新たな反乱(3)

文字数 1,725文字

 少女は古の英雄、尾崎辰砂の生まれ変わりだった……。
 だが、彼女は迷っている。
 旧友が決起した反乱軍につくか? それとも、自分を育ててくれた母親のシラヌイちゃんにつくか?

 そして、もう1人、微妙な立場の人がいる。そう。耀子先輩だ。
 彼女は、親友のいる政木軍に加勢するのか? それとも、最初の夫のいる反乱軍に加わるのか?

 耀子先輩は少女への質問を終え、トンネルを潜ってきた老人に問い掛ける。

「長老! 反乱軍の位置と進軍速度は?」
「反乱軍は数を増やし、この村の西50キロ付近を東に進軍中です。恐らく、5時間もすれば、この村に到達すると思われます」
「明らかにこの村を狙っているわね……。で、長老はどう為さるお心算? 真久良からの使いは、もう来てるのでしょう?」
「そ、それは……」

 もし、その反乱軍が、少女の言うように村人の判断を迫っているのだとすれば、決断することは容易なことでない。味方をしなければ、村は焼き払われて、村人は全員殺されるだろうし、反乱軍に加われば、勝ち目のない戦に駆り出されなくてはならないのだ。

「耀子先輩、真久良さんに、反乱を止めるよう説得できないのですか? どう考えたって、勝ち目はないんでしょう?」
「どうして、勝ち目がないって決めて掛かるんでござんすか? 戦ってものは、やって見なければ分からねぇと思いやすけどね……」
 染ノ助君はそう言うが、どうも話の流れから、兵力差は小さくはないと僕は思っているのだが……。

「オサキの民を全て集めたとしても、一万いるか、いないかね。その中には女子供も含まれているわ。武器だって、支給されないでしょうから、あっても鍬や鋤ね。それに対し、政木軍は二万はいるでしょう。それも、全て武装した戦闘員よ……」
「だったら、奇襲戦で……」
「無理ね……。政木は強引に鎮圧したりしない。恐らく屋敷に籠って反乱軍を迎え撃つ。大将の陣を急襲することも出来ず、反乱軍の兵糧は徐々に尽きていく。そこを政木は、砲撃しながら相手を弱らせつつ、間者を忍び込ませ内部分裂を誘う。そうなると、無理矢理集められた兵よ。崩壊は、火を見るより明らかだわ」

「だったら、そう無駄だって……」
「そう……。無駄なのよ……。そんなこと、真久良が分からない訳がない。全く意味が分からない……」
 耀子先輩は考え込んでしまう。
「なんか、特殊兵器でも持ってるんじゃありませんか? 例えば、その政木屋敷って奴を遠方から狙える大筒みたいな武器を……」
 染ノ助君が意見を述べる。成程、政木屋敷から砲撃が出来るなら、反乱軍も砲撃が出来るだろう。ならば、標的が明らかな城方が不利になるのではないか?

「大筒だとしたら、海路ね。そんなもの運びながら、政木屋敷まで進軍してられないわ。でも、そんな動きがあれば直ぐに分かるし、政木も黙っちゃいないでしょうね……」
「超小型ミサイルとか、ドローンなんて武器は、この世界には無いんですかい?」
「大刀自が、兵器の輸入には消極的だからね。そんなには無いんじゃないかしら? もし、あったとしても、臨時雇いのオサキ兵に操作が出来るとは、とても思えないわ……」
「オサキ兵の中に、そんな教育を受けた職業軍人が混ざっているとか……」
 染ノ助君は、最新兵器の可能性に拘っている。確かに、今の時代にそれを使わない手はないよな。
「だとしたら、その職業軍人だけで良い筈よ。敢えて、強引なまでにオサキの民を全員引き込もうと云う意図が分からない……」

 一つ目鴉が意見を述べる……。
「その真久良って奴、偽者で、政木のスパイなんじゃないか? 真久良の名を騙ってオサキたちを集め、反乱の罪を着せた上で、全滅させようと企んでるとかな……」
 成程、それなら戦いに加わらない人たちへの仕打ちも分からないではないし、自滅への進軍についての辻褄も合う。
 染ノ助君もその意見に賛成らしく、納得の表情を浮かべていた。
 一つ目鴉は続ける……。
「その大刀自って奴や、沼藺って奴は、オサキに寛大なのかも知れないけどな、政木って処には、オサキに悪い感情を抱いている奴が多いんだろう? そいつらの内の1人が、オサキを滅ぼそうと……」

 もしそうだとすると、なんて恐ろしい陰謀なのだろう……。
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登場人物紹介

藤沢(旧姓要)耀子


都電荒川線、庚申塚停留所付近にある烏丸眼科クリニックに勤める謎多き看護師。

橿原幸四郎


烏丸眼科クリニックに勤める眼科医。医療系大学在学時、看護学部で二年先輩の要耀子とミステリー愛好会と云うサークルに在籍していた。その想い出を懐かしみ、今でも不思議探偵なるサイトを開き、怪奇現象の調査をしている。

一つ目鴉


額に目の模様のある鴉。人間の言葉を解す。

松野染ノ助


歌舞伎役者。名優、松野染五郎の息子。

白瀬沼藺


藤沢耀子の高校時代の友人。通称シラヌイ。

橘風雅


シラヌイちゃんの義理の妹。姉を慕う元気な少女。

政木の大刀自


シラヌイちゃんの身内の老女。

橿原由貴子(ユキンコ)


耀子の姪、新田有希の体の一部から再生した分身体。悪魔としての基本能力と読心の特殊能力を持つ。また、再生段階で妖怪の遺伝子を取り込んだらしく、人の死の予知と、その能力の与奪の力があるらしい。

昴宿七星


七人で一人、一人で七人の神に近い存在。彼女らの浸かった泉や温泉は、若返りの効果を持つと言われる。

万場百


白瀬沼藺の養女。元々番所に届けられた捨て子だったのだが、政木の大刀自の命に由り、沼藺が育てることになった。通称バーミリオン。

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