真相(4)

文字数 1,123文字

 長谷川刑事は、最初から僕を疑っていたのだ。耀子先輩が、誤って転落したのでは無いと信じていると云う意味は、僕が殺したって云う意味だったのだ!

「そうね、こんなストーリーはどうかしら?
 崖から落ちたくらいでは、彼女は死なない。彼女は生還していた。だけど、それを見た君は、これ幸いとばかりに、彼女の顔を二目と見られない程に叩き潰し殺害した。そして、再び崖下に死体を置いて、転落死したと見せかけた……」
 僕はもう何も云うことが無かった。

 長谷川刑事は再び、村人を含めた全員に語り始めた。
「この事件は、一人の人間に因って、二つの目的を達成する為に計画されたものです。そして、それは殆ど成功しています」
 どうやら僕は、彼女によって殺人犯に仕立て上げられてしまったようだ……。
「橿原君……。君、自分が犯人だとは思っていないでしょう?」
「当り前です!」
「だったら誰が犯人? 誰が君たち二人をここに来させたの?」
 そう! それが綿密に計画されたものならば、僕たちが来たことも計画の範疇。僕たちがここに来たのは……。
「僕が行くって言ったから……?」
「だから、君が犯人でなかったらって、言ったでしょう?!」
「副部長の中田先輩?」
「その副部長に、のっぺらぼう事件を話した人がいるの。その人は副部長とも仲が悪くて『自分はお化けが怖いから行きたくない』って、逆に態とそうさせるように仕向けた人なの……。分かる? その人が、この事件全ての立案者……」
「ま、まさか……?」
「そうよ、要耀子。彼女こそが、この事件を計画した全ての黒幕! 彼女が君を操って、この事件を引き起こしたのよ!!」
「でも、彼女は死んでいる……」
「彼女は生きているわ……。それも、まだこの村にいる……」
「どこにおると言うんじゃ!」
 山岸村長が声を荒らげる。
「この公民館に来ていますよ……。橿原君、君、言ったじゃない? あの程度では彼女は死なないって……」
「でも……、耀子先輩の遺体が、確認されてるじゃないですか!」
 あれは耀子先輩だった……。
 僕には分かる。生え際、襟足、首筋、どれも彼女の物だった。別人ではない。僕が耀子先輩を見間違う筈が無い……。
「あの時、あそこにいた彼女が、実は死んでいなかったとしたら?」
「そんな? だって刑事さんも、鑑識の人も、みんな確認しているじゃないですか?」
「それも、全て偽物だとしたら? 要耀子がエキストラを雇っていただけだとしたら?
 そして、あの潰れた顔も、君がじっと見ていられない様に、そして、呼吸してもバレない様にする為の特殊メークだとしたら?」

 今井巡査も他の村人も顔を見合わせた。
 もし、彼らが警察関係者でないとしたら、今、ここにいる長谷川刑事とは、一体何者なのだ?
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

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