掛けたつもりだったのだけれど、
「あ。親切な先輩。今日は違うんです。ちゃんと先生に許可も取ってます」
何かの強迫概念でもあるのか、慌てだす御国さん。
「そんな慌てなくても、びっくりしなくても大丈夫だから。私もちゃんと先生に許可取って来てるし」
私はそう言って御国さんに笑いかける。
「なんか二年の役員の人とえらい空気ちゃいますね。部活は
絶対に
あかん言うて聞いたんですけど」「そんな事無いよ。さすがに毎日は無理だけれど、先生に申請したら多少は許可が下りるはずだから」
今日みたいにねっと付け加える。
その後も私の方を物珍しそうに見てくる御国さんに
「今日も一人なの?」
「はい。もう一人は今日はお兄さんと一緒に帰る言うてました」
妹さんの事を聞くも、優希君と一緒に帰ったと言う。
雪野さんとじゃないからまだましだけれど、私に一言誘いの言葉があっても良いと思うくらいは良いよね。
「それで一人でしているの?」
御国さんのゴム手袋……の中に軍手をしているみたいだ。
「はいそうです。明日から一週間は活動でけへんやろうし、今日中にある程度の雑草くらいは取っとこう思いまして」
それならばと昨日怪我をしていた事も知っていた私は、昨日出来なかった分と合わせて御国さんを手伝う事にする。
そして一通りを終えて、燃えるゴミとして袋にまとめて片付けた後、
「ほんまに助かりました。これでウチも心置きなくテスト勉強に集中できます」
向かった先の手洗い場で頭を下げてお礼を言われる。
「気にしなくても良いよ。それより、模試の方結果出ると良いね。後、もう一回昨日の怪我の方も見せてね」
「先輩。面白くてええ人ですね。やっぱり」
私は御国さんのお礼に対して普通に返事をしたつもりだったのに、よっぽどおかしかったのか
「ウチにそんなやって優しくしてくれる先輩は岡本先輩だけです」
そう言って、ウチは訛りが強いからなぁと軽く自嘲した後、
「それに模試は三年だけで、一・二年は普通の定期テストです」
今度は軽く笑いながらの指摘……に、私の頬が少しだけ熱を持つ。
「そうなんだ? 今回からって先生が言ってたから、全学年そうだと思ってた」
さっきの電話で一緒にテスト勉強をするって事になっていたかと思うと、延期で良かったのかもしれない。
あ。でも今話して知るわけだから、どっちでも一緒なのか。
「逆にウチは三年の定期試験が模試やって友――親友から聞いてびっくりしたくらいですし」
確かに一・二年からしたらそうだろうなって思う。私だって始め聞いた時は少しびっくりしたくらいだから。
「それとごめんなさい。先輩の気持ちは嬉しいんですけど、親友が “言葉だけの
オンナ
の言う事なんか簡単に信用したら駄目よ” って言うて、改めてしっかり手当てしてくれたんです」そう言った時の御国さんの表情が、優希君が妹さんの事を想った時に浮かべるような優しい表情に変わる。
それだけ御国さんもまた優珠希ちゃんを信用しているのがよく伝わる。
何となくだけれど、この二人の間に入るのは、ためらいを感じる。
私と蒼ちゃんの関係もそうありたいように、間には何も入れたくも入って欲しくもない間柄。
丁寧に施された手当ての痕から、優珠希ちゃんの意思が見て取れるような気がする。
「……その代わりって言う訳やないんですけど、今度良かったらウチの家お花屋さんやってるんで、親友が場所も知ってますし、良かったら二人で遊びに来てください。お手伝いでウチも
妹さんと二人かぁ。日曜日ものっぴきならない事情があったとは言え、約束をすっぽかした事になってしまったし、結構厳しいかもしれないなどと考えていると、
「ウチの親友めっちゃ優しいし、ええ子やから、先輩とすぐに仲良くなれますって」
