【漆】弓永龍
文字数 854文字
ふたりが祐太朗の家の前までくると、不審な人影が玄関前で佇んでいるのが見えた。
「よう、穀潰し!」ふたりに気づくと不審な人影は、手を挙げて会釈してきた。
弓永龍だった。高校時代は爽やかな優男という印象だった弓永も、今では無精ひげが無作法に根を張り、髪も警察機構の人間とは思えないほどボサボサで、目つきも狂犬病の野良犬のように濁っていた。弓永の視線が、祐太朗の背後に隠れようとする美沙を捉えた。
「ほぉ、お前なかなかいい趣味してんじゃねえか。未成年との淫行は法律で禁止されてるってことぐらい、その腐った脳みそによく叩き込んどけよ」
「生憎だけどな、おれだって法律ぐらい知ってるつもりだ。でもな、テメエみたいなクズ警官をシバいたって世間は許してくれるってこともわかってる――」
「だからお前は馬鹿だってんだよ。で、その制服、城南のだろ? 一体どうやってその子と知り合ったのか、詳しく聞かせてもらいたいね」
弓永が腰元に手を回した。金属同士がぶつかり合う音。祐太朗の衣服を掴む美沙――
「止めろ。ガキの補導はテメエの仕事じゃねえだろ。そもそもコイツは……」
「コイツは、何だ。いってみろよ。まさか、その子が依頼人のわけないだろ?」
祐太朗の表情が強張った。美沙はわけもわからずふたりを眺めた。
「……金が欲しいんだろ? だったら余計なことほざいてねえでさっさと詩織にいって渡してもらったらどうだ?」
「質問したのにシカトかよ。まぁ、いいや。詩織さんならいねえよ。何度インターフォン鳴らしても出ねえから、てっきり夜逃げしたのかと思ったよ」
実はこの日、詩織は珍しく高校時代の友人たちとの飲み会があるとのことで、夜遅くまでいないと祐太朗に伝えてあったのだ。祐太朗はそのことを思い出し、口走った。
「じゃあ、おれたちも高校時代のよしみで飲み会でもするか」
「ふざけんな。テメエと飲むビールなんか馬の小便よりマズイ」
「お前、馬の小便飲んだことあんのか?」
「……いいから上がれ」
「よう、穀潰し!」ふたりに気づくと不審な人影は、手を挙げて会釈してきた。
弓永龍だった。高校時代は爽やかな優男という印象だった弓永も、今では無精ひげが無作法に根を張り、髪も警察機構の人間とは思えないほどボサボサで、目つきも狂犬病の野良犬のように濁っていた。弓永の視線が、祐太朗の背後に隠れようとする美沙を捉えた。
「ほぉ、お前なかなかいい趣味してんじゃねえか。未成年との淫行は法律で禁止されてるってことぐらい、その腐った脳みそによく叩き込んどけよ」
「生憎だけどな、おれだって法律ぐらい知ってるつもりだ。でもな、テメエみたいなクズ警官をシバいたって世間は許してくれるってこともわかってる――」
「だからお前は馬鹿だってんだよ。で、その制服、城南のだろ? 一体どうやってその子と知り合ったのか、詳しく聞かせてもらいたいね」
弓永が腰元に手を回した。金属同士がぶつかり合う音。祐太朗の衣服を掴む美沙――
「止めろ。ガキの補導はテメエの仕事じゃねえだろ。そもそもコイツは……」
「コイツは、何だ。いってみろよ。まさか、その子が依頼人のわけないだろ?」
祐太朗の表情が強張った。美沙はわけもわからずふたりを眺めた。
「……金が欲しいんだろ? だったら余計なことほざいてねえでさっさと詩織にいって渡してもらったらどうだ?」
「質問したのにシカトかよ。まぁ、いいや。詩織さんならいねえよ。何度インターフォン鳴らしても出ねえから、てっきり夜逃げしたのかと思ったよ」
実はこの日、詩織は珍しく高校時代の友人たちとの飲み会があるとのことで、夜遅くまでいないと祐太朗に伝えてあったのだ。祐太朗はそのことを思い出し、口走った。
「じゃあ、おれたちも高校時代のよしみで飲み会でもするか」
「ふざけんな。テメエと飲むビールなんか馬の小便よりマズイ」
「お前、馬の小便飲んだことあんのか?」
「……いいから上がれ」