覚の住む山(1)

文字数 609文字

 出発の土曜日、神津さんは予定の時間前に現れている。これは正直、僕には意外なことで、僕は彼がこのまま逃亡し、二度と僕らの前に姿を見せることはないと思っていた。

 恐らく彼は何かを隠している。
 だが、それが何か?
 僕には分からないし、耀子先輩も気付いてないのか、あるいは、大したことではないと高を括っているらしく、敢えて彼を問い詰めようとはしていない。
 だが、(いず)れそれはハッキリする筈だ……。

 このフィールドワーク……いや、(サトリ)の説得に向かうのは、僕と耀子先輩、染ノ助君に神津さんで、一つ目鴉は海妖樹の監視の為、甘樫さんと留守番になっている。

 今回、耀子先輩の乗ってきた車は、彼女の愛車のタイカン4Sではなく、多分、藤沢家の家族旅行用であるランドクルーザー。
 耀子先輩は、染ノ助君を助手席に、僕と神津さんを後部座席に乗せると、直ぐにランドクルーザーを発車させた。
 とは言っても、彼女の到着が遅れた為、発車は予定より30分も後のことではあったのだが……。

 さて、僕たちの行く先、それは、美濃か飛騨の山奥ではないかと思われている方も多いのではなかろうか?
 確かに、柳田国男師は『山の神のチンコロ』と云う話で(講談社学術文庫『妖怪談義』より)、サトリの別名、(ヤマコ)は『飛騨美濃の奥山の中に物あり』と和漢三才図会巻の四十に書かれていると書いている(僕は不勉強なので、和漢三才図会までは確認していない)。
 勿論、その手の話は多く、山童(ヤマワロ)、山
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登場人物紹介

藤沢(旧姓要)耀子


都電荒川線、庚申塚停留所付近にある烏丸眼科クリニックに勤める謎多き看護師。

橿原幸四郎


烏丸眼科クリニックに勤める眼科医。医療系大学在学時、看護学部で二年先輩の要耀子とミステリー愛好会と云うサークルに在籍していた。その想い出を懐かしみ、今でも不思議探偵なるサイトを開き、怪奇現象の調査をしている。

一つ目鴉


額に目の模様のある鴉。人間の言葉を解す。

松野染ノ助


歌舞伎役者。名優、松野染五郎の息子。

白瀬沼藺


藤沢耀子の高校時代の友人。通称シラヌイ。

橘風雅


シラヌイちゃんの義理の妹。姉を慕う元気な少女。

政木の大刀自


シラヌイちゃんの身内の老女。

橿原由貴子(ユキンコ)


耀子の姪、新田有希の体の一部から再生した分身体。悪魔としての基本能力と読心の特殊能力を持つ。また、再生段階で妖怪の遺伝子を取り込んだらしく、人の死の予知と、その能力の与奪の力があるらしい。

昴宿七星


七人で一人、一人で七人の神に近い存在。彼女らの浸かった泉や温泉は、若返りの効果を持つと言われる。

万場百


白瀬沼藺の養女。元々番所に届けられた捨て子だったのだが、政木の大刀自の命に由り、沼藺が育てることになった。通称バーミリオン。

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