長谷川刑事(5)

文字数 920文字

 僕は長谷川刑事と、村の中心の広場から奥の山間を進んで行った。そこは本来、道など無い筈であったが、杉の木を縫っていく様な、人の通った痕がある。それは最早、けものの通った道ではなく、ちゃんとした道としか言いようのないものであった。

 長谷川刑事は僕の前に立ち、探検隊の隊長の様に、道に掛かる枝や草を掻き分けながら、先へ先へと進んでいく……。

「幸四郎君は、どうして、こんなところに道があると思う?」
「そうですね……、さっぱり分かりませんね、僕には」
「答えは簡単よ……。この先に目的地があるからじゃない……」
「そりゃそうでしょうね。当たり前です」
「じゃ、どうして、道が草に埋もれず残っているのかしら……?」
「え?」
「それはね……、この道が、今でもまだ、人に使われているからなのよ」
 そう言ってから、長谷川刑事はふと止まって足元を確認する。そして身体を屈めて、直接それに触れないように、ハンカチで何かを拾って手に取った。
「見て」
「何ですか?」
 彼女が僕に見せた物、それは別に珍しくも無い、只のコンビニに売っているパン菓子の入ったビニールだ。
「困ったもんですね、ごみを山の中に捨てていくなんて……」
「あら? 何も気付かないの?」
「何がです?」
「このパンの製造年月日は一昨日の夜中。昨日の朝以降にパンを買った人間が、この道を通ったのよ。誰だと思う?」
「昨日の朝のバスには、僕と耀子先輩しか乗っていなかった……。夕方のバスには誰も乗っていない。それからバスは通行止めで来ていない。そうなると、村の人の誰かが街に降りてパンを買ったのか、警察の人がここを通ったか……、あるいは……」
「要耀子さんが昨日、ここを通ったかってことになるわね。昨日の朝、彼女、コンビニにこのパンを買ってたりしなかった?」
「耀子先輩は自然を大切にする人だ! ビニールゴミのポイ捨てなんか、絶対にする訳がない!」
「だったら、彼女の可能性は除く? でも、もし、単なるポイ捨てじゃなくて、何かの目印として、そのビニール袋を置いたのだとしたら?」

 耀子先輩が目印を置く?
 もし、置いたとすると……何時?
 僕と別行動を取った午後?
 それとも、星を見に出て行った夜?

 そして……、一体、何の為に? 
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

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