第72話 近くて遠い距離 2 ~ 幼馴染 ~ Aパート

文字数 7,848文字


 今日は統括会で雪野さんをのぞいた四人で話し合いをする日だったりする。
 彩風さんは雪野さんの事を考えて交代した方が良いと言うけれど、私は今後の雪野さんの為にも交代には反対の立場を改めて取るつもりだったりする。
 優希君からは結局何も意見を聞いていないから、今日の統括会でどんな話になってどういう結論になるのかは予想がつかない。
 ただ私と彩風さんで賛成と反対派一人ずつだから、優希君の意見で決まると言っても良いとは思う。
 ただ、どうせなら優希君も私と一緒の考え方をしていてくれたら嬉しいって思うし、理由まで一緒なら私としては言う事無しだけれど、さすがにそれは無理かと思いなおす。
 私は最近疲れがたまりつつあるのか、少しだるさを覚える体を起こして朝ごはんとお弁当を作るために身支度を整えてから階下へ向かう。
 それに彩風さんと言えばと、朝ごはんの用意を制服の上にエプロンを付けながら、先日の電話での事を思い出す。

『夜分遅くにすみません。こちら彩風ですけど、岡本先輩の電話で良かったでしょうか』
 初め電話を取った時は誰かと思ったけれど、
『そうだけれど、もしかして統括会の彩風さん?』
 携帯にかけているのに、まるで家の人を相手にするかのように喋り出す彩風さんに肩の力抜ける。
『はいその彩風です。夜遅くにすみません』
 それでも彩風さんの若干力の入った喋り方は変わらない。
『そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。これは携帯で私しか基本取らないんだから』
 だから少しでも気持ちを軽くしてもらおうと、出来るだけ柔らかく喋る。
『いえ。今日は本当にありがとうございました。それとお昼はすみませんでした』
 けれど、どうやら彩風さんの方は元気がないみたいだ。
『ううん。中条さんも私を頼って嬉しかったよ』
 彩風さんには言えないけれど、あの時電話が無かったらあの倉本くんからのプレゼントを私はどうしていたのだろうか。未だに考えても答えが出ない。だからあの時の電話は私にとっても渡りに船と言うか、本当に助かったのだ。
『……岡本先輩。中条さんと連絡先の交換してたんですね』
 何と少しずつ硬さが取れそうな気配がする。
『ちょっと前に雪野さんの事で、中条さんの話を聞いた時に流れでね』
 その後もう一回今度は三人でお茶しに行ったのは、言わなくても大丈夫かな。
『なんでそんなに短い間に仲良くなってるんですか?』
 だけれど、彩風さんから何故か不満の色を感じる。
『仲良くって言うか、中条さん良い子でしょ』
 すぐに彩風さんの助けに私の所へ連絡してくるくらいだから。
『そうですけど。アタシだって色々頑張って努力してるのに』
『分かってるって。あの日も彩風さんがちゃんと統括会の意味をを分かってくれてる事も、倉本君が言ってくれてる事も分かってくれてるって言う事もね』
『……だったら。アタシも岡本先輩の事、愛先輩って呼んでも良いですか?』
 そうか。不満があったのはそっちの方なのか。私に懐いてくれる後輩が可愛く思えるのだから、私も現金だなって思う。
『もちろんだよ』
 私は電話口で彩風さんに分からないように苦笑いをこぼす。
『じゃあ明日からそう呼ばせてもらいますね』
 私の返事を聞いた彩風さんが、いつもの感じに完全に戻る。
『それにしてもアタシが思ってる以上に先輩と中条さんって仲良くなり過ぎじゃないですか?』
『そんな事無いと思うよ? これが普通だと思うけれど』
 なんで私相手に対抗心を燃やしているのか。そんな事しなくてもどっちも私にとっては可愛い後輩には変わりないのに。
『それよりも。今日のお昼は大変だったね。あれから休み時間とか、放課後とか大丈夫だった?』
『はい。休み時間とかは中条さんが来てくれて……愛先輩の話をいっぱいしてました』
 心配の方はいらなさそうだったけれど、可愛い後輩から愛称で呼ばれるのはなんだかむず痒い。
 それに私の話って言うのもちょっと気になる。
『私の話をしてたの?』
