第3話 不倫の名作①

文字数 1,316文字

お師匠さん!

何を読んでるの?

おお、里佳ちゃんか。

拙僧を師匠などと呼んでくださるとは、何ともまあ。

うむ、これは『ボヴァリー夫人』という題名で、19世紀のフランスで……


(いいのか? こんな小さな子に……)


なんというかな、旦那さんと違う人を好きになった、

ちょっと、副住職さん!!

駄目でしょ、里佳にそんな話は!

おや、貴女は……。

舞衣ちゃ、いや舞衣さんか!?

大きく、いや綺麗になったねえ。

ご無沙汰しています。

副住職は相変わらず、読書家ですね。

まあ、拙僧などは、それだけが楽しみみたいなものだからね。


って、舞衣さん、今日は?

ちょっとー。舞衣お姉ちゃん!

私が本のことを聞いたんだよ!?

そうだったわね。

今日は帰省。またあのウイルスが流行る前に、ちょっとね。


でも里佳にこれはないでしょ? 

副住職さん。

大丈夫だよ。

わたし、お母さんと一緒に昼ドラよく見てるから、いろいろ知ってるよ。

フリンでしょ?


で、わたしみたいなコのことをミミドシマ、って言うんでしょ?

(さすがだ。才女は違うなあ。)

そういうことなら、いいかな。

良くないわよ。

まあでも、私も気になるから、教えてください。

R12だと私が判断したら、止めるからそのつもりで。

『ボヴァリー夫人』は、結婚したものの、あまり素敵な恋愛ではなかったと思っていて。

それで別の男に心惹かれる。それも二人に渡って。

ふーん、そういうもんなんだ。
なかなか、ときめいたり、ましてやそれを続けるのは、難しいわよね。
拙僧はやはり男なので、この夫、シャルル・ボヴァリー氏に同情してしまう。

まだまだ無の境地には至れず、恥ずかしい限りです。

そうそう、副住職。

さっき「旦那」って言ってたわよね。

これって、妻が下っていう表現だよね。

なので、今は「夫」にしたけどね。

まあ、日本語で対等な関係の言葉は、あるのかな?

カタカナでパートナーはちょっと嫌だなあ、と。

お話の続きは?
うん。

この夫人、不倫相手に逃げられないように借金を重ねてしまうのだけど、結局は捨てられる。

もちろん借金は残る。夫は気付かない。

うーん。
そして、薬局から砒素という毒を持ち出し、飲んでしまう!
えっ、砒素中毒の話なの!?

面白そう。読もうかな。

さすがは医学生、舞衣ちゃ、いや舞衣さん。


(自坊にお迎えするには、やはり立場が違い過ぎるか……)


ボヴァリー氏は医師で、薬局の近くに住んでいるんだ。




なんか、どっちも可哀想だな。

どうしてそんな……。だいたいフリンものって、あんまりハッピーな結末にならないよね。

(おお、恐るべし、小学生)


まあ、本人たちがハッピーでも、誰かが傷つく話にはなるね。


え? 医者設定なんだ!

絶対読もう。


でも、そんな風に傷ついたときの為に、駆け込み寺があるんでしょ?

なるほど。舞衣ちゃ、いや舞衣さんはいい着眼点ですね。
まあ、それで、拙僧は以前読んだトルストイの『アンナ・カレーニナ』と比べてしまうのだよ。
それは私も読んだわ。長かったけど、面白かった。
それもフリンのお話なのね?

大人って、フリンするのが普通なの??

ということで、次回は『アンナ・カレーニナ』を振り返り、

更に両者の比較を試みてみましょう!

参考『ボヴァリー夫人』ギュスターブ・フローベール作、芳川泰久訳 新潮文庫
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登場人物紹介

作者投影。文章修行しているつもり。

本職は、寺院の副住職(跡継ぎ)。未婚。

全く似ていませんし、職業も勿論違います。

近所の女の子。里佳。

話し相手になってくれる優しい才女。

拙作「転校したとです。」の山田さんイメージです。

舞衣。里佳の従姉。医学科の学生さん。

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