【拾玖】祐太朗の馬鹿
文字数 1,032文字
あれから数日が経ったが、美沙が鈴木兄妹の家に現れることはなかった。
祐太朗は椅子に座ってテーブルに頬杖をつき、窓の外で揺れる今にも枝から切り離されてしまいそうな木の葉を眺めながら、まるで誰かからの連絡を待つようにテーブル脇に置かれたスマートフォンへと何度も目をやっている。
「美沙ちゃん、こないね」
キッチンから出てきた詩織がフレンチトーストの載ったお盆をテーブルに置いていった。祐太朗は、うんと空返事をしながら、スマートフォンをじっと見つめた。
詩織は、祐太朗と美沙の口論を知らない。ただ、たった数日とはいえ、美沙がこなくなってから、祐太朗にすっかり元気がなくなってしまった、と肌で感じているのだろう。
詩織は祐太朗の向かいに腰掛けると、冷めないうちに食べなーといって、ひとりフレンチトーストをパクリと頬張った。幸せそうな顔を浮かべる詩織を目に、祐太朗は薄っすらと笑みを溢した。祐太朗は目の前にあるフレンチトーストを詩織のほうへ寄せる。
「全部食えよ」祐太朗が詩織にそう勧めると、詩織は悲しそうに表情を歪ませた。「別に食欲がないわけじゃねえんだけど、お前があんまり幸せそうだから。おれは夕飯まで我慢するから、後はお前が食っていいよ」
祐太朗がそういうと、詩織は目を輝かせて残りのフレンチトーストもペロリと平らげてしまった。そんな詩織を、祐太朗は頬を緩ませて眺めていた。
そよ風が吹く。
揺れる木の葉が美しい音色を奏でる。
それに合わせるように鳥たちが斉唱する。大自然のフルオーケストラ。
暴力――携帯の着信音が平穏を切り裂いた。祐太朗は慌ててテーブルの端に置いてあった携帯を手に取った。発信者は「弓永龍」。
「お前のこと散々クズだっていってきたけど、まさか本物のクズだったとは、な。ガッカリだよ」電話が繋がると、弓永は敵意剥き出しでそういい放った。
「あ? テメエ、何がいいてえんだよ」
「何がって、え、じゃあアレ、お前じゃないのか?」
「何の話をしてんだよ。ひとりで勝手に疑って、勝手に納得して。テメエな、人を疑うってことは――」
「能書きはいい。そんなことより、本当にやってないんだな?」
「だから、何だよ!」弓永は二度三度息を飲むと、「落ち着いて聞けよ」と神妙な口振りで前置きした。祐太朗の神経の糸がピンと張った。
「大原美沙が殺された」
目の前が真っ暗になった。
祐太朗は椅子に座ってテーブルに頬杖をつき、窓の外で揺れる今にも枝から切り離されてしまいそうな木の葉を眺めながら、まるで誰かからの連絡を待つようにテーブル脇に置かれたスマートフォンへと何度も目をやっている。
「美沙ちゃん、こないね」
キッチンから出てきた詩織がフレンチトーストの載ったお盆をテーブルに置いていった。祐太朗は、うんと空返事をしながら、スマートフォンをじっと見つめた。
詩織は、祐太朗と美沙の口論を知らない。ただ、たった数日とはいえ、美沙がこなくなってから、祐太朗にすっかり元気がなくなってしまった、と肌で感じているのだろう。
詩織は祐太朗の向かいに腰掛けると、冷めないうちに食べなーといって、ひとりフレンチトーストをパクリと頬張った。幸せそうな顔を浮かべる詩織を目に、祐太朗は薄っすらと笑みを溢した。祐太朗は目の前にあるフレンチトーストを詩織のほうへ寄せる。
「全部食えよ」祐太朗が詩織にそう勧めると、詩織は悲しそうに表情を歪ませた。「別に食欲がないわけじゃねえんだけど、お前があんまり幸せそうだから。おれは夕飯まで我慢するから、後はお前が食っていいよ」
祐太朗がそういうと、詩織は目を輝かせて残りのフレンチトーストもペロリと平らげてしまった。そんな詩織を、祐太朗は頬を緩ませて眺めていた。
そよ風が吹く。
揺れる木の葉が美しい音色を奏でる。
それに合わせるように鳥たちが斉唱する。大自然のフルオーケストラ。
暴力――携帯の着信音が平穏を切り裂いた。祐太朗は慌ててテーブルの端に置いてあった携帯を手に取った。発信者は「弓永龍」。
「お前のこと散々クズだっていってきたけど、まさか本物のクズだったとは、な。ガッカリだよ」電話が繋がると、弓永は敵意剥き出しでそういい放った。
「あ? テメエ、何がいいてえんだよ」
「何がって、え、じゃあアレ、お前じゃないのか?」
「何の話をしてんだよ。ひとりで勝手に疑って、勝手に納得して。テメエな、人を疑うってことは――」
「能書きはいい。そんなことより、本当にやってないんだな?」
「だから、何だよ!」弓永は二度三度息を飲むと、「落ち着いて聞けよ」と神妙な口振りで前置きした。祐太朗の神経の糸がピンと張った。
「大原美沙が殺された」
目の前が真っ暗になった。