『はい。なんでも、もう一人の先輩と一緒に女子会をしたとか、その時の友達はすごく仲が良さそうだったとか、実は愛先輩は空木先輩の事が、つ……お付き合いしてるとか』
『その話、他のクラスの人には聞かれて無いよね?』
 いくら面識が無いとは言っても、優希君との話を聞かれるのは恥ずかしい。
『聞かれては無いですけど、アタシも、もう知ってるんですからそんなに恥ずかしがらなくても』
 電話口で彩風さんが笑うのが伝わって来る。
『彩風さんも倉本君とお付き合いすれば分かると思うけれど、結構恥ずかしいよ』
 私は分かって貰うつもりなのと、倉本君との仲を励ますつもりで言ったのだけれど、
『……そうなりたいんですけど、無理かもしれません』
 彩風さんの声が弱々しくなる。
『どうして? 今日一緒に帰ったんだよね?』
 倉本君にメッセージを送って、帰りは倉本君に彩風さんの事をお願いしたはずだ。
『一緒には帰ったんですけど……今日のお昼、愛先輩は倉本君とお昼してたんですか?』
 倉本君……よりにもよって彩風さんに話したのか。
 本当に彩風さんの気持ちに気付いていないのか、それとも困りはするけれど私に本気なのか。
『お昼は一緒にしてたよ。彩風さんも呼びたかったんだけれど、電話に出なかったって倉本君が言ってたから』
 まあ、あの男子とあれだけの言い合いをしていたら、電話に出る事なんて出来るわけ無いけれど。
『なんかせっかく愛先輩と良い所だったのにって文句を言われてケンカになっちゃって……』
 そう言って弱々しい声の後に、大きくため息をつく彩風さん。
 今日はこの話をしたくて彩風さんは電話してきたのかもしれない。
『なんか色々と誤解してそうだけれど、全然良い所じゃなかったよ。彩風さんもいなくて話も弾んでなかったし』
 嘘は言ってない。倉本君は緊張して言葉少なだったし、あの紙袋を渡されてからは私も返事にも行動にも窮していたし、間違っても弾んではいなかった。
 なのにどうして倉本君は彩風さんの前で、彩風さんが一番辛い事を言ってしまうのか。
 前にも思ったけれど、回りの人間を大切にしてくれない人には私はなびかない。だからって彩風さんの前ではそんな事は言いはしないけれど。
『愛先輩の気持ちは分かってるんで、誤解も疑いもしてないんですけど……アタシってやっぱり清くんの目には可愛く映ってないのかなって思っちゃって……アタシも愛先輩みたいに可愛くなりたいです』
『いやそんな事無いって。私より可愛い子なんていっぱいいるって』
 優希君は私の嫉妬するところも含めて嬉しい、可愛いって言ってくれるけれど、他の人からは言われたこともないし。
 言われたとしても同性にしかほとんど言われてもないし。
『でも中条さんが、愛先輩が電話してる時、もう可愛すぎるって言ってました。あとその時、愛先輩の友達も乙女だって言ってたんですよね?』
 いやまあ蒼ちゃんもそう言ってくれるけれど、
『でも全部同性からで、男の人からは全然ないよ?』
 まあ優希君は例外として。
『でも清くんは愛先輩の事、気になってるんですから。アタシは清くんにだけ振り向いて欲しいから、清くんに気に入ってもらえるように、愛先輩みたいに可愛くなりたいんです』
 なんかもう彩風さんの気持ちを聞いていると、胸が切なくなる。
『大丈夫だよ。彩風さんは絶対に可愛いって。私が保証する。だけどそれじゃあ彩風さんも心配なんだよね。だから明日か明後日にお昼一緒に食べよっか。その時作戦会議しよう』
『ありがとうございます! それじゃあ明日はお弁当今から作れないんで明後日の金曜日のお昼楽しみにしています!』
 そんな可愛い後輩が私に相談して来てくれたんだから力になりたいに決まってる。
『じゃあまた金曜日の日にね』
 倉本君の言葉と言うか、行動にちょっと物申そうと心の中で決めて、彩風さんと金曜日の約束をしてしまう。
『今日は助けてもらっただけじゃなくて、相談にも乗ってくれてありがとうございました』
『それくらいなら大丈夫だから。だから彩風さんは可愛いって自信持たなきゃダメだよ』
 そう言ってもう一回励まして彩風さんとの通話を終えた。

