真相(3)

文字数 1,103文字

「ああ、そうじゃ! 儂ら見ておった!」
「見ていたのに、崖下に助けに行かなかったと云うのは、少し問題ね……」

 今井巡査が項垂れながら、それに答えた。
「はい。彼女が、このまま事故で死んでくれればいいと思いました。誰も気付かなかったと云うことで……」
 僕はこの、警察官の言葉とは思えない発言に激怒した。そして、今井巡査に掴み掛かろうとさえしていた。
「橿原君……。でも君、変だと思わない? 彼女は、あの程度の崖から落ちただけじゃ、死なないんだよね……」
 僕は立ち上がるのを止めた。

「私は、村の精製施設へ向かう途中に見つけた例の薬物の解析を依頼すると共に、都内に戻った序でに、君たちの大学に確認しに行って来たのよ。君と要耀子さんの関係を……。
 それで、分かったのは……、君たち二人、実は仲が酷く良くないってこと……」
「え? そ、そんな……」
「二人は同じサークルにいるのに、君が来ると彼女は酷く嫌な顔をし、彼女が現れた時に君がいると、彼女は帰ってしまうそうじゃない? 今回の調査も、二人の仲の悪さにげんなりした副部長が『仲が悪くないって言うんなら、今回は二人でフィールド調査に行ってきなさいよ!』と云うのを、売り言葉に買い言葉で出掛けたって言うじゃない……」
「そ、それは……」
「彼女は、お化けとか、幽霊とか、ゾンビとか酷く怖がっていたそうじゃない? 彼女は絶対乗り気ではなかった筈よ。
 でも、そんな彼女と出掛けるの、君は随分と喜んでいたみたいね。相性の悪い相手と出掛けることになったって云うのに……」

「聞いてください! 僕と耀子先輩とは決して仲が悪くはないんです。僕は彼女に憧れてミステリー愛好会に入ったのですから!」
「憧れて……ねぇ?」
「僕が大学に入って直ぐの頃、歩いて帰ろうと夜道を行くと、何時までも同じ場所を歩く様な気になって、迷ってしまったのです。そんな僕を助けて、駅まで送ってくれたのが実は彼女だってんです。
 それから僕は、ずっと彼女……、要先輩と付き合いたいと思ってたのですが、彼女が全然逢ってくれなくて、それでも、僕がお願いすると……、僕と親しくない様に思わせるのならば、逢うだけなら構わないと云うので、仕方なくそうしていたんです」
「証明できる?」
「証明?」
「彼女を嫌いな君が、事故に見せかけて彼女を殺したのではないと云う証拠があるかってことよ……。
 彼女の顔、グチャグチャだったわよね。余程恨みがあった人の犯行だと思わない? だとすると、殆ど面識のない村の人は殺人犯では在り得ないのよ……。
 そんなことをするのは、愛しているにしろ、憎んでいるにしろ、彼女に強い感情を持っている人間しか考えられないわ!」
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

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