【拾漆】造反ーー失望の果てに
文字数 1,428文字
翌日、美沙が教室へ入ると、クラスメイトが美沙を横目で見ながらヒソヒソと話をしていた。本当につまらない奴ら。他人の弱みにつけ込んではハイエナのように群がる。
下賤だ。何だって自分はこんな連中と勉強なんかしなければならないのだろう。つくづく愛想が尽きた。「何?」クラス全員を睨みつけると、その場にいるハイエナどもがまるで合図をしたように黙り込み、美沙から視線を逸らした。
「馬っ鹿じゃないの!」そう吐き捨て、美沙は教室を後にした。廊下を歩いていると亜美たちと擦れ違った。亜美が美沙を呼び止める。が、美沙はそれを無視した。
「何、シカト?」金魚の糞のこころない捨てゼリフに美沙も思わず足を止めた。
「アンタらみたいな三流カタログのモデルみたいな連中と一緒にいるなんて、もうウンザリ。あのクラスもそう。みんながみんなゴシップ誌を身に纏ったような生き方をしてる。もう耐えられない。カーストも世間体もクソ喰らえ。何でそんな物のために自分を殺して生きなきゃならないの? 人の目を気にして、それに迎合したような生き方をして。そんな人生のどこが楽しいの? わたしは全然面白くない。わたしは自分の生きたいように生きる。だから、もう邪魔しないで」
美沙がいこうとすると、亜美は美沙がかつてグループに対していった陰口を、美沙のマインドを見透かすように披露した。美沙は狼狽した。狼狽せざるを得なかった。
――何でわたしがいった悪口を知っているの?
亜美たちの勝ち誇った顔。が、美沙は兜の緒を締め直すように毅然とした態度で、
「なら話は早いね。そう。わたし、アンタらのことが大嫌いだった。でも、もう会うこともないよね。精々、クラスの中で威張ってな。醜い独裁者さん――ごきげんよう」
美沙は小さく手首を振って亜美たちに別れを告げると、振り返りそのまま歩き出した。美沙の背中に無数の罵詈雑言が突き刺さる。が、もはやそんなものどうでもよかった。美沙は自分の背中に浴びせられる暴言の数々を完全に無視して威風堂々と昇降口を潜った。
カーストへの最初で最後の反抗――その造反は成功した。
「美沙ッ!」学校から出ると校門前で麻奈美に呼び止められ、足を止め振り返った。
麻奈美は美沙の前で立ち止まると、膝に手をついて息を切らしながらいった。
「どうしたの……あんなこといって……」
「麻奈美……わたし、もう疲れちゃった……」
「疲れちゃったって……、美沙、やっぱり最近変だよ? やっぱり例の――」
「祐太朗は関係ない!」
意図に反して出た大きな声にたじろぐ麻奈美を目にして、美沙は若干の後悔を覚えた。が、もう後戻りはできない。唾を飲み下すとそのまま威風堂々と、
「わたし、ずっと悩んでた。自分はこのまま死ぬまで周りに流されて生きていかなきゃならないのか、ってね。こんなこというと、まるでやりたいことがある、みたいに思われるかもしれないけど、そんな物はないんだ。でもさ、勉強なら自分でもできる。場所なんか関係ない。道はひとつじゃない。やろうと思えば選択肢はたくさんある。だから、わたしは自分で自分のゆきたい道を探す。自分の人生の選択権は自分にこそある。だから――」
美沙は砂煙舞う校庭に向かって自分の学生鞄を思い切り投げ捨てた。そのまま校舎に背を向けると、しっかりとした足取りで学校を去った。
誰かが舌打ちをした。
下賤だ。何だって自分はこんな連中と勉強なんかしなければならないのだろう。つくづく愛想が尽きた。「何?」クラス全員を睨みつけると、その場にいるハイエナどもがまるで合図をしたように黙り込み、美沙から視線を逸らした。
「馬っ鹿じゃないの!」そう吐き捨て、美沙は教室を後にした。廊下を歩いていると亜美たちと擦れ違った。亜美が美沙を呼び止める。が、美沙はそれを無視した。
「何、シカト?」金魚の糞のこころない捨てゼリフに美沙も思わず足を止めた。
「アンタらみたいな三流カタログのモデルみたいな連中と一緒にいるなんて、もうウンザリ。あのクラスもそう。みんながみんなゴシップ誌を身に纏ったような生き方をしてる。もう耐えられない。カーストも世間体もクソ喰らえ。何でそんな物のために自分を殺して生きなきゃならないの? 人の目を気にして、それに迎合したような生き方をして。そんな人生のどこが楽しいの? わたしは全然面白くない。わたしは自分の生きたいように生きる。だから、もう邪魔しないで」
美沙がいこうとすると、亜美は美沙がかつてグループに対していった陰口を、美沙のマインドを見透かすように披露した。美沙は狼狽した。狼狽せざるを得なかった。
――何でわたしがいった悪口を知っているの?
亜美たちの勝ち誇った顔。が、美沙は兜の緒を締め直すように毅然とした態度で、
「なら話は早いね。そう。わたし、アンタらのことが大嫌いだった。でも、もう会うこともないよね。精々、クラスの中で威張ってな。醜い独裁者さん――ごきげんよう」
美沙は小さく手首を振って亜美たちに別れを告げると、振り返りそのまま歩き出した。美沙の背中に無数の罵詈雑言が突き刺さる。が、もはやそんなものどうでもよかった。美沙は自分の背中に浴びせられる暴言の数々を完全に無視して威風堂々と昇降口を潜った。
カーストへの最初で最後の反抗――その造反は成功した。
「美沙ッ!」学校から出ると校門前で麻奈美に呼び止められ、足を止め振り返った。
麻奈美は美沙の前で立ち止まると、膝に手をついて息を切らしながらいった。
「どうしたの……あんなこといって……」
「麻奈美……わたし、もう疲れちゃった……」
「疲れちゃったって……、美沙、やっぱり最近変だよ? やっぱり例の――」
「祐太朗は関係ない!」
意図に反して出た大きな声にたじろぐ麻奈美を目にして、美沙は若干の後悔を覚えた。が、もう後戻りはできない。唾を飲み下すとそのまま威風堂々と、
「わたし、ずっと悩んでた。自分はこのまま死ぬまで周りに流されて生きていかなきゃならないのか、ってね。こんなこというと、まるでやりたいことがある、みたいに思われるかもしれないけど、そんな物はないんだ。でもさ、勉強なら自分でもできる。場所なんか関係ない。道はひとつじゃない。やろうと思えば選択肢はたくさんある。だから、わたしは自分で自分のゆきたい道を探す。自分の人生の選択権は自分にこそある。だから――」
美沙は砂煙舞う校庭に向かって自分の学生鞄を思い切り投げ捨てた。そのまま校舎に背を向けると、しっかりとした足取りで学校を去った。
誰かが舌打ちをした。