 一昨日の電話の事を思い出しながら、お弁当と朝ご飯を一通り作り終える。
 しかし、倉本君は確かに指導者としてはすごいかもしれないけれど、それだけでは女の子はやっぱり幸せにはなれない。やっぱりお互いの事を大切に思ってこそ幸せになれると私は、思う。
「ねーちゃんおはよう。今日は勉強する日だよなー」
 一通りを考え終えたところで、今日も慶が起きてくる。
「毎日確認しなくても変わらないから安心しなって。後ご飯できてるから顔洗っといで」
「んー」
 慶の方もまだ頭が起きてないのか、返事がすごく眠そうではある。
 先に食べ終えていた私は、今日はいつもより体がだるいから、ゆっくり時間をかけて登校しようと、少し早い目に家を出る事にする。
「あれ? ねーちゃんもう行くのかよ」
 いつもより早い時間、慶がいぶかしんで来る。
「ちょっと体がだるいから、早い目に出てゆっくりしようと思って」
「いや体がだるいって大丈夫なのかよ。今日は休んだ方が良いんじゃね?」
 慶が心配してくれるけれど、今までにない事だからか何だか気持ち悪い――言葉悪いけれど。
「休んだら今日の勉強会無くなるけれど良いの? 蒼ちゃん来なくなるよ?」
「……」
 私の質問に固まる慶。
「だから大丈夫だから。それに今日はお父さんもお母さんも帰って来てくれるから、帰ってからはゆっくりさせてもらうし」
 慶の大好きな蒼ちゃんが来るんだから、休めるわけ無いっての。
「んじゃ先に行くから、戸締りだけはちゃんとしてよ」
「分かったって」
 慶のぞんざいな返事を背に登校する。


 本当に心と体の両方で学校で授業を受ける方が楽だと感じているのか、ダルさを感じていた体が学校へ近づくに連れてシャキッとしてくる。
 朝早くに家を出た分だけまだ登校生徒の少ない教室の中で先に午前中の授業の準備をしていると、
「おはよう岡本さん」
 分からない所を聞く時くらいしか会話しない女子生徒が声を掛けてくる。
「おはよう。何か分からない所でもあった?」
 模試直前と言う事もあって勉強の事なのかなとも思ったのだけれど、
「今はそっちじゃなくて、月森さんの事なんだけど――」
 そう言って一度教室の出入り口に視線を向けてから、
「――あの子気を付けた方が良いよ。又聞きにはなるけど色んな話を聞くから。それにあのメガ――」
 続きを途中まで喋ったところで、本人が来たから辞めとくね。とだけ言い残して、私から離れて行く女生徒を教室のドア付近から咲夜さんが見届けていた。
 
 まだ教室内のクラスメイトが少ない事もあってか、
「愛美さんちょっと良い?」
 咲夜さんが再び私を廊下へ(いざな)う。
 そしていつもの場所となりつつある廊下の端にある階段の踊り場付近まで来たところで、
「さっきの子と何かしゃべってた?」
 咲夜さんが後ろめたそうに聞いてくるけれど、
「そりゃ同じクラスなんだからしゃべるに決まってるって」
「それってあたしの話だったりする?」
 私がそんなの口にする訳がない。
「そう言う聞き方をするって言う事は、咲夜さんの中で何か心当たりがあるって言う事?」
 さっきのクラスメイトの話から察するもそうだし、何より私は統括会に身を置いている立場で、生徒同士のトラブルの種を自ら撒くと言うのは言語道断だと思っている。
「……――……――」
 思い当たる事も言いたい事も本当はあるのだろうけれど、それほどまでに言いにくい事なのか、それとも私が聞いて

