【玖】霊界フィクサー
文字数 1,428文字
「祐太朗さん、度胸あるね。あれ刑事でしょ?」
「刑事は刑事でも生徒会長崩れの元優等生だ。あんな落ち零れにびびる理由なんかない」
美沙は祐太朗と弓永の関係を訊ね、祐太朗は面倒くさそうにそれについて説明した。
「そうだったんだ。まぁ、それはそれでいいんだけどさ……。それより、依頼って、何の? 祐太朗さん、探偵か何かなの? もしかして、あの動画と何か関係あったり……?」
「ねぇよ」ぶっきらぼうに返答する祐太朗。
が、その口調は逆に美沙に確信を抱かせてしまい、美沙はソファから身を乗り出すと、
「ウソ、本当はそうなんでしょ? で、何? もしかして幽霊関係のこと?」
祐太朗は堅く口を閉ざしている。美沙がさらに追求すると、祐太朗は天井を仰いで、大きくため息をつくと、何でもいいから知ってる都市伝説をいってみろといった。
美沙はこれまでにウワサになっていた都市伝説をいくつか挙げた。が、祐太朗は、他には?と突っ撥ねるばかり。話が尽き掛けた頃、美沙はとある稼業についての都市伝説を思い出した。が、聞いた話では、その稼業のことを知った人間は――美沙は唾を飲み込んだ。
「これはネットで知った話なんだけど、『霊界フィクサー』って仕事があるって。何でも、その仕事は『恨めし屋』とも呼ばれてて――」
ハッとする美沙――祐太朗の冷たい視線が美沙に突き刺さる。
「まさか……」美沙の声は今にも消え入りそうだ。
祐太朗は無言のまま立ち上がった。
美沙はソファの背に自分の身体を押しつけた。
まるで蜘蛛の巣に絡め取られた蝶のように美沙はもがき、笑みを零した。
「ウソだよ……。祐太朗さんみたいなドジな人が霊界フィクサーだなんて。そんな……」
美沙の脳裏に、ネットの闇掲示板で見た情報が閃光を放ちながらよぎる。
『恨めし屋』――別名、『霊界フィクサー』は死んだ人間とのコンタクト、人探し、復讐代行等の仕事を請け負う闇の稼業で、その存在を知ってしまった人は死ぬといわれていた。が、そんな話は所詮、都市伝説でしかない。しかし、今、美沙の前にいるのは本物の――
美沙の唇に震えが走った。
ソファの背に自分の背中を押し付ける。逃げ道はない。
祐太朗は美沙ににじり寄って――
「ただいまぁー!」
玄関扉が勢いよく開いた。
「ユウくん、会いたかったよぉー!」
女――靴を脱ぎ捨てて駆け込んでくると祐太朗に飛びついて頬にキスをした。
祐太朗はその女を突き飛ばした。女がいじらしく祐太朗を見つめた。そして、美沙の存在に気づいた。女の表情がサーッと冷めていく。
「誰?」女は祐太朗に説明を求めた。下唇と顎を突き出して一五センチは背が高いであろう祐太朗に詰め寄る様は、その小動物的な容姿には不釣合いだった。
居心地が悪い――色んな意味で。
何だって自分はこんな妻帯者――あるいは彼女だろうか――の家に上がり込んでしまったのだろう。それにこの女は、祐太朗が裏稼業に従事していると知っているのだろうか。
美沙は女に名を名乗り、自分が五村高校の学生であると説明した。
「ふうん……、ユウくんて案外ロリコンなんだね」女は祐太朗を軽蔑するような目で見た。
「うるせえな、勘違いすんなよ」
「じゃあ、どういうことなの?」
美沙は後悔の念を沈殿させるように深くうな垂れた。
「刑事は刑事でも生徒会長崩れの元優等生だ。あんな落ち零れにびびる理由なんかない」
美沙は祐太朗と弓永の関係を訊ね、祐太朗は面倒くさそうにそれについて説明した。
「そうだったんだ。まぁ、それはそれでいいんだけどさ……。それより、依頼って、何の? 祐太朗さん、探偵か何かなの? もしかして、あの動画と何か関係あったり……?」
「ねぇよ」ぶっきらぼうに返答する祐太朗。
が、その口調は逆に美沙に確信を抱かせてしまい、美沙はソファから身を乗り出すと、
「ウソ、本当はそうなんでしょ? で、何? もしかして幽霊関係のこと?」
祐太朗は堅く口を閉ざしている。美沙がさらに追求すると、祐太朗は天井を仰いで、大きくため息をつくと、何でもいいから知ってる都市伝説をいってみろといった。
美沙はこれまでにウワサになっていた都市伝説をいくつか挙げた。が、祐太朗は、他には?と突っ撥ねるばかり。話が尽き掛けた頃、美沙はとある稼業についての都市伝説を思い出した。が、聞いた話では、その稼業のことを知った人間は――美沙は唾を飲み込んだ。
「これはネットで知った話なんだけど、『霊界フィクサー』って仕事があるって。何でも、その仕事は『恨めし屋』とも呼ばれてて――」
ハッとする美沙――祐太朗の冷たい視線が美沙に突き刺さる。
「まさか……」美沙の声は今にも消え入りそうだ。
祐太朗は無言のまま立ち上がった。
美沙はソファの背に自分の身体を押しつけた。
まるで蜘蛛の巣に絡め取られた蝶のように美沙はもがき、笑みを零した。
「ウソだよ……。祐太朗さんみたいなドジな人が霊界フィクサーだなんて。そんな……」
美沙の脳裏に、ネットの闇掲示板で見た情報が閃光を放ちながらよぎる。
『恨めし屋』――別名、『霊界フィクサー』は死んだ人間とのコンタクト、人探し、復讐代行等の仕事を請け負う闇の稼業で、その存在を知ってしまった人は死ぬといわれていた。が、そんな話は所詮、都市伝説でしかない。しかし、今、美沙の前にいるのは本物の――
美沙の唇に震えが走った。
ソファの背に自分の背中を押し付ける。逃げ道はない。
祐太朗は美沙ににじり寄って――
「ただいまぁー!」
玄関扉が勢いよく開いた。
「ユウくん、会いたかったよぉー!」
女――靴を脱ぎ捨てて駆け込んでくると祐太朗に飛びついて頬にキスをした。
祐太朗はその女を突き飛ばした。女がいじらしく祐太朗を見つめた。そして、美沙の存在に気づいた。女の表情がサーッと冷めていく。
「誰?」女は祐太朗に説明を求めた。下唇と顎を突き出して一五センチは背が高いであろう祐太朗に詰め寄る様は、その小動物的な容姿には不釣合いだった。
居心地が悪い――色んな意味で。
何だって自分はこんな妻帯者――あるいは彼女だろうか――の家に上がり込んでしまったのだろう。それにこの女は、祐太朗が裏稼業に従事していると知っているのだろうか。
美沙は女に名を名乗り、自分が五村高校の学生であると説明した。
「ふうん……、ユウくんて案外ロリコンなんだね」女は祐太朗を軽蔑するような目で見た。
「うるせえな、勘違いすんなよ」
「じゃあ、どういうことなの?」
美沙は後悔の念を沈殿させるように深くうな垂れた。