第10話 ネグレクトじゃないのか?⑤

文字数 1,661文字

前も言ったように『アンナ・カレーニナ』は長編なので、

話を息子のセリョージャに絞っていくと……。


8歳の男の子なんだけど、お母さんが突然いなくなる。

ヴロンスキーという男のところへ行ってしまった。

そしてお母さんは死んだ、と使用人から聞かされる。

さっきのベルトちゃんは、死んでいるところを見ているから、

かわいそうだな、と思ったけど、見てもいないのに死んだって言われるのも……。

まあ、どっちも受け入れがたいけど、

後々のことを考えると、死に目に会える方がいいわね。

それでセリョージャは信じていないから、いつかは会えると密かに期待している。

そんな中、誕生日の早朝、部屋に母親が現れる!

なにそれ!


すごい展開じゃない!

ところが、ってやつよ。


これはアンナがどうしても会いたい、と夫のカレーニンには内緒で入って来たものだったわね。

だから、夫、つまりセリョージャのお父さんが来た途端にアンナは出て行ってしまう。


うーん、9歳?


気づくわね。

実はこの時までに、アンナはヴロンスキーの子を出産する際重病になり、

カレーニンの家に戻っていたこともあった。

そしてカレーニンは離婚に同意したのだけれど、逆にアンナが離婚から逃げる。

しかもそれがヴロンスキーのところ。

ここは複雑ですね。

だってヴロンスキーのところに行っても、そのヴロンスキーが逃げの姿勢をとるのよね?

男の人は、いざ重圧がかかると逃げようとするじゃない?

これって、『ボヴァリー夫人』の相手達も同じかしらね?

うむ……


分からなくはないですが、そこまでモテたことが……

副住職さん?


そこは大事よ。

(あれ? 舞衣おねえちゃん……)


それで、セリョージャくんはまたお母さんと離れたのね。

そうなんだ。


(ありがとう、里佳ちゃん)


離婚してしまうと、アンナはセリョージャに会えなくなる。

これは現代でも、特に国際結婚からの離婚で問題になっている。


いや、国内でも。

養育権の他、虐待の関係もあって……。

そうね……。


男女が逆のことが今は多い?

いや、そうとも言えないか。


まあ、そこは深入りせず。

そしてヴロンスキーはその母が結婚させたがっている令嬢とも付き合いができる。

アンナは嫉妬に狂いながら、駅で列車に轢かれることを選んでしまった。

最初に出ていくとき、セリョージャとの生活も含め捨てていった訳よね。

確か煩わしさを感じていたのだったかな。

やっぱり人生の選択って難しいわね……
里佳?


まあ、まだそんなに悩む場面は……

エンマ・ボヴァリーは実際に明らかな家出をしていないので、

その点、アンナの子であるセリョージャの心の痛みはベルトとは違う。

でも、スカーレットの子たちも含め、みんな母親からの愛を十分に受けたとは

自覚できないよね。

さっきも言ったけど、自由に振る舞う、というのは難しいのね。

責任というところも、義務というところも、そして本当に子どもへの愛がないとは言い切れない訳でしょ?


セリョージャに会いに行ったアンナを賞賛すべきか、も分かれますね、きっと。
だからって、一回決めた人生が変更できないのも、何か違う気がする。


素晴らしい!


結局、選択するということは、完全な円満解決ではない、ということでしょう。

考えすぎて決められない人生もやはり問題だと思いますし。

副住職さんは、いろいろ回り道をされたんでしょ?
まあ、拙僧のことは、まあ……。



なんかでも、大変な子たちの話と

女のこれからを考えるのに面白いお話だったわ。


お師匠さん、さすがです。

有り難うございました。

お母さんにもお話しよう!


陽子さんはもっとたくさん本を読んでいると思うので、

また違う見方をされているかもしれないね。

しかし、怒られないかな。里佳ちゃんにこんな話をして……。

この軽羹を持って帰れば、おばさんも大丈夫でしょ?


副住職さん、ありがとうございました。

またよろしくお願いします。

舞衣さん、次はいつ帰られますか?


ウイルスの状況次第かもしれませんが。

まあ、新幹線一本ですからね……



(意外と舞衣おねえちゃん、お師匠のこと好きなのかな?)


(面白いわ。今度、まずお師匠さんをしっかり探っておこう♡)

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登場人物紹介

作者投影。文章修行しているつもり。

本職は、寺院の副住職(跡継ぎ)。未婚。

全く似ていませんし、職業も勿論違います。

近所の女の子。里佳。

話し相手になってくれる優しい才女。

拙作「転校したとです。」の山田さんイメージです。

舞衣。里佳の従姉。医学科の学生さん。

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