と言った事が頭に残っているのか、咲夜さんの口は動くけれどそこから出て来るのは言葉・声ではなくて、漏れ出る吐息だけだ。
 だから私の方からきっかけを作る事にする。
「咲夜さんが何も言わないなら私から聞きたい事はあるんだけれど良いかな?」
 私のたった一言に肩を震わせる咲夜さん。
「蒼ちゃんの事じゃなくて、私の事について聞きたいだけだから、こっちはそんなに構える必要ないよ」
「……こっち?」
 私からの話が一つじゃない事に驚いたのか、私を見る咲夜さんの瞳に呵責が混じる。
「私は咲夜さんに優希君の事が“好き”だって伝えているはずなんだけれど、咲夜さんは私と先生の何を勘ぐっているの?」
 厳密に言うと、この話も私の事

の話ではない。
 本当にちょうど一か月前の今日。6月3日(水)に実祝さんも含めて三人で女子会をした時に、実祝さんは言ったはずなのだ
 ――あの先生は危険――
 と。
 あの日の話は蒼ちゃんにもいて欲しかったと強く思っていたからよく覚えている。
「愛美さんの気持ちは知っている。でもあの先生どう見ても愛美さんに気があるよね――」
「――だからって面白いの? 人の気持ちをそんな風に面白がるの?」
 私は彩風さんの気持ちをほんの少しでも垣間見て、その一部だけでも分かるだけにとてもじゃないけれど面白がれない。
「面白がってる訳じゃ無いけれど、先生の事はどうするのかなって。もう卒業まで担任は変わらないだろうしクラスの中でも気にしてる人、結構多いよ」
 私と先生の間でしているやり取りはそう言う次元じゃない。
 確かに先生からは生徒に向けるものじゃない視線も感じてはいる。
 だけれど私は、咲夜さんのその言葉にどうしても{倦怠と苛立ち}の混じった視線を送ってしまう。
 咲夜さんが私のお母さんと一緒で他人の色恋・恋愛に興味があるのは分かる。
 私だって女の子なのだから、うまく行ってる話なら尚の事聞きたい気持ちもあるし、参加したい気持ちもある。
 だけれど私の気持ちは優希君にしか向いていないし、先生となんて完全に見当違いでしかない。
 だから咲夜さんに注意だけはしておく。
「私は周りがどう思おうがかまわないけれど、咲夜さん

は絶対に実祝さんの前でそれを口にしたら駄目だよ」
 特にあの日、一緒に実祝さんの話を聞いていた咲夜さんだけは。
「なんでそんな事が言えるの?」
「実祝さんが先生に対して警戒心と言うか、私と先生を遠ざけたがっていたのを覚えてる?」
 あの時実祝さんがどうして私を先生から遠ざけたがっていたのか、今なら分からないでもない。
 そしてそれは今でも変わっていないって分かる。でなければあの実祝さんの先生に対する表情の説明がつかない。
 さすがに咲夜さんには、その記憶がなかったみたいで、驚きの表情で
「ひょっとして愛美さんって全部の会話を覚えてるの?」
 私に聞いてくるけれど、そんな訳がないって言うか、無理に決まってる。
 ただあの日の会話が蒼ちゃんのクッキー事件につながるから、後付けで印象的になっただけだ。
「そんな訳ないって。たまたま印象に残っていただけだよ」
 だから思わず笑みを零しながら答えると、いくら廊下の端の方とは言え、そこそこ生徒の数も増えて来た校内で咲夜さんの表情が変わる。
「愛美さんがそこまで実祝さんの事をちゃんと見てくれているんだったら、実祝さんの気持ちなんて分かってるんじゃないの?」
 そして本当に話したかったのはこっちの方かと思わされるほどの真剣さを持って私に聞いてくる。
「前も同じような話をした時に、咲夜さんが自分にまかせて欲しいって言ってくれたんじゃないの?」
 咲夜さんの立ち位置じゃすごくしんどいのは分かるから話くらいなら、泣き言くらいなら幾らでも聞く。
 それで二人の間に信頼「関係」が生まれて、お互いに大切なものが得られると言うなら、私に協力を惜しむつもりはない。
「そうだけど、その後愛美さん、実祝さんと図書室で会ったのに避けた挙句知らんフリして蒼依さんと一緒に帰ったらしいじゃん」
 あの日蒼ちゃんに腕の事を聞いて、逆に注意されてアザの事は実祝さんと仲直りするまで言わないって言われた日の事だ。
「避けたって……ケンカしてるんだから、一緒にはしないし、ましてや一緒に帰るわけ無いと思うんだけれど」
 だから当然の行動だと言ったつもりなんだけれど、
「愛美さんいっつもそうやってケンカ・ケンカって盾にして言うけど “愛美と話がしたいけど、どうしてもあたしの話を聞いてもらえない。もう許してもらえなくても良いから、一言ちゃんと謝りたい”ってあたしに

