刺客の襲撃(4)

文字数 1,576文字

 僕は、彼女らのリーダー格、エレクトラさんに尋ねた。
「全て、あなた方のせいだったのですね?」
「フフ、不思議探偵、橿原幸四郎にしては、気付くのが遅かったわね……」
 エレクトラさんはそう言うと、残念そうな表情で笑みを浮かべた。

「そうよ、私たちは7人でひとり。昴宿の七星。私たちは泉に若返りの力を与えられる。その若返りの温泉に浸かったことで、アナト、いえ、藤沢耀子さんは、魔法を覚える前、そして耀公主の力を譲り受ける前の、ただの人間に戻ってしまったの……」
「最初から、知ってたんですね……」
「最初からではないですけどね……、でも、おふたりは有名人ですから……。特に藤沢耀子さんは……」
 エレクトラさんたちが、耀子先輩を罠に嵌め、この(まよ)()に誘い込んで殺そうとしていたのか……。
 なんてことだ……。
 ずっと一緒にいた彼女たちが、この謀略の主犯だったなんて……。

 僕たちが会話しているのを見て、耀子先輩の本体は不満を口にする。
「そんな処で見つめ合って、なに楽しそうに半裸の姿でお喋りなんかしてるのよ! 人が本気で闘おうって云う時に……」
 いやいや、もう既に、戦いは終わってますよね?
「いいえ、これからが本番よ! 幸四郎も、少しは戦いの準備をして置いた方が良いんじゃない? 私も、あと数分しか実体化してられないしね……」
 耀子先輩の『思い出』が、僕の心の声に反論する。だが、それにしても、まだ何かがいるのだろうか?
 この僕の問いには、誰も答えなかった。
 だが、その答えはもう必要ない……。
 もう、既に(まよ)()の外形は歪み始めている。恐らく、(まよ)()を造った(もの)()が戦いに注力する為に術を解いているのだ。
 頭の潰れた刺客の死骸は、その沼の様になった畳に沈み込む様に飲まれている。

 耀子先輩の本体は、満足そうに舌舐りをしながら笑みを浮かべていた。
「最高だ!」
「何がですか……?」
「久し振りに、『危険察知』の不快感を味わえたのだ!」
「なんで不快感が嬉しいんですか?」
「最近、『危険察知』の感度が著しく低下しているのだ。この程度の待ち伏せでは、新刊コミックの発売日を忘れ、買い損なったのと大して変わりがしないのだ……」
 どう云う例えなんですか……?

 耀子先輩の本体と、掛け合いをしている間に、(まよ)()は白い霧となって消えていく。そして、先輩の『思い出』も同じ様に消えた。
 だが、な、なんとなく、(まよ)()と『思い出』って、似てる気がするなぁ……。

「初めて落とし穴に遭遇した場合、それは危険な罠になる。だが、落とし穴があることを知っていれば、危険度は低下する。そして、その設置場所も分かってしまえば、もう、それは罠でも何でもない……。経験を積んだ私には、ちょっとやそっとのことでは、危険として感じはしないのだ……」
 はぁ? そうかも知れませんけどね。

「馬鹿な兄が、余分な悪魔能力など身に付け、私にコピーさせなければ良かったのだ。そして、兄たちが『私に魔法を覚えろ』などと、私を(そそのか)さなければ良かったのだ……」
 いやいや、それ、完全に責任転嫁じゃないですか? 覚えたのは先輩。鉄男さんのせいじゃないですよね……。
 なんだか、耀子先輩、口調も変だし、発想が子供じみてきたなぁ……。

 因みに、『思い出』さんが消えたんで、ジャケット無くなってますよ……。

「来るぞ!!」
 残された耀子先輩は、楽しそうに叫ぶ。
 そして、白い霧が晴れていくと、その敵の姿がハッキリと現れてくる。
 それは……、長さ10メートル、高さ2メートルはある、四足で身体を支える、鰐の様な生物だった。但し、頭の部分は鰐でなく、竜の様な、そう……、城の天守閣にあるシャチホコに似ていた。
 これは将に、スケールこそ大分縮小されてはいるものの、怪獣映画に出てくる怪獣そのものじゃないか……。
「何物なんだ? この化け物は?」
(みずち)よ……」
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登場人物紹介

藤沢(旧姓要)耀子


都電荒川線、庚申塚停留所付近にある烏丸眼科クリニックに勤める謎多き看護師。

橿原幸四郎


烏丸眼科クリニックに勤める眼科医。医療系大学在学時、看護学部で二年先輩の要耀子とミステリー愛好会と云うサークルに在籍していた。その想い出を懐かしみ、今でも不思議探偵なるサイトを開き、怪奇現象の調査をしている。

一つ目鴉


額に目の模様のある鴉。人間の言葉を解す。

松野染ノ助


歌舞伎役者。名優、松野染五郎の息子。

白瀬沼藺


藤沢耀子の高校時代の友人。通称シラヌイ。

橘風雅


シラヌイちゃんの義理の妹。姉を慕う元気な少女。

政木の大刀自


シラヌイちゃんの身内の老女。

橿原由貴子(ユキンコ)


耀子の姪、新田有希の体の一部から再生した分身体。悪魔としての基本能力と読心の特殊能力を持つ。また、再生段階で妖怪の遺伝子を取り込んだらしく、人の死の予知と、その能力の与奪の力があるらしい。

昴宿七星


七人で一人、一人で七人の神に近い存在。彼女らの浸かった泉や温泉は、若返りの効果を持つと言われる。

万場百


白瀬沼藺の養女。元々番所に届けられた捨て子だったのだが、政木の大刀自の命に由り、沼藺が育てることになった。通称バーミリオン。

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