私の背中を押してくれる御国さん。
「分かったよ。また考えとくね」
私の笑顔に嬉しそうに、
「ほな約束ですよ。また親友にも声かけときますんで」
妹さんへの伝言を言った後、
「ほなウチ家帰ってテスト勉強しますんで、今日はホンマにありがとうございました」
見送る私に何度も頭を下げて、御国さんが帰って行くのを見届ける。
御国さんが帰るのを見届けてから、私はどうしようかと迷いもしたのだけれど、中途半端な時間と言う事もあって、家に帰るんじゃなくて試験勉強を少しでも進めてから帰ろうと、一度お手洗いに寄ってから図書室の方へ足を向ける。
試験前、ひいては私たち受験生にとってはとりわけ今回の試験は志望校の合格判定から具体的な進路の決定にも繋がるとあってか、いつもの定期試験よりも図書室の利用生徒は多い。
妹さんかどうかは分からないけれど、今度は返却カウンターに置かれた難関私立大学の赤本を横目に、私は空いている席を探して、無意識にとでも言うのか、いつもの奥の方の机に向かうと
「……」
よく見知ったクラスメイト、実祝さんが一人机に向かっている姿を見つける。
クラスメイトは少し教えてもらっただけで、ちょっと説明しただけで何でも分かるかのような言い方、実祝さんの場合は逆にそれすらも説明しないなどと難癖をつけられているけれど、実際は毎日の積み重ねが無いと、一回聞いて一回の説明で分かる程、この進学校の授業は容易ではないと思う。
だから本音を言えば私も、実祝さんに好き勝手な事を言うクラスメイトには、たくさん言いたい事はたまっている。
私が色々考えている間に私の視線に気が付いたのか、それともあまりに長く見過ぎていたから、必然的に実祝さんが顔を上げる事になったのか、顔を上げた実祝さんと視線がぶつかる。
「……
え
?」顔を上げた先に私がいるとは思わなかったのか、普段はさほど大きく表情を変えることの無い実祝さんの表情が驚きに染まる。
私は実祝さんと一緒に勉強しようか一瞬迷ったのだけれど、私は蒼ちゃんに対してした実祝さんの行動に私はまだ納得していない。それに
――実祝さんとの事をそこまで真剣に考えてくれるのなら、
実祝さんの事をこの後も任せるから――
今、懊悩している咲夜さんには実祝さんと言う
友達
が絶対に必要な気がする。「……愛美……」
これで今、咲夜さんの心のほとんどを占めている懊悩を無くすことが出来なければ、私は数少ない友達を二人もいっぺんに失くす上に、私はもう二度と立ち直れないだろうなと、それでも心を鬼にして実祝さんの前から踵を返す。
「……」
私の気持ちはとても辛かったけれど、それ以上に実祝さんも辛いとは思う。
それでも私はあそこまで真剣に悩めるのだったら、実祝さんを任せられると思ってお願いをしたのだ。
だったらやっぱり最後まで実祝さんを咲夜さんを信じて任せたい。
私は自分の気持ちを胸に、違う席を探してそこでノートと参考書と教科書を広げる。
そこそこ図書室内の席が埋まっている事も助けてか、実祝さんが私の所に来ることも、私に声を掛けて来る事も無かったし、逆に実祝さんに悪意を持った言葉をかけてくる生徒もいない中で、模試対策を進めた。
図書室で模試対策を始めるのが遅かった分、部活終了時間から最終下校時刻までの間も、明らかに生徒数の減った図書室内で模試対策を続ける……実祝さんを意識しながら。
そして最終下校時刻の予鈴が鳴ったのを受けて、私は下校の準備を始める……のに合わせて、いや時間的には同じようなタイミングにはどうしてもなるのだけれど、実祝さんの方も準備を始めたみたいだ。
