2度と甦らせない(1)
文字数 1,797文字
村の周囲から戦いの気配と鯨波 の声の様な叫びが聞こえる。もう、間に合わない……。
僕がそう諦めかけた時、若い女性の声が響いてきた。
「隠れていても、家に火を点けられたら助からないわ。長老の所に集まって! 私がみんなを守ってみせる! 私たちを信じて!!」
見ると、振れ回っていたのは、赤い髪をした10代後半くらいの女性だった。
当然、僕はそんな女性など、見たことはない。なのに、不思議と昔から彼女を知っている様な気がする……。まぁ、少なくとも、頭に黒い三角耳を生やして、スカートの穴から先割れ尻尾を出している女性を、僕が知っている訳はないのだが……。
それにしても……。
オサキの村人は、僕の言うことには少しも耳を貸さなかった癖に、この女性の言葉には涙を流したりして従っている。
この差はなんなんだ?
どうやら、女性はシンシアと言うらしく、村人は口々に彼女の名前を讃え、拝みながら走りだして行った。
だが、もう、反乱軍は村の直ぐそこまでやって来ているのだ。このままでは、村人が家から出て、長老の家に行く迄の間 に襲われてしまう……。
しかし、反乱軍の兵は、ひとりとして村の境界を越えて来なかった……。
僕は、何事が起こったのかを見て来ようと、村の正面、北側の門へと走った。
途中。長老の家の前には、沢山のオサキ 村の住人と先程の女性が居り、耀子先輩がその前で腕組みをして仁王立ちしている。
「耀子先輩、どうなっているのです?」
先輩は僕に気付いたらしく、こちらを向いて笑顔を浮かべた。
「取り敢えず、オサキ四狐を四方に配置して、反乱軍の突入を防いでいるわ。ま、そろそろ、村人も集まった頃だから、村に引き込んでも大丈夫だろうけどね」
オサキ四狐だって?
でも、その人たちは、『オサキ一党の乱』で、全員討ち死にした筈じゃないのか?
僕は、長老の家のずっと先にある、北門の方へと目を凝らした。すると、1人の男が華麗な体捌きで、オサキ兵数人の鍬の攻撃を防いでいる。確かに、あれは、長身の気障男、尾崎真久良……。
だが、彼は人間ではない……。
あれは……、僕たちが眺めていたブロンズ像の尾崎真久良だ……。
「あのブロンズ像は、いざと云う時使える様に、間接部分などをブロンズ粘土に近い材質にして可動できる様にした、私の傑作、ブロンゴーレムだったのよ!」
耀子先輩が、僕の後ろから、僕の肩越しにブロンズ像の説明をしてくれる。
今、恐らく先輩は思いっきりドヤ顔をしているに違いない……。
だが、柵を越えて村に入る者も出てきた。もう、四方の門を護るブロンズゴーレムだけでは防ぎ切れない……。
反乱軍のオサキ兵が僕たちの周りに集まって来た。例の銀星狐と云う奴に、皆殺しにしろとの命令を受けているのだろう。
「あなたたち、私が分からないの!!」
赤髪の若い女性が声を上げる。
その声を聞き、その姿を見た反乱軍の兵は、凍り付いた様にピタリと動きを止めた。
「シンシア様……」
彼女はオサキの人たちにとって、重要な立場の人間なのだろう。敵も味方も畏怖の表情を浮かべている。
「あなた方に命令しているのは、真久良なんかじゃないわ! 騙されないで!!」
反乱軍の兵はそれを聞いて、困惑の表情へと変わった。彼らは、安全に洗脳されている訳ではなく、恐らく判断力が低下しているだけだったのだろう。
そこに、シンシアと云う重要人物が現れ、別の意見を言ってきたので、彼らの思考は混乱状態に陥ってしまったのに違いない。
「そちらが偽者なのではないかな? 尾崎辰砂……。いや、中身は万場 百 かな?」
北門から反乱軍のリーダー、尾﨑真久良が現れ、ニヤ付きながらそう指摘する。
だが、中身は百 ちゃんって、それはどう云う意味だ?
