【拾睦】愛してください
文字数 1,015文字
帰り道、美沙は詩織に両親のことを訊ねた。が、詩織がいうには、普通の両親とのことで、祐太朗の話していた内容とは齟齬が生じていた。祐太朗は自分の両親をネグレクトの化身のようにいっていたのに、詩織はエデンの神様のように親しみをこめて話していた。
人によって感じ方は様々とはいえ、兄妹でここまで印象が違うのも不思議だったが、これは自分がひとりっ子だからこそ抱く違和感なのだろうか。とはいえ、あまり穿るのもよくないだろうと美沙は詩織の回答に納得してその場を納めた。
道中、たくさんの霊がいたが、詩織は動揺することなく笑顔で颯爽と通りを歩いていた。
美沙は感嘆した。自分も幽霊に対してあんな風に毅然としていられるだろうか。どこか抜けているが、大人の女性としての魅力に満ちている詩織は、美沙にとって憧れのお姉さんであった。美沙は詩織にプライベートな質問をたくさん投げ掛けた。が、いいづらいであろう質問にも詩織はさらっと答えてしまう。
それでわかったのは、どうやら詩織は男に対して簡単に身体を許してしまう傾向にあるということだ。それには流石に驚かざるを得なかったが、個人の生き方に無粋な口出しをするのも野暮だ、と美沙は続くことばをすべて飲み込んだ。
美沙は完全に鈴木兄妹に心酔していた。
が、楽しい時間はそう長くは続いてくれない。
家に着くと、電気はすべて消え、鍵も掛かっていた。時刻は二三時を少し過ぎたくらい。美沙もこれまで散々夜遊びしてきたのだから、そうあっても文句はいえない。が、美沙にはそれが「ここにはお前の居場所はない」といわれているように感じられてならなかった。
もしかしたら、詩織が自分を引き止め、泊まっていいといってくれるかもしれない。
そんなことありえないのに、どうしても淡い期待を抱いてしまう。しかし、そんな期待を抱くと、自分を蝕む孤独感はより一層強くなるばかりだ。
人生に期待してはいけない。
期待したら最後、失望という名の怪物が自分のこころを食い破る。
そうなれば、さらなる孤独に苛まれるだけだ。
「じゃあね」涙を噛み殺して、詩織の姿が見えなくなるまで手を振った――振り続けた。
遠のく詩織の姿が闇に消えると、美沙は鍵を開け家の中へ入った。
美沙は玄関に屈み込み、声を殺して泣いた。
人によって感じ方は様々とはいえ、兄妹でここまで印象が違うのも不思議だったが、これは自分がひとりっ子だからこそ抱く違和感なのだろうか。とはいえ、あまり穿るのもよくないだろうと美沙は詩織の回答に納得してその場を納めた。
道中、たくさんの霊がいたが、詩織は動揺することなく笑顔で颯爽と通りを歩いていた。
美沙は感嘆した。自分も幽霊に対してあんな風に毅然としていられるだろうか。どこか抜けているが、大人の女性としての魅力に満ちている詩織は、美沙にとって憧れのお姉さんであった。美沙は詩織にプライベートな質問をたくさん投げ掛けた。が、いいづらいであろう質問にも詩織はさらっと答えてしまう。
それでわかったのは、どうやら詩織は男に対して簡単に身体を許してしまう傾向にあるということだ。それには流石に驚かざるを得なかったが、個人の生き方に無粋な口出しをするのも野暮だ、と美沙は続くことばをすべて飲み込んだ。
美沙は完全に鈴木兄妹に心酔していた。
が、楽しい時間はそう長くは続いてくれない。
家に着くと、電気はすべて消え、鍵も掛かっていた。時刻は二三時を少し過ぎたくらい。美沙もこれまで散々夜遊びしてきたのだから、そうあっても文句はいえない。が、美沙にはそれが「ここにはお前の居場所はない」といわれているように感じられてならなかった。
もしかしたら、詩織が自分を引き止め、泊まっていいといってくれるかもしれない。
そんなことありえないのに、どうしても淡い期待を抱いてしまう。しかし、そんな期待を抱くと、自分を蝕む孤独感はより一層強くなるばかりだ。
人生に期待してはいけない。
期待したら最後、失望という名の怪物が自分のこころを食い破る。
そうなれば、さらなる孤独に苛まれるだけだ。
「じゃあね」涙を噛み殺して、詩織の姿が見えなくなるまで手を振った――振り続けた。
遠のく詩織の姿が闇に消えると、美沙は鍵を開け家の中へ入った。
美沙は玄関に屈み込み、声を殺して泣いた。