長谷川刑事(4)

文字数 955文字

「凶器となった石とか、鈍器とかは見つかっていないのですか?」
「それは無かったわね。深く地面に埋まっていて取り出せない幾つかの岩に、彼女の皮膚などの組織が残っていたけど、その岩を凶器とするには重すぎるわ。それに態々埋め直したとも思えない」
「では、やはり……」
「そうとも言えないわ……。もし、凶器が見つかったら、他殺の積極的な証拠になるだろうけど、見つからないことは、事故であることを、消極的にしか保証していないわね」
「そうですか……」
 僕はそう答えた。

「さっきも言ったけど、もう調べることも無いのだけど、連絡が付くまで、私もすることが無いのよ……。
 君、手伝うって言ったわよね……。一緒に捜査しない? でも、捜査って云うよりも、どちらかと云うと探検かな?」
 その長谷川刑事の提案に、僕は黙って頷いていた。

 考えてみると……。
 もし、先輩が死んでいるとしたら、僕は一人になる。それは、他殺であろうと事故であろうと、何も変わりはしない。いずれにしても、耀子先輩と一緒に蛭原村にやって来たのに、帰りの僕は一人きりだ……。
 仮に他殺だとしても、僕は先輩の仇を取ろうとは思っていない……。
 彼女が死んだとしても、悲しみの感情がデカ過ぎて、恨みや怒りの感情の入るスペースが生まれて来ないのだ。
 強いて言うと、オカルト的な感覚で、彼女が

に捕らえられていて、僕に助けることが出来ると云うのであれば、命を賭けても闘いたいとだけは思っている。
 でも、それは、僕の勝手読みな願望に過ぎず、彼女は何者にも拉致されてなどなく、恐らくあの死体が耀子先輩なのだろう……。

 だから、それが計画的な殺人であろうと、突発的なものであろうと、妖怪の祟りであろうと、偶然の事故であろうと、僕にとっては、実はもう、どうでも良いことだった。
 では何故、僕は長谷川刑事の提案に頷いたのか? それも簡単。それは、長谷川刑事と同じ理由……。何もしないでいると、落ち着かなかったからに他ならない。

「じゃあ、何を調べるんです? 刑事さん」
「そうね、この村はバスの終点よね。その先に何があるのか、探検しに行かない?」
「その先が無いから、終点なんじゃないのですか?」
「違うわ。バスがその先に行かないだけよ」
 長谷川刑事はそう言って、少しだけ笑みを(こぼ)した。
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

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