のっぺらぼう(4)

文字数 892文字

 それでも僕は、一縷の望みを抱いて車がやって来るのを待った。もしそれが、長谷川刑事の仲間だとしたら、僕は彼らに保護して貰える可能性がある。

 僕は慎重に、スマホを懐中電灯替わりとし、それで車に両手を振って合図を送った。何もしないで道路の中央で待っていると、そのまま轢かれてしまう危険性があるのだ。車の方も、僕の合図に気が付いのか、ランプを上下させて合図を送ってきた。

 車は一分もしないうちに、両手を振り続けている僕の前で止まってくれた。僕には何分もの時間に感じられたが、恐らく、四十秒も経っていなかったのではなかろうか?

 車から数人のサングラスとマスクの男が降りてきた……。刑事さんだろうか?
 僕は彼らの方へと駆け寄った。そしてリーダーらしき男に、僕は妖怪のっぺらぼうの事を訴えたのだが……。
「た、助けて下さい! の、のっぺらぼうが出たんです!」
「ははは。君、大人を揶揄おうなんて、良くないぞ!」
 彼らは僕の云うことを信じない。
 当たり前だ。でも、僕はそんな当たり前のことも気付けなかった。せめて「済みませんが、町まで乗せていってくれませんか? 道に迷っちゃたんです」とでも言うべきだったのだ……。
「本当なんです。妖怪がいるんです!」
「そんなバカな!」
 彼らは笑って取り合ってくれない。
「見たんですよ! 僕は!!」
「見たって……、こんな顔かい?」
 彼らは一斉にサングラスとマスクを外した。彼らの顔には、村人と同じ様に、目も、鼻も、口も無かったである。

 結局、この車は村人のものだったのだろう……。あの車に乗っていたら、僕は村に連れ戻されてしまう所だった。

 僕は慌てて逃げた。今度は村の方に。正直、後先なんて考えていない。のっぺらぼうから、少しでも離れたいと云う欲求しか、僕には残されていなかったのである。
 いつの間にか僕は、見覚えのある場所に戻っていた。そこは耀子先輩が殺されていた例のカーブだ。そしてその時、村の方から声が聞こえてくる……。

 それは、僕にも聞き覚えのある声だった。
「橿原く~ん、大丈夫?」
 それは、僕が死んだと思っていた長谷川刑事の声だった。彼女は生きていたのである。
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

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