お盆の墓参り(3)

文字数 1,727文字

 染ノ助君が、鴉の騒ぎなど無かったかの様に、耀子先輩に行き先を問う。

「藤沢さん、で、私たちは、どちらへと行くんですかい?」
「お墓参りよ……」
 だが、ここは、名前こそ明かさないが、とある神社。お墓参りならお寺だろうし、移動するなら駅とかで待ち合わせた方が良いだろう。お墓参りの待ち合わせには、いまいちしっくり来ない場所だ。
 僕の怪訝そうな表情に、先輩は説明を加えてくれる。
「先生には言いましたよね。『お墓は、私たちだけでは行けない場所にある』って……。で、今回は案内をお願いしたのですよ……」

 すると、そのタイミングで、狛犬代わりの狐の石像の陰から、狐のお面を被った浴衣姿の若い女性が現れた。そして、彼女はお面を上げて顔を見せると、自分の名前を名乗る。
「風雅だよ~」
 見れば分かるって……。いや、見なくても、その声聞けば分かるよ……。
「幸四郎さん、お久し振りぃ~」
 相変わらず元気な()だ……。

 この()はシラヌイちゃんの妹で、年齢不詳の謎の女性。名前は、確か風花から橘風雅へと変えている筈だ。僕は彼女に30年ほど前に会っているから、少なくとも40は超えている歳なのだが……。
 それにしても30年振りだと云うのに、我ながら良く思い出せたものだと思う……。
「幸四郎さん、姉がお世話になりました」
 な、なんか、お世話したっけ?
姉様(あねさま)、『直接会ってお礼が言いたい』って言ってたんだけど、どうしても手が空けられなくて、私に『くれぐれも宜しく言うように』って言ってました!」
 はぁ~? ま、もう何でもいいや!

「面倒だけど、あっちに私の車を停めてあるから、みんな、それに乗ってくれる?」
「風雅ちゃん! 面倒なんて言わないの! そんなことばかり言ってると、(うち)の馬鹿兄貴みたいになるわよ!」
 風雅ちゃんを耀子先輩が注意する。ま、一応、年長者だもんな……。
「え~、有希だって、『面倒臭い』って、よく言うよ~」
 ははは、確かに、鉄男さんの娘の有希ちゃんも言っていたな。でも、耀子先輩のあの苦虫を噛み潰した様な顔。あんまり刺激すると後が怖いぜ……。
「じゃ、案内しておくんなさい!」
 染ノ助君が、ナイスタイミングで間にはいる。流石、千両役者!

 僕たちは、風雅ちゃんの車に乗り込んだ。車のガラスにはスモークが掛かっており、日光が遮られているのだが、外の景色は若干見え(にく)い。
「一応、説明して置きますが、これから風雅ちゃんの超能力で、妖怪層って異世界に移動します……」
「実は私、超能力者だったんで~す」
 なんか、風雅ちゃんが言うと、凄く嘘っぽく聞こえるなぁ~。
「でも、一応、見られると困るので、『良い』って言う迄、先生と松野さんには目を瞑ってて欲しいんです」
「成程、手品の種明かしは出来ねぇてことでやすね。分かりやした。さ、お二人での大どんでん返し、存分に……」

 僕たちは、耀子先輩の言われる儘に目を閉じた。車内空調が心地よく、心落ち着かせるBGMが流れている。車は滑らかに発車し、柔らかな振動だけが伝わっていた。
 どうやら、これが手品の種らしい。
 僕は先輩たちの手品に掛かり、一瞬眠りに落ちてしまう。ただ、僕が一瞬と感じていただけで、それは恐らく、ある程度の時間が経っていたのではなかろうか……?

「良いわよ……」
 耀子先輩の声が聞こえた。
 僕が目を開くと、窓の景色は田園風景の広がる郊外に変わっていた。もう僕には、ここが何処だか分からない。少なくとも、あの神社から1時間以内で移動できる場所ではないと思う。
「見事な場面転換でやすね。まさか舞台をくるりと回した訳でもないでしょうが……」
 それを聞いた助手席の耀子先輩は、会心の笑みを浮かべている。
「ご満足頂けたかしら? で、これから目的地に向かう前に、増長寺って云うお寺に寄ろうと思うの……」
 増長寺……?
 何処かで聞いたことがある。
「そこに、尾崎真久良さんの、お墓があるのですか?」
 少し複雑な気持ちで、僕はそれを尋ねていた。「耀子さんを、僕に任せてください」なんて言える立場でもないし、正直、耀子先輩が、その人のことを、未だ忘れられないのが酷く悔しい。

「謀反人の真久良に、墓なんか無いわよ。そこにあるのは、菅原縫絵と云う人の墓……」
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登場人物紹介

藤沢(旧姓要)耀子


都電荒川線、庚申塚停留所付近にある烏丸眼科クリニックに勤める謎多き看護師。

橿原幸四郎


烏丸眼科クリニックに勤める眼科医。医療系大学在学時、看護学部で二年先輩の要耀子とミステリー愛好会と云うサークルに在籍していた。その想い出を懐かしみ、今でも不思議探偵なるサイトを開き、怪奇現象の調査をしている。

一つ目鴉


額に目の模様のある鴉。人間の言葉を解す。

松野染ノ助


歌舞伎役者。名優、松野染五郎の息子。

白瀬沼藺


藤沢耀子の高校時代の友人。通称シラヌイ。

橘風雅


シラヌイちゃんの義理の妹。姉を慕う元気な少女。

政木の大刀自


シラヌイちゃんの身内の老女。

橿原由貴子(ユキンコ)


耀子の姪、新田有希の体の一部から再生した分身体。悪魔としての基本能力と読心の特殊能力を持つ。また、再生段階で妖怪の遺伝子を取り込んだらしく、人の死の予知と、その能力の与奪の力があるらしい。

昴宿七星


七人で一人、一人で七人の神に近い存在。彼女らの浸かった泉や温泉は、若返りの効果を持つと言われる。

万場百


白瀬沼藺の養女。元々番所に届けられた捨て子だったのだが、政木の大刀自の命に由り、沼藺が育てることになった。通称バーミリオン。

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