顔のない死体(3)

文字数 1,014文字

 耀子先輩は、公民館の中に慌てて雪崩込んで来ると、僕の顔を見て顔を引き()らせてこう叫んだ。
「のっぺらぼう? こ、こ、幸四郎まで?」
 耀子先輩は何を言っているんだ?

 僕は彼女に近寄ったが、彼女は恐ろしいものでも見た様に後ずさりし、玄関から外へと飛び出して行く。
 僕も彼女を追った。だけど、靴を履くのに手間取っている間に、先輩は闇の中に消えてしまい、どっちへ行ったかも分からない。
 僕は耀子先輩を見失った後も、広場の辺りをぐるっと回ってみたりもしたのだが、彼女の気配すら感じられない。勿論、先輩の名前を呼び掛けても、何処からも返事は返って来なかった……。
 先輩はこんな夜中に、一人で何処かに行ってしまったのである。

 巡査さん、山岸村長さんを始め村人数人が、僕の声に起こされてしまったのか広場へと飛び出して来る。僕は彼らに事情を説明し、海中電灯を手にした彼らと辺り一帯を探し回った。しかし、先輩は見つからない。
 仕方なく、僕たちは、一旦広場へと戻って来ることにした……。

「後は、ここの地形を知っている我々が探す。土地勘のない君に夜の山は危険だから、もう戻っていなさい」
 僕の肩を叩き、巡査さんが僕に公民館に戻るよう勧める。
「でも、僕は……」
「彼女が、公民館に戻って来るかも知れないだろう? その時は、無理矢理にでも君が彼女を取り押さえるのだ!」
 僕はその巡査さんの説得に従い、公民館へと戻ることにした。

 僕は待った……。
 耀子先輩は戻ってくる……。
 その微かな可能性を信じて。

 しかし、彼女は僕を見て「のっぺらぼう」と言っていた。僕をのっぺらぼうと思ったのだろうか? だとすると、お化けとか幽霊の苦手な耀子先輩が、僕のいる公民館に戻る可能性は低い。
 彼女は言わばスーパーガール。深夜に山の中を歩いても、恐らく怖さなど微塵も感じないだろう。だから、逆に心配なのだ。
 耀子先輩は、山の中にいた方が安全だと思うに違いない。しかし、深夜の山中は、人が思うほど安全な場所ではないのだ。足元も見にくく、滑って崖に落ちないとも限らないし、熊だって出ないとも言いきれない……。

 僕は公民館で眠れぬ一晩を過ごした。
 眠れぬと云っても、一日中フィールドワークで歩いて疲れた身体……。僕はいつしか座ったまま寝てしまい、座布団の上に横になっていた。
 僕が起こされたのは、翌朝も随分と陽が昇ってから……。それも村長さんや巡査さんにではなく、サイレンの音に……。
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

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