「あんたこそ……、真久良に似たオサキ狐を見つけ、そいつに憑依して身体を乗っ取っただけでしょう?」
シンシアは、右の掌を口の前に上向きに置いて、そこに強く息を吹きかける。すると、真っ赤な火の玉が掌から浮かび上がり、真久良めがけて飛んでいく。
「それにしても、彼女は一体……?」
「あれは、私が出した『思い出』よ。百 ちゃんが闘いたいって言ったから、オサキ四狐の1人、尾崎辰砂の思い出を新たに記憶させ、実体化させて百 ちゃんに憑依させたの……」
なんだって……! あんな少女に戦わせてるのか?! それも、1日1回しか使えない『思い出』を消費して……。
僕がそう諦めかけた時、若い女性の声が響いてきた。
「隠れていても、家に火を点けられたら助からないわ。長老の所に集まって! 私がみんなを守ってみせる! 私たちを信じて!!」
見ると、振れ回っていたのは、赤い髪をした10代後半くらいの女性だった。
当然、僕はそんな女性など、見たことはない。なのに、不思議と昔から彼女を知っている様な気がする……。まぁ、少なくとも、頭に黒い三角耳を生やして、スカートの穴から先割れ尻尾を出している女性を、僕が知っている訳はないのだが……。
それにしても……。
オサキの村人は、僕の言うことには少しも耳を貸さなかった癖に、この女性の言葉には涙を流したりして従っている。
この差はなんなんだ?
どうやら、女性はシンシアと言うらしく、村人は口々に彼女の名前を讃え、拝みながら走りだして行った。
だが、もう、反乱軍は村の直ぐそこまでやって来ているのだ。このままでは、村人が家から出て、長老の家に行く迄の
しかし、反乱軍の兵は、ひとりとして村の境界を越えて来なかった……。
僕は、何事が起こったのかを見て来ようと、村の正面、北側の門へと走った。
途中。長老の家の前には、沢山のオサキ 村の住人と先程の女性が居り、耀子先輩がその前で腕組みをして仁王立ちしている。
「耀子先輩、どうなっているのです?」
先輩は僕に気付いたらしく、こちらを向いて笑顔を浮かべた。
「取り敢えず、オサキ四狐を四方に配置して、反乱軍の突入を防いでいるわ。ま、そろそろ、村人も集まった頃だから、村に引き込んでも大丈夫だろうけどね」
オサキ四狐だって?
でも、その人たちは、『オサキ一党の乱』で、全員討ち死にした筈じゃないのか?
僕は、長老の家のずっと先にある、北門の方へと目を凝らした。すると、1人の男が華麗な体捌きで、オサキ兵数人の鍬の攻撃を防いでいる。確かに、あれは、長身の気障男、尾崎真久良……。
だが、彼は人間ではない……。
あれは……、僕たちが眺めていたブロンズ像の尾崎真久良だ……。
「あのブロンズ像は、いざと云う時使える様に、間接部分などをブロンズ粘土に近い材質にして可動できる様にした、私の傑作、ブロンゴーレムだったのよ!」
耀子先輩が、僕の後ろから、僕の肩越しにブロンズ像の説明をしてくれる。
今、恐らく先輩は思いっきりドヤ顔をしているに違いない……。
だが、柵を越えて村に入る者も出てきた。もう、四方の門を護るブロンズゴーレムだけでは防ぎ切れない……。
反乱軍のオサキ兵が僕たちの周りに集まって来た。例の銀星狐と云う奴に、皆殺しにしろとの命令を受けているのだろう。
「あなたたち、私が分からないの!!」
赤髪の若い女性が声を上げる。
その声を聞き、その姿を見た反乱軍の兵は、凍り付いた様にピタリと動きを止めた。
「シンシア様……」
彼女はオサキの人たちにとって、重要な立場の人間なのだろう。敵も味方も畏怖の表情を浮かべている。
「あなた方に命令しているのは、真久良なんかじゃないわ! 騙されないで!!」
反乱軍の兵はそれを聞いて、困惑の表情へと変わった。彼らは、安全に洗脳されている訳ではなく、恐らく判断力が低下しているだけだったのだろう。
そこに、シンシアと云う重要人物が現れ、別の意見を言ってきたので、彼らの思考は混乱状態に陥ってしまったのに違いない。
「そちらが偽者なのではないかな? 尾崎辰砂……。いや、中身は
北門から反乱軍のリーダー、尾﨑真久良が現れ、ニヤ付きながらそう指摘する。
だが、中身は
「あんたこそ……、真久良に似たオサキ狐を見つけ、そいつに憑依して身体を乗っ取っただけでしょう?」
シンシアは、右の掌を口の前に上向きに置いて、そこに強く息を吹きかける。すると、真っ赤な火の玉が掌から浮かび上がり、真久良めがけて飛んでいく。
「それにしても、彼女は一体……?」
「あれは、私が出した『思い出』よ。
なんだって……! あんな少女に戦わせてるのか?! それも、1日1回しか使えない『思い出』を消費して……。