顔のない死体(4)

文字数 994文字

 僕は跳び起き、公民館を飛び出していた。
 鍵を締め忘れた……。これは山岸村長にお願なければならないので仕方ないが、荷物もそこに置いたままであった。
 サイレン音は、バス通りを少し降った辺りから聞こえて来る。
 胸騒ぎと云うのだろうか……。僕は下腹いっぱいに不安を抱えていて、それが、僕の胃の辺りをグイグイ上へと突き上げている。

 バス通りを転げる様に降って行くと、サイレンは、僕と耀子先輩が、昨日の昼に弁当を食べた辺りで鳴らされているらしい。
 僕が近くまで来てみると、そこには、二台ほどの赤色灯を付けた黒い車と、数人の私服の男達、それから、鑑識官なのだろうか? 紺色の作業服を着ている何人かの男がいた。そして、その周りを取り囲む様に、昨日会った村人たちが、コソコソと内緒話をしながら(たむろ)している。
 どうやら、カーブの崖下辺りにに、何らかの事故現場がある様だ……。

 僕がカーブの少し手前からカードレールの下を覗くと、そこにも鑑識官や警察官らしき数名の男がいて、シートを掛けられた何かを眺めている。

 ま、まさか……?
 僕は村人たちの所へと走って行った。
「村長さん! これは?」
「あのお嬢さんが、あのお嬢さんが……」
 村長は興奮して、何を言っているのか分からない。僕は別の質問をした。
「どうやったら、下に降りられるのです?」
「もう少し行くと階段がある。そこから降りて行くことが出来る……」
 僕はバス通りを走って降った。そして、その階段を見つけると、大慌てで駆け降りて行く。今考えると、良く階段を転げ落ちなかったものだと思う……。

 僕は崖下に降りると、今度はブルーシートの所へと駆け登る。しかし、そこへに着く前に、僕は数人の鑑識官に止められた。
「ここから、入っちゃいかん!」
「あ、あ、あの、もしかして……」
 そう言っていると、例の巡査さんが僕に近寄って来る。
「こちら、被害者の女性の友人です」
 僕は「何言ってんだ! 被害者の友人ってどう云う意味だ!」って言いたかった。しかし、僕は「そうです!」と口にしていた。
「君の名前は?」
「橿原幸四郎と言います」
「君、済まないが……、本当に彼女かどうか、確認をしてくれないか? 嫌なら無理にとは言わないのだが……」
 僕に拒否する理由は無かった。しかし、彼らが僕に意向を訊ねる理由も無い……。
 何故そんなことを訊ねられたのか、その時の僕には、正直、思いも寄らなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み