第24話 「どうする家康」

文字数 3,223文字

お師匠さーん、明けましておめでとうございまーす。


あれっ、いないのかなあ?


お師匠さーん。

里佳、残念ね。

副住職も年始は忙しいんじゃない?


こちらのご住職も結構お年だし……

うーん、最近あまり来れてなかったから、今日は会いたかったんだけどなあ。


もう一回だけ。


お師匠さーん! 舞衣お姉ちゃんとご挨拶に伺いましたよー!

ガラガラガラ
んが?


おはよう、ご、ございます……

きゃっ


ど、どなた?

えっ、えーっと


ぼかぁ、あいつの高校の同級生で……

ん?


ああ、おい?


その声は、舞衣ちゃんだぞ、その声は……

えっ、貴女が舞衣さんですか?


初めまして。

昨日、あいつが貴女のことばっかり言うんですよ。

そ、そうなんですか?
(なになに、この展開は~)
い、いやあの、その……


私が挫折した医学の道を志す立派な女性が近所におられる、という話ですっ。

<二人を見比べ>


あ、ああ、そうね。

そういう話だったかな?


(おいおい、こりゃあ難儀だねえ)

(全く、大人ってすぐこうやって)


ところでお師匠さん。

今年も、大河ドラマのお話がしたくて、舞衣おねえちゃんとやってきました!

ああ、そういえばそうでしたね。

あれから一年が、もう過ぎたんですねえ。


令和五年はなんだか慌ただしかったですね。

去年の話を里佳から聞いて、今年はご一緒したいと思ってたんです。


令和五年、偶然だけど「どうする家康」っていうタイトルは、混乱や難問が目の前に横たわる

現代に向けたもののように思います。

舞衣さん、ですよね?

貴女、随分とうまいことを言いますね。


僕も大河はなんだかんだで観ているのだけど、

今年はまた史実に反するという苦情というか、意見が多かったですね。

そこも含めて、どうする? という。

あら?

史実っていうけど、本当のことを知っている方が21世紀の今、どのくらいいるのかしらね。

史料に記載されていることが事実だったという保証なんかないでしょうに。

さすがの意見ですね。


貴重な史料、信ぴょう性のある史料といったところで、それが事実とは到底言えない。

第三者が書いたもの、それも別の時代の人が書いたものだったりします。

いや、自伝や日記だって、本当のことかどうかわかりませんよ。

今だって、そうでしょう?

性別や居住地を偽ってもネット世界じゃ別に珍しくもない。

でもそれを事実だと思い込んでいる人がごまんといる。

だから私は、ファンタジーだとか、ありえないだとか言わず、

令和五年の今だから、このようなストーリーで解釈していくんだ、

と思って楽しんでいました。

舞衣さん、そうですよね。


拙僧も同じ思いでネット上の評判を眺めていました。

でも、さすがに築山殿(瀬名)がきれいに描かれ過ぎているなあ、と思いましたが。

有村架純さんがやってた役ですよね?


家康と瀬名は本当にいい夫婦だなあ。

瀬名はすごい理想を掲げていたんだなあ。


憧れました。あんな死に方はもちろん嫌ですが。

(はあん、本人には、「ちゃん」付で呼べないのね)


子どもさんを前に言っていいのか分からないけど、

有村架純さんのような女優を使うことで、悪妻:築山殿をどうする? 

というのを前半の鑑賞ポイントに置いたんだよ、僕は。

なるほど。


出だしから二人のきれいな恋愛を見ていると、これは違うなあ、となるよね。

そこも含めて、令和の解釈ですよね。


武田内通が世界平和主義に置き換わったのは、ちょっと笑いましたが、

あのくらいわかりやすい方が視聴者に届くと思ったんですかね。

ちょっと視聴者もしらけるかな、とは私も思いました。

でも、里佳のような子どもは悪妻:築山殿ではなく、

平和主義者の瀬名を先に知ったということになるんですよね。

えっ、やっぱりそうよね?


あんなこと考えていたんなら、もっとあの人、今でも有名なんじゃないかと

思ってはいたのよ。

里佳ちゃん、かな。


君は賢いね。君くらいの子が観てくれるなら大丈夫だよね。

まあ、あまりものを考えない人は

大河を年間通して鑑賞したりしないでしょうから、ね。

瀬名絡みだと、側室選びのところで女性を恋愛対象にする女性の話が出てきましたよね。


…これはR-12ですか?

