2度と甦らせない(4)
文字数 2,046文字
僕たちを包んでいた光のバリアが一旦消滅し、耀子先輩が前に出た後、先輩を除いて再びバリアが張られ直す。
これで僕たちは、先輩たちの戦闘のとばっちりは受けずに済みそうだ。そう云う意味では、オサキの里の人たちも、この村に攻め込んで来たオサキ兵も、充分に安全が確保されていると言っていいだろう。
耀子先輩は真久良を見つめながら、左手を横に伸ばし掌を開いた。すると、何処からか一本の剣が現れて、その左手にしっかりと握られる。それこそ、まだ鞘に納まってはいるものの、一度 抜けば、最強の斬れ味を誇る、恐怖の首刈り刀、布都御魂剣 だ。
そして、真久良のバリアが消滅し、バトルフィールドとして、改めて耀子先輩を加えた半径10メートル程の巨大なバリア空間が造り直される。
さあ、これで決着だ!
尾崎真久良は、武器も持たずに先輩の方へと無造作に歩み寄って行く。
「忘れたのかな……?
耀公主の力を持っていた時ですら、お前は鉄男や盈の助けが無ければ、私に殺されていたのだぞ。今のお前が私を処罰するだと? 片腹痛いとはこのことだな……」
「相変わらずの愚か者ね……。私は耀公主の力は失ったけど、私自身の力は消すことも出来ずに残っているのよ……。私には分かる。貴方の力量も。そして貴方が私より、遥かに弱いと云うことも……」
ニヤついていた真久良は、足を止めて、表情を困惑へと変えた。
「私の睡眠の術が効かない?」
「2度も同じ手を食う訳が無いでしょう? この剣もレプリカとは云え神剣なのよ。悪しき妖怪である貴方の精神攻撃など、一切無効にしてしまうわ……」
耀子先輩は、鞘に納まったままの神剣を前に出し、その存在を真久良に誇示する。
「それに抑 、今の私の精神力なら、貴方の術が通用する筈も無いわね……」
「ならば、私も、ほんの少しは真面目に闘わずばなるまい……」
真久良は、耀子先輩の大嫌いな空威張りの強がりを言った。しかし、先輩は全く相手にせず、眉ひとつ動かさない。
真久良は何と、変身をし始めた。
奴の服が破れて毛むくじゃらの身体を現し、耳や尾が生え、巨大な獣へと姿を変える。それは将に、銀色に輝く鋼鉄の毛皮を持つ妖狐そのものだ。
大狐に変身した真久良は、口を開き、耀子先輩の見せる光線砲の様なものを吐き出して、先輩を焼き尽くそうとする。だが、それは全て先輩の脇を掠めるだけで当たることはなかった。
「な、何故、当たらん?!」
耀子先輩は鼻で笑った。
「貴方、光線砲を撃つとき、思いっきり口を開けてから撃つでしょう? 発射のタイミングさえ分かれば、顔の向きで射線の位置が分かるのよ。あ、でも気を付けてね。発射の寸前に顔の向きを変えると、自分の頬っぺたに当てちゃうわよ……」
これには真久良狐も動揺を隠せない。
息を荒くし、汗と共に涎を流して、耀子先輩を上目遣いで睨んでいる。
「そ、それでも……。あと少し……、あと少しの間、殺されなければ、私は無罪放免だ。
そ、それに、私の毛には、鋼の粉を膠 に混ぜて幾重にも擦り付けてある。並みの刀など、私には通用しない……!」
耀子先輩は、その言葉が終わるか終わらないうちに真久良狐の脇をすり抜けていた。そして、いつの間に抜いていたのか、右手に持った抜き身の布都御魂剣 を一振りし、剣に付いていた血の滴を振り落とす。
「なめないでね……。これは神剣なのよ」
ヒュッと云う音と、その剣風で傷口が開いたとは思えないが、そのタイミングで真久良狐の左前肢から血がシャワーの様に吹き出し、尾が何本かパサリと下に落ちた。
「ギャ、ギャー!!」
人間の悲鳴とも、動物の鳴き声ともつかぬ甲高い叫び声が、真久良狐の口から吐き出され、静かになったオサキの里に響き渡る。
そして、耀子先輩は残心の姿勢を崩し、真久良狐に振り向いて最後の言葉を掛けた。
「一応、言って置くけど、この結界の中には、貴方が憑依できる様な生き物は、糞虫一匹いないわよ。
そうね……。貴方は最終手段として、私に憑依することを企んでいるかも知れないけれど、それは私がこの神剣を持っている限り不可能……。さ、これで詰みね……。
覚悟を決めて首を出しなさい。痛みを感じる前に殺してあげるから……」
真久良狐は覚悟を決めたのか、頭 を垂れ、脚を引摺りながら、耀子先輩の方へと近づいていく。
誰もがこれで終わりだと思った……。
だが、次の瞬間、真久良狐は耀子先輩に跳び掛かっていた。恐らく、最後の力を振り絞ったのだろう……。
布都御魂剣 は、その弾みで耀子先輩の手から離れ宙を舞った。そして、その剣が地面に落ちて金属音を響かせる前に、真久良狐は耀子先輩を押し倒した状態で、先輩の背中の辺りに出来た黒い穴へ先輩を押し込み、自分もその穴に落ちていく。
ワームホールだろうか?
