不思議な畑(4)

文字数 1,039文字

 長谷川刑事は、僕に有無も言わせず、升新刑事と二人で山を降りて行った。
「何だったんだ? 全く……」
 僕はそう口に出さずにはいられない。

 それにしても、長谷川刑事は、耀子先輩の殺人事件に関して、何も調べようとしてなかったじゃないか!!
 結局、耀子先輩のことなど、彼女は二の次だったのではないだろうか……?
 でも……、じゃあ、一体、何を調べていたんだ、彼女は?

 (いず)れにしても、僕はこの村に、また一人残されてしまったようだ……。

 その上、「急ぎ帰る」と言った長谷川刑事だったのだが、その日は結局、陽が暮れても村に戻って来なかった……。
 こうして、僕は、再び公民館に泊まらざる得なくなってしまったのである。

 その夜は、今井巡査が僕と一緒に泊まってくれた。僕一人では危険と言うことらしい。
 危険かどうかは兎も角、旅人に連夜で何かあっても堪らないのだろう。僕自身は、そんなこと何も考えていなかったのだが、後追い自殺するんじゃないかって、今井巡査は思っていたらしい。

 この今井巡査は、警察関係の人間らしく、言葉遣いもきっちりしていて、長谷川刑事たちと違って、妙な馴れ馴れしさがない。
 だが、今井巡査の親切はありがたいのだが、無口な彼といると云うのは、正直なところ僕には居心地の良いものではなかった。兎に角、共通の話題が無いのだ。

 僕の頭の中には、耀子先輩の生死のことや、捜査状況のことしかない……。
 だが、今、耀子先輩の生死を口にしたくはないし、今井巡査に捜査状況を質問すべきでもないと考えている。
 確かに、今井巡査ならば、詳しく捜査状況を把握しているのかも知れない。だが、僕には長谷川刑事が、この巡査を含めた村民全員に何らかの疑いを持っている気がするのだ。

 必然、共通の話題の無い彼との会話は続かず、気まずい沈黙の時間を過ごさざる得なかったのである……。

 一方、その夜の晩飯は、子供のいない村長夫妻も加わって賑やかなものとなった。
 なんと、山岸村長の奥さんが作ってくれた名物の猪汁が出てきたのである。
 猪汁には、ここで採れたものか、根野菜が沢山入っており、猪肉も柔らかく煮えていてとても美味い……。
 その席で、村長と僕は二人でビール1本を開けている。因みに、村長の奥さんと勤務中である今井巡査は、残念ながら、アルコール類を摂取することはなかった……。
 後で良く考えてみると、このビールに一服盛られてたのではなかろうか……?

 しかし、その時の僕は、そんな事は微塵も疑ってはいなかったのだった。
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

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