フィールド調査(3)
文字数 1,332文字
「あんたらにゃ、何も話すことなど、ありゃせん!」
老婆……、後で話を聞くとお稙さんと云う名前だそうだが、彼女はそのまま何を言わず、プイと背を向けて歩き始める。
僕は「ちょっと待ってください」と呼び止めたのだが、聞こえたのか聞こえないのか、彼女は僕の声を無視し、スタスタと立ち去ってしまった。
僕は、耀子先輩の方を向いて、肩をすくめて見せる。
「どうやら、のっぺらぼう事件は彼女のお気に召さない様ね」
耀子先輩は無表情にそう言い放った。
巡査が戻って来たのは、そのまた30分後だった。礼を失しない様にと、キチンを頭を下げた僕たちを、この巡査は明らかに胡散臭そうに眺めている。
「君たちは誰だね? 何しにこの村にやって来たんだね?」
その質問に、今度は耀子先輩が答える。
「私たちは都内の医療系大学の学生です。大学のサークルで、不可思議な伝説について私たちは調査を行っています。今回、蛭原村でのっぺらぼうを見たと云う噂があり、現地調査を行う為にここにやって来ました」
「その様な噂なんか無い!」
「でもですね……。実際に、そんな噂がネット上で……」
僕は、余りに巡査さんが取りつく島もなく答えたので、つい口を出してしまった。
「ネットなど、嘘しか書かれていない!」
「どうしてそんな……」
僕が何か言おうとするのを、途中で耀子先輩が制止した。そして、替わりに先輩が話を続けていく。
「嘘であるならば、そう云う報告をするだけです。ですから、少しでもお話を聞かせては頂けませんでしょうか?」
「どうせ、あんたらも、でっち上げの報告をする心算だろう!」
「もし、お話を聞かせて頂けないのでしたら、でっち上げするしかありませんわね。『村人たちはそれを隠していた。きっと何かがあるに違いない』と云う風に……」
それを聞いた巡査は、不機嫌そうに黙り込んだ……。そして、結局、嫌であっても、勝手な作り話を広められるよりは、話をした方がましだと考えたのだろう。彼は無言のまま僕たちにパイプ椅子を勧め、自分も事務机の前の椅子へと腰掛けた。
「ありがとうございます」
「私はこんな話はしたくないんだけどね」
「済みません……。では、巡査さんは、蛭原村にのっぺらぼうなどは、何処にも存在しないと仰有るのですね?」
「当り前でしょう! 変な噂を流すのは、本当に止めて貰いたいですな……」
その後、巡査さんの口利きのお蔭か、僕たちは何人かの村人とも話をしたのだが、どの村人に尋ねても、結局はのっぺらぼうなどと云う噂は嘘で、その様な噂を広められるのは迷惑だ……と云う話に要約された。
しかし、そのあまりに画一化された答えに、逆に僕は少なからず疑問を持った。
僕ですら違和感を感じているのだ、勘の鋭い耀子先輩が、そんなことに気が付かない訳は無い。恐らく、何かしらの調査を続ければ、きっと面白い情報が手に入る筈……。
だが、そうは言っても、村人の数は限られている。もう尋ねる相手などいない。おまけに、時刻はまだ昼を回ったところ、帰りのバスまでは4時間以上もある。
いくら耀子先輩と二人きりとは云え、こう何も無いと、流石に暇を持て余してしまう。
「少し、村はずれまで歩いてみようか?」
僕はその耀子先輩の提案に、二つ返事で賛成した。
老婆……、後で話を聞くとお稙さんと云う名前だそうだが、彼女はそのまま何を言わず、プイと背を向けて歩き始める。
僕は「ちょっと待ってください」と呼び止めたのだが、聞こえたのか聞こえないのか、彼女は僕の声を無視し、スタスタと立ち去ってしまった。
僕は、耀子先輩の方を向いて、肩をすくめて見せる。
「どうやら、のっぺらぼう事件は彼女のお気に召さない様ね」
耀子先輩は無表情にそう言い放った。
巡査が戻って来たのは、そのまた30分後だった。礼を失しない様にと、キチンを頭を下げた僕たちを、この巡査は明らかに胡散臭そうに眺めている。
「君たちは誰だね? 何しにこの村にやって来たんだね?」
その質問に、今度は耀子先輩が答える。
「私たちは都内の医療系大学の学生です。大学のサークルで、不可思議な伝説について私たちは調査を行っています。今回、蛭原村でのっぺらぼうを見たと云う噂があり、現地調査を行う為にここにやって来ました」
「その様な噂なんか無い!」
「でもですね……。実際に、そんな噂がネット上で……」
僕は、余りに巡査さんが取りつく島もなく答えたので、つい口を出してしまった。
「ネットなど、嘘しか書かれていない!」
「どうしてそんな……」
僕が何か言おうとするのを、途中で耀子先輩が制止した。そして、替わりに先輩が話を続けていく。
「嘘であるならば、そう云う報告をするだけです。ですから、少しでもお話を聞かせては頂けませんでしょうか?」
「どうせ、あんたらも、でっち上げの報告をする心算だろう!」
「もし、お話を聞かせて頂けないのでしたら、でっち上げするしかありませんわね。『村人たちはそれを隠していた。きっと何かがあるに違いない』と云う風に……」
それを聞いた巡査は、不機嫌そうに黙り込んだ……。そして、結局、嫌であっても、勝手な作り話を広められるよりは、話をした方がましだと考えたのだろう。彼は無言のまま僕たちにパイプ椅子を勧め、自分も事務机の前の椅子へと腰掛けた。
「ありがとうございます」
「私はこんな話はしたくないんだけどね」
「済みません……。では、巡査さんは、蛭原村にのっぺらぼうなどは、何処にも存在しないと仰有るのですね?」
「当り前でしょう! 変な噂を流すのは、本当に止めて貰いたいですな……」
その後、巡査さんの口利きのお蔭か、僕たちは何人かの村人とも話をしたのだが、どの村人に尋ねても、結局はのっぺらぼうなどと云う噂は嘘で、その様な噂を広められるのは迷惑だ……と云う話に要約された。
しかし、そのあまりに画一化された答えに、逆に僕は少なからず疑問を持った。
僕ですら違和感を感じているのだ、勘の鋭い耀子先輩が、そんなことに気が付かない訳は無い。恐らく、何かしらの調査を続ければ、きっと面白い情報が手に入る筈……。
だが、そうは言っても、村人の数は限られている。もう尋ねる相手などいない。おまけに、時刻はまだ昼を回ったところ、帰りのバスまでは4時間以上もある。
いくら耀子先輩と二人きりとは云え、こう何も無いと、流石に暇を持て余してしまう。
「少し、村はずれまで歩いてみようか?」
僕はその耀子先輩の提案に、二つ返事で賛成した。