私は実祝さんを待たずに昇降口まで来たところで、時間ギリギリまで戸塚君と一緒にいたのか、それにしては部活棟の方から、一人でこっちへ向かってくる蒼ちゃんに少しだけ違和感を感じながら、蒼ちゃんに向かって私の存在を知らせるように手を振る。
私の姿を見つけた蒼ちゃんが、元気のなさそうだった表情を一瞬私から視線をずらして、驚いた後、安心した表情を浮かべて
「ひょっとして愛ちゃん。今まで試験勉強してた?」
駆け寄って来てくれる。
今日も暑かったからなのか、少しだけ衣服を乱した蒼ちゃんに
「うん。もう模試直前だからその対策をね」
本当は目と鼻の先にある保健室で蒼ちゃんの事について話していたんだけれど、一旦その事は伏せておく。
「一人で? それとも夕摘さんと?」
そして私の目を見ながら蒼ちゃんが確認をして来たから、
「ううん。一人でだけれど……」
私が答えると同時に
「そうなんだ……」
私から視線をずらしてとても残念そうに言ったから、その視線を追うように後ろを振り返ると
「愛美……」
力なく私の名前を呼んで、かつての激情の残滓はどこにも見当たらなくて、寂しそうに瞳を揺らしつつ私と蒼ちゃんを見つめてから、靴を履き替えて独りで実祝さんが下校して行くのを見送る。
「愛ちゃん。蒼依と一緒にお話ししながら帰ろう?」
「うん。分かった」
蒼ちゃんのお願いを聞けていない現場を見られてしまった私は、何の言い訳も思い浮かばない、自己弁護すら思い浮かばないまま、それでも蒼ちゃんと一緒に帰る事にする。
「……愛ちゃん蒼依とのお話。覚えてる?」
帰り道気まずい空気の中で、初めに蒼ちゃんが口を開く。
「まあ……覚えてはいるよ」
どうしても後ろめたさが勝ってしまい、歯切れが悪くなる。
もちろん私自身にもさっき思ったような考えはある。だけれど、それと蒼ちゃんのお願いを聞いているかと言う問いにはイコールにはならない。
「じゃあ蒼依が言った事も覚えてる?」
思い出す暇もなく、もう既に目に涙を浮かべた蒼ちゃんが私の方を見る。
「覚えてるけれど、実祝さんの事は咲夜さんに任せるって――」
私が口にしようとした言葉は、蒼ちゃんが顔をうつむけた事で、簡単に止まってしまう。
「蒼依はちゃんと、夕摘さんは愛ちゃんからの言葉、ううん、赦しの言葉を待ってるって言ったよ?」
蒼ちゃんと二人きり、ゆっくりと歩く下校路、私は何も言い返せない。
「愛ちゃんの事だから、咲ちゃんの事は薄々でも気づいているんだよね? それでも咲ちゃんとは喋ってるよね。でも夕摘さんと喋らないのはどうして? 咲ちゃんと夕摘さんとの違いはどこなの?」
その上、目に一杯の涙を浮かべて、私に答え辛い事を聞いてくる。
「……違いって言うか……咲夜さんが迷っているからその相談に乗ってるって言うか……」
本当は咲夜さんがこれから何をしようとしているのかを、少しは話した方が良い気がするのだけれど、
それもまた言える雰囲気じゃないと言うか、今はそう言う話じゃないと言うか……。
蒼ちゃんが傷つくと分かっていて尚、傷つけたからだとは、人のせいにしているみたいで口に出来ない。
私が正直に言えないで、完全に答えに窮していると
「愛ちゃんの事だから、蒼依の事を第一に考えてくれているからなんだよね」
ほとんどズバリを言い当てられてしまう。
蒼ちゃんと昇降口の所から、一緒に下校を始めてからこっち、私は反論どころかほとんど口を開く事すらも出来ない。
そして私に
だけ
蒼ちゃんは厳しい。「蒼依がパティシエを目指す理由、愛ちゃんは覚えてくれているんだよね?」
もちろん私が忘れるわけはないんだけれど……今の状況、今日の私の行動を振り返るととても口にしにくい。
中々口を開けられない私を見て、蒼ちゃんが一度足を止める。
「覚えてるなら、ちゃんと口に出してよ。愛ちゃん」
