長谷川刑事(3)

文字数 1,073文字

「それって、犯人が電波を妨害し、意図的に土砂崩れを発生させ、僕たちの逃げ道を塞いだってことですか?」
「最悪の想定だとそうなるわね。あるいは単なる偶然で、黒点か何かの影響で電波状態が悪化したことと、土砂崩れが重なっただけなのかも知れない……」
 長谷川刑事は、何の感情の高ぶりも見せずにあっさりとそう言い切った。彼女の様に、人の生き死にを数多く見てきた人間は、殺人者の存在や身の危険なんて、ありふれた事象の一つなのかも知れない。

「で、刑事さんはどうするんです?」
「どうもこうもないわね……。事件を調査するわ。署に戻る訳いかないでしょう? 他にすることないもの……。橿原君と言ったかしら、君はどうするの?」
 確かに、どうもこうもない。
「良かったら、僕にも手伝わせてください」
「そうね、いいわ……。でも、結局、単なる事故かも知れないわよ」
「それでも構わない」
 僕はそう言った。しかしそうは思っていない。耀子先輩は、あの程度のことで死ぬ訳がない。何か特別なことが起こったのだ。
 もしかすると、彼女は死んだのではなく、仮死状態か何かで、助けを求めているのかも知れない……。

 そんな僕の心の中を読んだのか? 長谷川刑事は今までの調査結果を説明する前に、僕に忠告を与えている。
「橿原君、希望を持って仕事をするのは悪い事ではないけれど、物事はそう変化に富んでいるものではないのよ……。大概の事実は一番大きな確率の予想と等しいわ……。
 そして、一番大きな確率が表すのは、大体がシンプルなこと……。川は低い方に流れていく。それと同じ……」
「何が言いたいのです?」
「こ相続にお任せするわ……」

 僕が何か言うのを抑え、長谷川刑事は彼女の調査状況の説明を始めた。
「彼女は崖から滑り落ちたのではないわね。そういう痕跡がないもの……。恐らく、崖下へと、彼女自身の意志で飛び降りたんじゃないかしら……?
 落ち葉のクッションはあるけど、大きな石も転がっている。そして、この高さ。落ち方によっては顔面を強打し、あの様に潰されてしまう可能性も無くはない。
 ただ、少々顔の破損だけが、少し酷過ぎる感じはあるわね……」
「じゃあ、飛び降り、気絶をした彼女を、誰かが石をもって、顔面を潰して殺したって云うのですか?」
「その可能性もある……。でも、だったら、どうして顔面を破壊して殺さなければならなかったのか?
 殺し方としては不自然だわ……。何でわざわざ目も鼻もない、

の死体にしなければならなかったのかしら?」

 僕はその、

と云う表現に、酷く不吉なものを感じたのだった……。
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

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