不思議な畑(3)

文字数 955文字

 その若い女の人とは、長谷川刑事のことを指しているのに違いない。

「それって、長谷川さんでしょうか? 彼女とは今まで一緒にいたのですが、ついさっき、(はぐ)れちゃって……」
「そうそう。長谷川露葉(つゆは)。それにしても、困ったなぁ……。彼女と連絡付かないんで、迎えに来たんだけど……」
「もしかして、あなたも刑事さんですか?」
「なんだ、知ってるのか。俺は升田新伍、升新って呼んでくれ!」
 升新刑事はそう言うと、ヘルメットを取って右手を差し出した。僕もそれに応えて握手を交わす。

「へえ~、ところで良く来れましたね。土砂崩れじゃ無かったんですか?」
「へ? そんなの無かったぜ。何かの間違いじゃねえのか?」
 僕は思わず言葉を失った。だが、確かに土砂崩れが事実であれば、升新刑事がここに来れるはずがない。彼の方が真実を言っているに違いない。つまり、電波障害と土砂崩れ、僕たちを足止めしている二つのうち、一つは誤報だったと云うことになる。すると……。

「ますし~ん、遅かったじゃない!」
 声のする方向に目を遣ると、長谷川刑事が手を振って走って来る。もう、この人は何をやっていたんだ。まるで耀子先輩じゃないか、この気紛れさは……。
 僕だって、文句の一つも言いたくなる。
「もう、長谷川刑事……。どこ行ってたんですか?」
「ごめん、ごめん。ちょうど君が囮になってくれてたんで、私はあの奥を調べさせて貰ってたのよ」
「奥? なんですか、奥って?」
 長谷川刑事は、スマホで撮った何枚かの写真を僕と升新刑事に見せた。
「あの畑の奥には、見ての通り、プレハブ造りの簡易な建物があったわ。人が働いているみたいなので、残念ながら、中までは調べられなかったけどね……」
「しかし、随分と大胆だねぇ。LEDランプでも室内でもないなんてよ……」
「それが逆に盲点だったみたいね」
 僕はこの二人が何を言っているのか良く分からなかった。長谷川刑事は、そんな僕の方に向かって、笑いながら済まなそうに言葉を掛ける。

「悪いんだけど、橿原君だっけ……。君、ここに残ってくれる? 私、この袋の中身をちょっと調べて来たいんだ。だけど、バイクって、三人じゃ乗れないでしょう?」
 つまり、長谷川刑事は「自分は升新刑事のバイクの後ろに乗って帰るから、この村に一人で待っていろ」と僕に言っているのだ。
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

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