新たな反乱(2)

文字数 1,442文字

 耀子先輩はこのような事態にも関わらず、慌てることもなく少女に尋ねる。

「『オサキの里を吸収』って、具体的に、どう云うことかしら?」
「いくつもあるオサキの里に攻めいって、味方をするかどうか、決めさせるの! 味方をするなら、村の人全員を進行軍に合流させ、味方をしない場合は……」
「しない場合は?」
「村の人を縛り上げたまま、村に火を点け、焼き払うらしいの……」
 なんてことだ。染ノ助君はそれを聞いて、口に手を当て言葉もない。

「で、それをバーミリオンは、何処で聞いたのかしら?」
「逃げた人が、政木屋敷に訴え出たのよ」
 だとすれば、政木軍が程なく鎮圧するだろう。悲しいことだが……。

「でも、政木の侍狐が……」
「どうしたの?」
「政木の侍狐が、それを取り上げず門前払いしたの……。反乱を拡大させ、オサキを一掃させる為に……」
 そ、そんな馬鹿な……。意味が分からない。そんなことが、有り得るのだろうか?

「偶然、屋敷から出ていた私は、二股に割けた尻尾を持っていたので、その人に信用され、話を聞くことが出来たのよ……」
「で、どうしてそれを私に? 沼藺や大刀自に知らせるのが筋じゃない?」
「知らせたよぉ~。でも、おばあ様も、母様(ははさま)も、信じてくれないんだよ!」

 耀子先輩は静かに笑った。
「私も信じないわ……。正直、貴女の話はおかしな点が多すぎる。さ、本当のことを言いなさい。どう云うことなの?」
 なんだ……。びっくりした。
 この子の嘘だったんだ……。
 少女は下を向いたまま黙っている。

 シラヌイちゃんの名前が出たことで、僕は少女を何処で見たのか思い出した。彼女は、シラヌイちゃんの写っていた写真に一緒に写っていた子だ。
 僕は、その写真に関して、何かあった様な気がするのだが、良く思い出せない……。

 ところで、2人の会話を聞いていると、この子はシラヌイちゃんの娘の様に聞こえる。
 シラヌイちゃんって若く見えるけど、考えてみれば耀子先輩と同い年なんだよなぁ~。確かに娘がいても不思議はないのだが……。

 その時だった。トンネルから先程、村の入り口で先輩と話していた老人が慌ててこちらに走ってくる。
「奥様、ま、真久良様が……。真久良様が蘇って、政木打倒を宣言し、政木屋敷に進行をしているとの連絡が……!!」
 そ、そんな……。嘘から出たまこと?
 それとも、この子は、予知能力を持っていて、反乱軍の決起を予知していた?

「バーミリオン! 貴女、正直に言わないと、怒るわよ!!」
「あ、あの~」
 バーミリオンと呼ばれた少女は、下を向いたまま、ボソボソと話し出す。
「私の処に手紙が来た……。真久良から。反乱を手助けする様にって……。それには、おばあ様と母様(ははさま)を殺して来いと書かれていた。私はオサキだから、政木にはなれないし、誰からも信用されないって……。オサキが普通に暮らせる世にするためには、政木を倒して、オサキの国を創るしかないって……」
 耀子先輩は微笑んでいる。
「で、あなたはどうなの? 政木を倒して、オサキの世にしたいの?」
「分かんない……。おばあ様や母様(ははさま)は好き。でも、政木の侍狐は大嫌(だいっきら)い。(みんな)死ねばいいと思ってる……。それに……、真久良は私の仲間……。裏切れない……」
「そうか……。辰砂(しんしゃ)だった前世の記憶が、まだ少し残っているのね」
「おばあ様や母様(ははさま)に、私が反逆者だったってことを知られたくないの……。耀子……。あんただったら、オサキを、真久良を守ってくれるでしょう?」

 シラヌイちゃんの娘が、反逆者、尾崎辰砂の生まれ変わり?!
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登場人物紹介

藤沢(旧姓要)耀子


都電荒川線、庚申塚停留所付近にある烏丸眼科クリニックに勤める謎多き看護師。

橿原幸四郎


烏丸眼科クリニックに勤める眼科医。医療系大学在学時、看護学部で二年先輩の要耀子とミステリー愛好会と云うサークルに在籍していた。その想い出を懐かしみ、今でも不思議探偵なるサイトを開き、怪奇現象の調査をしている。

一つ目鴉


額に目の模様のある鴉。人間の言葉を解す。

松野染ノ助


歌舞伎役者。名優、松野染五郎の息子。

白瀬沼藺


藤沢耀子の高校時代の友人。通称シラヌイ。

橘風雅


シラヌイちゃんの義理の妹。姉を慕う元気な少女。

政木の大刀自


シラヌイちゃんの身内の老女。

橿原由貴子(ユキンコ)


耀子の姪、新田有希の体の一部から再生した分身体。悪魔としての基本能力と読心の特殊能力を持つ。また、再生段階で妖怪の遺伝子を取り込んだらしく、人の死の予知と、その能力の与奪の力があるらしい。

昴宿七星


七人で一人、一人で七人の神に近い存在。彼女らの浸かった泉や温泉は、若返りの効果を持つと言われる。

万場百


白瀬沼藺の養女。元々番所に届けられた捨て子だったのだが、政木の大刀自の命に由り、沼藺が育てることになった。通称バーミリオン。

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