夕陽によって照らされた蒼ちゃんの涙を正面に、私は重い口を開く。
「甘いお菓子を食べるとみんな笑顔に、幸せになれると思うから」
私の答えに、覚えていると分かってはいても、とても嬉しそうにする蒼ちゃん。
だからこそ、蒼ちゃんならではの厳しさが際立つ。
「だから蒼依はあの日、みんなで仲良く幸せに、笑顔になろうと思ってあのクッキーを作って……結果はとっても辛くて悲しかったけれど、愛ちゃんに
だけは
伝わってると思ってたのに……」私は蒼ちゃんの厳しさに耐えられずに声を上げる。
「そんな蒼ちゃんの気持ち、想いを実祝さんは踏みにじったんだよ。そんなの私、許せるわけ無いよ……」
今でもあの時の蒼ちゃんの悲痛な声、言葉を思い出そうとするだけで目に涙が浮かぶ。
「愛ちゃんが蒼依の事を一番に想ってくれる気持ちは本当に伝わってるし、とっても嬉しいのは本当。でもね愛ちゃん。愛ちゃんが蒼依の事を想ってくれてるその気持ちで、蒼依のお願いの笑顔、幸せを叶えてくれてる友達、いる?」
私に問いかけてそのままゆっくりと歩き始める蒼ちゃん。
私は胸が詰まる想いで蒼ちゃんの背中を追いかける。
「蒼依に向けてくれる優しさのほんのちょっとで良いから、夕摘さんに向けてあげるのはどうしても、ダメなの? 咲ちゃんに対する広い心のほんの少しで良いから、夕摘さんと共有するのは駄目ダメなの?」
前を向いてゆっくり歩く蒼ちゃんが、すぐ後ろを歩く私に言葉を投げかけてくる。
私は蒼ちゃんからの問いかけに何一つ答えられない重圧、いや、罪悪感から足を止めそうになったところで
――ケンカなら思いっきりして頂戴。だけど最後はちゃんと祝ちゃんと
仲直りをして愛美ちゃんの親友と一緒にまた遊びに来てね――
お姉さんとの電話を思い出す。
だから私は勇気を出して蒼ちゃんの横に並ぶ。
「私は今、実祝さんとケンカしてる。教室内では実祝さんに対して微妙な空気になっているけれど、あくまで私は実祝さんとケンカをしてる。それから微妙な空気の方は、ちゃんと咲夜さんに任せてる。そして実祝さんと咲夜さんは少しずつだけれど仲良くなってきてるから、私も実祝さんの事を咲夜さんに任せられるって信じた。前に蒼ちゃんに言ったけれど、咲夜さんは今ものすごく迷ってる」
そしてその迷いは、私の願望も入ってはいるんだろうけれど、日に日に大きくなっているように思えて仕方がない。
「私は、咲夜さんが迷いを振り切るのには、実祝さんが絶対必要だと思う」
実祝さんの事をあれほど真剣に考えられるのだから。
「だから私はよっぽどの事が無い限り、口出しも、行動もしないって決めてる」
二人を信じたからこそ、私は実祝さん
と
ケンカしている事を改めて蒼ちゃんの前で口にする。もちろんこう言い切れるのも、あの日電話でお姉さんが喧嘩したときの心の状態を教えてくれたからだ。
「……分かった。愛ちゃんの喧嘩には蒼依からは口出しはしないようにするね」
「……それにしても今日、暑くない?」
蒼ちゃんの空気が緩んだことで、夏間近にも関わらず、半そでに変える気配のない蒼ちゃんに探りを入れるも
「愛ちゃんの喧嘩には口を出さないけれど、夕摘さんに優しくしてくれるまでは、蒼依は何も言わないよ」
蒼ちゃんはそう言って、左手首を右手でつかみ、ブラウスが間違ってもずり上がらないようにしてしまう。
それはつまり前腕以上は見せないって事で、治ってるにしても、治ってないにしても、これだけ緘口令みたいな状態になってしまってる分、余計に下手な事は言えないし、保健の先生に “配慮” を求めて良いのかどうかすらも判断できない。
「……」
再びお互いに無言の空気が流れる。