んだよ!」
 私は咲夜さんの言葉を聞いて嬉しくなる。
 ――嫌な気持ちの後に仲直りが出来れば、必ず得られるものはあるから―― 
 私は実祝さんのお姉さんの言葉をもう一度胸に
「私は実祝さんからまだ納得の行く説明も受けてないよ」
 もう一度咲夜さんに同じように返す。
「それも聞き飽きた。あたしが何を言ってもケンカ・ケンカ……そして二言目には説明説明……色んな考え方や《視点の違い》にも気付けてみんなの事が分かってる愛美さんが、こんなに頑固で頭が固くて意地っ張りだとは思わなかった」
 私は咲夜さんと実祝さんの為を思って行動しているはずなのに、咲夜さんから思いも寄らなかった事を言われて、カチンと来てしまった私は
「意地っ張りって言うけれど、咲夜さんの方こそ優柔不断すぎるんじゃない?」
「なっ?!」
 咲夜さんの驚きには取り合わずに言葉を並べ立てる。
「大体実祝さんの事を任せて欲しいって自分から言っておいて、何かある度にあたしじゃ無理、あたしじゃ無理って任せて良いのか、駄目なのかはっきりしてよね」
 咲夜さんの懊悩も分かるから話を聞くだけはいつでも聞こうと決めてたのに、よりにもよって意地っ張りって。
 意地っ張りで人の話なんて聞けるかっての。
「それを言うなら愛美さんだって親友だって言ってる蒼依さんの言葉にだって耳を傾けて無かったじゃん! ちょっとは優柔不断だって言うあたしを見習って、周りの意見を聞いて迷いを見せた方が可愛いんじゃない?」
 そして私に全く遠慮する事無く

弁を立ててくる咲夜さん。
 何が迷いを見せた方が可愛いだよ。可愛く思ってもらうのは優希君だけで良いんだっての。なんか久々にムッカついてきた。
「そんな事、咲夜さんに言われるまでもなく、優柔不断にならないくらいには周りの意見は十分に聞いてますぅ。咲夜さんこそ有言実行。実祝さんを任せてって言ったんだから、自分の言った事くらい意地を見せてよ」
 だから皮肉をたっぷりと込めて言い返してやる。
「愛美さんこそ、あたしに友達だからいつでも電――」
 いつの間にかそれだけ時間が経っていたのか、咲夜さんが言いかけた所で、午前の授業の予鈴が鳴り響く。
 気が付けば周りに全く人がいなくなっていた廊下端の階段の踊り場。
 言われっぱなしだと気が済まなかった私は
「分かったよ。咲夜さんがそう言うなら意地っ張りで良いよ。その代わりとことんまで意地を張らせてもらうから」
 一言最後に言ってから教室に戻ろうと足を踏み出したところで
「あたしはあたしで意地なんて張らずに、相談しながらやって行くから」
 咲夜さんが後からまだ私に言い返してくる。
 まじめな話をしていたはずなのに、どうしてこうなったのかと思いはするけれど、最後に聞いた咲夜さんの言葉に小さく笑みを浮かべる。
 私は喧嘩して本当なら気まずい空気になるはずの中、何故かいつもよりスッキリした気持ちで午前の授業に挑む。
 さすがに次は冷静に話をしようと心の中で決めてから。


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