その黒い穴は2人を飲み込んで、直ぐに閉じてしまった……。
先輩は何処へ行ってしまったのだろう?
彼女を護る筈の神剣は、耀子先輩の手元から離れ、今はただ、ここに抜き身のまま残されているだけであった……。
これで僕たちは、先輩たちの戦闘のとばっちりは受けずに済みそうだ。そう云う意味では、オサキの里の人たちも、この村に攻め込んで来たオサキ兵も、充分に安全が確保されていると言っていいだろう。
耀子先輩は真久良を見つめながら、左手を横に伸ばし掌を開いた。すると、何処からか一本の剣が現れて、その左手にしっかりと握られる。それこそ、まだ鞘に納まってはいるものの、
そして、真久良のバリアが消滅し、バトルフィールドとして、改めて耀子先輩を加えた半径10メートル程の巨大なバリア空間が造り直される。
さあ、これで決着だ!
尾崎真久良は、武器も持たずに先輩の方へと無造作に歩み寄って行く。
「忘れたのかな……?
耀公主の力を持っていた時ですら、お前は鉄男や盈の助けが無ければ、私に殺されていたのだぞ。今のお前が私を処罰するだと? 片腹痛いとはこのことだな……」
「相変わらずの愚か者ね……。私は耀公主の力は失ったけど、私自身の力は消すことも出来ずに残っているのよ……。私には分かる。貴方の力量も。そして貴方が私より、遥かに弱いと云うことも……」
ニヤついていた真久良は、足を止めて、表情を困惑へと変えた。
「私の睡眠の術が効かない?」
「2度も同じ手を食う訳が無いでしょう? この剣もレプリカとは云え神剣なのよ。悪しき妖怪である貴方の精神攻撃など、一切無効にしてしまうわ……」
耀子先輩は、鞘に納まったままの神剣を前に出し、その存在を真久良に誇示する。
「それに
「ならば、私も、ほんの少しは真面目に闘わずばなるまい……」
真久良は、耀子先輩の大嫌いな空威張りの強がりを言った。しかし、先輩は全く相手にせず、眉ひとつ動かさない。
真久良は何と、変身をし始めた。
奴の服が破れて毛むくじゃらの身体を現し、耳や尾が生え、巨大な獣へと姿を変える。それは将に、銀色に輝く鋼鉄の毛皮を持つ妖狐そのものだ。
大狐に変身した真久良は、口を開き、耀子先輩の見せる光線砲の様なものを吐き出して、先輩を焼き尽くそうとする。だが、それは全て先輩の脇を掠めるだけで当たることはなかった。
「な、何故、当たらん?!」
耀子先輩は鼻で笑った。
「貴方、光線砲を撃つとき、思いっきり口を開けてから撃つでしょう? 発射のタイミングさえ分かれば、顔の向きで射線の位置が分かるのよ。あ、でも気を付けてね。発射の寸前に顔の向きを変えると、自分の頬っぺたに当てちゃうわよ……」
これには真久良狐も動揺を隠せない。
息を荒くし、汗と共に涎を流して、耀子先輩を上目遣いで睨んでいる。
「そ、それでも……。あと少し……、あと少しの間、殺されなければ、私は無罪放免だ。
そ、それに、私の毛には、鋼の粉を
耀子先輩は、その言葉が終わるか終わらないうちに真久良狐の脇をすり抜けていた。そして、いつの間に抜いていたのか、右手に持った抜き身の
「なめないでね……。これは神剣なのよ」
ヒュッと云う音と、その剣風で傷口が開いたとは思えないが、そのタイミングで真久良狐の左前肢から血がシャワーの様に吹き出し、尾が何本かパサリと下に落ちた。
「ギャ、ギャー!!」
人間の悲鳴とも、動物の鳴き声ともつかぬ甲高い叫び声が、真久良狐の口から吐き出され、静かになったオサキの里に響き渡る。
そして、耀子先輩は残心の姿勢を崩し、真久良狐に振り向いて最後の言葉を掛けた。
「一応、言って置くけど、この結界の中には、貴方が憑依できる様な生き物は、糞虫一匹いないわよ。
そうね……。貴方は最終手段として、私に憑依することを企んでいるかも知れないけれど、それは私がこの神剣を持っている限り不可能……。さ、これで詰みね……。
覚悟を決めて首を出しなさい。痛みを感じる前に殺してあげるから……」
真久良狐は覚悟を決めたのか、
誰もがこれで終わりだと思った……。
だが、次の瞬間、真久良狐は耀子先輩に跳び掛かっていた。恐らく、最後の力を振り絞ったのだろう……。
ワームホールだろうか?
その黒い穴は2人を飲み込んで、直ぐに閉じてしまった……。
先輩は何処へ行ってしまったのだろう?
彼女を護る筈の神剣は、耀子先輩の手元から離れ、今はただ、ここに抜き身のまま残されているだけであった……。