「蒼依は前みたいに愛ちゃんと夕摘さんで仲良くして欲しいだけだよ」
蒼ちゃんはどうしてそこまでして私と実祝さんにこだわるんだろう。咲夜さんを視野に入れないようにしている気もするし。
それに、蒼ちゃんと私の仲に実祝さんは関係ないはずなのに……もちろん実祝さんとも咲夜さんとも今は友達だって言えるから関係ないって言うのは少し冷たいかもしれないけれど、私の中では朱先輩と蒼ちゃんだけは本当に特別なのだ。
「私は蒼ちゃんにとって友達? 親友?」
もちろん普通はこんな事は聞かないし、そもそもお互いにそう認識していたら、聞いたり言葉にしたりするような事でもないから、こんな事を言い出す私がおかしいのは間違いない。
それでも放課後の園芸部で御国さんが、優珠希ちゃんが手当てしてくれた傷跡を手でなぞりながら親友と優しい表情で言っていたのを意識してしまってはいる。
もちろんそれもまた意識したり、他者が関係する話でもないから私の思考もまたずれているのも分かってはいる。
だけれど、あの優珠希ちゃんの手当の痕を見て、間に誰も入れたくないであろう気持ちが伝わって来た、その気持ち自体は何となくは分かるのだ。
だって、私も蒼ちゃんに対しては同じような気持ちを持っているから。
だからどうしても変だと思っても意識をしてしまう。
「もう。愛ちゃんから蒼依 “なんか” じゃなくて親友って言ってくれたのに」
端から聞けば、明らかに私の方がおかしなことを口走ったはずなのに、蒼ちゃんは今までの雰囲気と浮かべていた涙を消して、ふわりと私に抱き着いてくれる。
「たまに愛ちゃんって甘えん坊になるよね。これは蒼依しか知らないんじゃないかな? それとも愛ちゃんに秘密を作らせてもらえない先輩さんも知ってるのかな?」
どうなんだろう。考えた事が無いから分からないけれど、私は蒼ちゃんがそう言ってくれた事が嬉しくて、蒼ちゃんの背中に手を回すと
「蒼依も愛ちゃんの事、唯一の親友だと思ってるよ。思ってるからこそ愛ちゃんに
だけ
は言いたい事、思ってる事を本音で喋るし、愛ちゃんが間違てるって思ったら蒼依はちゃんと注意するよ。それとも愛ちゃんが不安になるなら、蒼依は言うの辞め『そんなのっ!』――分かってるよ」思わず蒼ちゃんの言葉を途中で止めてしまう。
それくらいにはショックだった。
私には、私
だけ
には本音で、遠慮なしで話して欲しいって思ってたはずなのに。「蒼依は愛ちゃんと親友でとっても嬉しいから。ね?」
もう一度そう言って私から離れる。
気が付けばいつもの交差点まで来ていた。
「それじゃあお茶会の日にちと金曜日、楽しみにしてるね」
その一言でさっきの電話の事を思い出す。
本当の帰る間際とは言え、蒼ちゃんがお茶会の事を話題に出してくれて良かった。
色んな事を考え過ぎていて完全に忘れてた。
「その事なんだけれど、後輩がテスト厳しいらしくてテスト明けにして欲しいって言ってたから、今週は無理かも」
「残念だけど、こればっかりはしょうがないね。じゃあテスト終わりの楽しみにしておくね」
蒼ちゃんが苦笑いを浮かべる。
「その代わり金曜日は私の家で一緒にご飯しようね。今週はお父さんも帰って来るから、また送ってもらえるだろうし」
「分かった。金曜日の事はお母さんに夜ご飯いらないって言っておくよ。じゃあ、また明日ね」
そう言って帰って行く蒼ちゃんを、いつもの交差点から見送る。
もちろん優希君との時間はとても大切だけれど、やっぱり親友の事も同じくらいには大切にしたいし、時間の共有を私はしたいのだ。
私は蒼ちゃんと優希君、そして御国さんの事を考えて帰路に就く。
―――――――――――――――――――Bパートへ―――――――――――――――――――