言葉は選んでくださいね。
その是非ではなくて、あれこそ令和だから描かれたストーリーでしょう。

ああいうことがあったかどうかはわかりませんが、

「鎌倉殿の13人」では実朝様がそういう方向で描かれました。

昔からそういう傾向の人はいたはずですから、これも史実派や大河かくあるべし、という層には

ウケが悪いのかな、と。

それこそ、ドラマでも映画でも、もちろん小説でもさんざん描かれてきたけども、

築山殿と長男信康。この二人を失うことになっても織田信長についていく家康っていうのは

僕にとってずっと謎でした。


その点、その信長にたてついたり、いつか倒すと言っている家康は気持ちよかった。

倹一くんが言っている、


ああ、彼の名前なんですが、


そこのところは、村岡素一郎などが唱える家康影武者説のポイントになるところだね。

もちろん今回は影武者説は採用していないけれどね。


影武者説なんてあるんですね。
おもしろい!


ネットに流れる陰謀説みたい!

ああ、確かに。


同じだろうね。

「史実」主義者にとってはもう、トンデモ説だろうけど。

トンデモ説といえば、今回の市から茶々に至る家康への思慕と怨嗟ね。

北川景子さんの演技は凄まじかったけれど、あれはどうかしら?

瀬名よりも空想で埋められる部分が少ないのかな、と冷静に考えちゃいました。

でも、入り込んでみると、うまいなあ、とも思いましたが。

まあ、確かに織田徳川連合をやるなら、市が家康に嫁いでも面白いですがね。

これはちょっとファンタジーが強かったかな。


でも北ノ庄城から出て来た茶々が秀吉に送ったあの視線はすごい。

白鳥玉季さんという子役だね。男子目線でぞくっとしました。

ふーん。
ああ、いや、いや。


それで、ああいう流れにしたとき、

瀬名‐信康の悲劇が大坂の陣で茶々‐秀頼に重なる演出が、歴史は繰り返すという格言とともに

効果的でした。

可哀そうって思ったけど、なんか見覚えがあったのよ、あの大坂城のシーン。

茶々の独演はなんか場に合わない気がしてしまいましたが。

見覚えといえば、家康と信康が長篠・設楽原の戦いで鉄砲三段撃ちの信長に、

「こんなの戦ではない」と言っていたシーン。

あれが大坂では秀忠が家康に訴える構造になった。

これも歴史は繰り返す、というところなのね。

まあ、そうですね。

そういう点で、メッセージ性が強いドラマになっていたとは思います。

石田三成が「戦なき世など戯言」と言い捨てるところ。

さっき出た淀君の独演。

世界が再び戦に向かっている空気感の中で、瀬名の平和主義と合わせてじっくり考えたいですね。

倹一さん、うまくまとめましたね。


失礼ですが、お仕事は何をされているのですか?

お坊さんではなさそうですが?

えっ、あ、僕は……


詳しくはいえないんですが、まあ、コンサルです。はい。

(えっ、おい…)
私、今医学部の6年生なんですが、

最近医学部からコンサルティングファームに入る人が時々いて、

ちょっと興味があるんです。


お話、聞かせてもらえますか?

(ちょっと、おねーちゃん!)


ああ、私、宿題やんないと!


帰ろっ、おねーちゃん!

そうだね、勉強しようね、里佳ちゃん!


今日のお接待はこちらでどうぞ。

おうちで食べてね。

あっ、これ美味しそう!
浜松銘菓の「姫様スティック」です。

うなぎパイの陰に隠れていますが、イチゴとキャラメルが絶妙で、美味しいですよ。


ささ、舞衣さん……

あ、ああ、うん。そうね。

私も国家試験あるし……


でもちょっと、あ、これ私のアドレスです。

倹一さん、メールお願いします!

<ちらと副住職をみる>


ああ、はい。

じゃあ、僕もこれで。

楽しかったです。ありがとうございました。

(さらば、倹一)


では、ちょっと慌ただしいけど、今日はこれまでだね。

里佳ちゃんもありがとう。

ありがとうございました~
浜松銘菓

「姫様スティック」


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登場人物紹介

作者投影。文章修行しているつもり。

本職は、寺院の副住職(跡継ぎ)。未婚。

全く似ていませんし、職業も勿論違います。

近所の女の子。里佳。

話し相手になってくれる優しい才女。

拙作「転校したとです。」の山田さんイメージです。

舞衣。里佳の従姉。医学科の学生さん。

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