【伍】祐太朗という男
文字数 1,171文字
甚平の男は自らを鈴木祐太朗と名乗った。
祐太朗は美沙をファミリーレストランへとつれていき、好きな物を食べるよういった。が、浮遊霊のにおいで吐きそうになっていた美沙は食欲もなく、ドリンクバーと簡単なデザートを注文するに留まった。祐太朗はステーキとラージライスを注文し、デリカシーの欠片もないほどガツガツと頬張っていた。
「で、何でおれの後をつけてたんだ?」
まだ食べ物が口内に残っているにも関らず、口許を隠さずに祐太朗は訊ねた。
「知ってたんですか?」
「制服の女子高生がひとりで甚平を着た男を尾行していれば、イヤでも目立つ」
美沙は祐太朗にどこで自分に気づいたのか訊ねた。祐太朗はストリートを歩いている時点で違和感はあったが、確信を持ったのは、コンビニで立ち読みをしていた時だと答えた。何でも、光の反射で美沙の動向はバレバレだったという。
「じゃあ、全部お見通しだったってわけ?」
「お見通しも何も、お前がくっついてきた理由も何となく、な」そういわれて美沙の表情に緊張が走った。祐太朗はナイフのように鋭い視線を美沙に向けた。「お前、見えてるな?」
「……見えるって、何が?」震える手でコップを掴み、メロンソーダで喉を潤す。
「隠そうったって無駄だ。息を止めておれの手を振り払う様を見れば、お前に霊感があることぐらいすぐにわかる。で、おれに何の用だ?」
少々の沈黙の後、美沙は観念したように自分が祐太朗をつけた理由を洗いざらい吐いた。祐太朗は素っ頓狂な声を上げ、動揺を見せた。さっきまでの冷静さがウソのようだった。
「ウソじゃないよ。その動画、SNSですげぇバズってるし」
「そのバズってるってのは止めろ。吐き気がする。何がバズるだ。灯篭に群がる虫けらじゃあるまいし。世間にはもっと目を向けるべき真実がたくさんあるっていうのに、空虚な自己顕示欲を満たすためだけにSNSなんてゴミに執着するなんて、まったく馬鹿げてる」
「そうやって説教くさいと、ジジイっていわれるよ」
祐太朗は口を真一文字に結んだ。美沙は口角を上げ、
「でも、祐太朗さんのいってること、わたしも正しいと思うけどね」
「……で、その動画で興味を惹かれて、おれの後をつけた、ってわけか」
「それもある。でも、わたし、興味があったんだ」
「何に?」
「――あなたに」
沈黙。祐太朗と美沙の視線が交錯する。
「……お前、イカレてないよな?」
「それは祐太朗さんも一緒だよ」
目を泳がせる祐太朗。
「……もういい」祐太朗は懐を探った。
目を見開く祐太朗――顔を青くする。
「……お前、財布なんか持ってないよな?」
「持ってるけど、何?」
「金、忘れた……」
美沙は絶句した。
祐太朗は美沙をファミリーレストランへとつれていき、好きな物を食べるよういった。が、浮遊霊のにおいで吐きそうになっていた美沙は食欲もなく、ドリンクバーと簡単なデザートを注文するに留まった。祐太朗はステーキとラージライスを注文し、デリカシーの欠片もないほどガツガツと頬張っていた。
「で、何でおれの後をつけてたんだ?」
まだ食べ物が口内に残っているにも関らず、口許を隠さずに祐太朗は訊ねた。
「知ってたんですか?」
「制服の女子高生がひとりで甚平を着た男を尾行していれば、イヤでも目立つ」
美沙は祐太朗にどこで自分に気づいたのか訊ねた。祐太朗はストリートを歩いている時点で違和感はあったが、確信を持ったのは、コンビニで立ち読みをしていた時だと答えた。何でも、光の反射で美沙の動向はバレバレだったという。
「じゃあ、全部お見通しだったってわけ?」
「お見通しも何も、お前がくっついてきた理由も何となく、な」そういわれて美沙の表情に緊張が走った。祐太朗はナイフのように鋭い視線を美沙に向けた。「お前、見えてるな?」
「……見えるって、何が?」震える手でコップを掴み、メロンソーダで喉を潤す。
「隠そうったって無駄だ。息を止めておれの手を振り払う様を見れば、お前に霊感があることぐらいすぐにわかる。で、おれに何の用だ?」
少々の沈黙の後、美沙は観念したように自分が祐太朗をつけた理由を洗いざらい吐いた。祐太朗は素っ頓狂な声を上げ、動揺を見せた。さっきまでの冷静さがウソのようだった。
「ウソじゃないよ。その動画、SNSですげぇバズってるし」
「そのバズってるってのは止めろ。吐き気がする。何がバズるだ。灯篭に群がる虫けらじゃあるまいし。世間にはもっと目を向けるべき真実がたくさんあるっていうのに、空虚な自己顕示欲を満たすためだけにSNSなんてゴミに執着するなんて、まったく馬鹿げてる」
「そうやって説教くさいと、ジジイっていわれるよ」
祐太朗は口を真一文字に結んだ。美沙は口角を上げ、
「でも、祐太朗さんのいってること、わたしも正しいと思うけどね」
「……で、その動画で興味を惹かれて、おれの後をつけた、ってわけか」
「それもある。でも、わたし、興味があったんだ」
「何に?」
「――あなたに」
沈黙。祐太朗と美沙の視線が交錯する。
「……お前、イカレてないよな?」
「それは祐太朗さんも一緒だよ」
目を泳がせる祐太朗。
「……もういい」祐太朗は懐を探った。
目を見開く祐太朗――顔を青くする。
「……お前、財布なんか持ってないよな?」
「持ってるけど、何?」
「金、忘れた……」
美沙は絶句した。