真相(2)

文字数 1,355文字

「そう、良く出来ました……。
 それは、目の錯覚と云うよりは、人間の脳の働きによるものなのよ。人は人間の顔を強く認識するように出来ている。逆に、この働きが低下、機能しなくなると、人は人間の顔を顔と認識出来なくなる……」
「まさか?」
「そうよ。それがネットに出ていた『のっぺらぼう事件』の真相……。
 この機能が低下した状態で人に会うと、潜在意識に『のっぺらぼう』と云う妖怪の認識がある日本人には、暗闇では相手の顔が『のっぺらぼう』に見えてしまうのよ……」
「でも……」
「これは恐らく、偶然の産物じゃないかと思うのよね。こんなの、売れないもの……」
 山岸村長が大声で文句を言う。
「あんた! 何が言いたいんじゃ!!」
「分かっている筈ですよ。村の人は全員」
 村人は皆、下を向いたまま、一言も言葉を発しない。
「自首してください。今なら、嫌疑も掛かっていません。文字通りの自首ですので、罪状も随分と軽くなる筈です……」
 今井巡査が顔を上げ、声を荒らげて長谷川刑事に反論する。
「あんたたちの様に都会に住んでいる人には分からないんだ。この村は貧しくて、麓の煙草農園も閉鎖になり、ずっと生計を支えてきた収入のあても絶たれてしまった。もう、こうやって稼ぐしかないんだ!」
 山岸村長が補足する。
「村にいた若い連中は、皆、都会に降りてしまったよ……。自給自足の小さな畑と住居だった小屋を残してな……。それで、わしらは煙草栽培のノウハウを生かして……」
「と、栽培を唆されたのですね……。
 でも、それは間違っています。これで少しのお金を稼いでも、大半は売人たちが悪事を働くための資金になってしまいます。それらのお金は、血の涙で出来ているんですよ。そんなお金で、皆さんは幸せになれますか? 村を大きく出来ますか? 子供たちを育てて行けますか?」

「何の事なんですか?」
 僕には彼女が何を言っているのか分からない。そんな僕に、長谷川刑事は諭すように説明を始めた。
「橿原君、蛭原村の村人は、大麻に似た植物を栽培し、不法薬物を生産していたのよ。麻薬として闇で売り捌く為にね。
 これは未だ充分には裏が取れてないんだけど、神奈川県の相談課に村の再生を相談しに行った村長さんたちは、その帰り、村の話を耳にした反社の連中に『村の活性化に繋がる』と唆され、そいつの栽培するよう勧められたのよ……。
 でも、偶然だとは思うけど……。何故か、脳の顔認識に影響を与える作用のある植物が育ってしまった……。
 この為に、研究員の一人が錯乱し、ある事件を起こしてしまったのよ……。それがネットに伝わる『のっぺらぼう事件』なの」

 なんと、のっぺらぼう事件とは、薬物による幻覚作用の一種だったのか……。

 でも、すると……。
「では、それに気付いた耀子先輩を、口封じの為に、村人の誰かが、崖から突き落として殺したって言うのですか?」
 すると、僕の言葉に今井巡査と二人の男が立ち上がって反論する。
「嘘だ! 彼女は自分で落ちたんだ。儂ら、誰も彼女を突き落としたりなどせん!」
「あら? どうして、そんなはっきりと断言出来るのかしら?」
 長谷川刑事の台詞に、彼らは、またしても言葉を無くす。
「私が言ってあげましょうか? それはね、あなたたちが、彼女の落ちるところを、目の前で見ていたからよ……」
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

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