【拾四】再び彼のもとへ
文字数 859文字
玄関のドアを開けた詩織は美沙を見るなり嬌声を上げると、理由を訊くこともなく部屋へ上がるよう美沙にいった。リビングでは、いつもの黒い甚平を着た祐太朗が赤ら顔でソファに寝転がっていた。ソファ前のテーブルには残りカスしかない開かれたスナック菓子の袋と潰れたビールの缶が数本転がっていた。
祐太朗が寝転がりながら尻をボリボリ掻く様はおっさんその物だった。女子高生にとっては見るに耐えないような光景ではあったが、美沙はそんな祐太朗の姿に口許を緩め、
「ひどっ! 完全におっさんジャン! あ、おっさんか」とケタケタ笑う。
飛び起きる祐太朗――
「何でいるんだよ!」
「ふふ、きちゃった」
「きちゃった、じゃねえよ。金なら返したろ。さっさと――」
「帰りたくない!」
口論が始まった。両者とも一歩も引かず、痺れを切らした詩織がふたりの間を割った。
「静かにして。とりあえず、家に電話してお父さんかお母さんの許可が出たら泊まっていい。ね、それでいいでしょ?」
祐太朗は納得しなかった。尚も詩織に考え直すよういったが、詩織に両親との関係性を持ち出されると、勝手にしろと極まり悪そうにソファで不貞寝した。
美沙はバッグから携帯を取り出して電話を掛けた。時刻は二三時を過ぎていたが、両親はまだ起きているはずだと美沙は予想した。ビンゴ。電話はすぐに繋がった。
「何?」不機嫌そうな母親の声がホワイトノイズに紛れて美沙の内耳に流れ込んできた。
「今日、友達の家に泊まろうかと思うんだけど……」
「あそ」電話が切られた。味気のない会話。親子の会話とは思えない。美沙は唇を噛み締めた。詩織が心配そうに美沙の顔を覗き込んだ。美沙はその場の空気を取り繕うように大仰な笑顔を浮かべると首を横に振って、何でもないと強がった。詩織に服を貸してほしいと頼み洗面所へと早足で向かう美沙を見て、詩織は消え入りそうな声で返事をした。
祐太朗は寝転がったまま、首を少しだけ傾けて背後に意識を飛ばしていた。
祐太朗が寝転がりながら尻をボリボリ掻く様はおっさんその物だった。女子高生にとっては見るに耐えないような光景ではあったが、美沙はそんな祐太朗の姿に口許を緩め、
「ひどっ! 完全におっさんジャン! あ、おっさんか」とケタケタ笑う。
飛び起きる祐太朗――
「何でいるんだよ!」
「ふふ、きちゃった」
「きちゃった、じゃねえよ。金なら返したろ。さっさと――」
「帰りたくない!」
口論が始まった。両者とも一歩も引かず、痺れを切らした詩織がふたりの間を割った。
「静かにして。とりあえず、家に電話してお父さんかお母さんの許可が出たら泊まっていい。ね、それでいいでしょ?」
祐太朗は納得しなかった。尚も詩織に考え直すよういったが、詩織に両親との関係性を持ち出されると、勝手にしろと極まり悪そうにソファで不貞寝した。
美沙はバッグから携帯を取り出して電話を掛けた。時刻は二三時を過ぎていたが、両親はまだ起きているはずだと美沙は予想した。ビンゴ。電話はすぐに繋がった。
「何?」不機嫌そうな母親の声がホワイトノイズに紛れて美沙の内耳に流れ込んできた。
「今日、友達の家に泊まろうかと思うんだけど……」
「あそ」電話が切られた。味気のない会話。親子の会話とは思えない。美沙は唇を噛み締めた。詩織が心配そうに美沙の顔を覗き込んだ。美沙はその場の空気を取り繕うように大仰な笑顔を浮かべると首を横に振って、何でもないと強がった。詩織に服を貸してほしいと頼み洗面所へと早足で向かう美沙を見て、詩織は消え入りそうな声で返事をした。
祐太朗は寝転がったまま、首を少しだけ傾けて背後に意識を飛ばしていた。