第22話 会社とのつらい別れと良い別れ 

文字数 1,283文字

 別れと出会いを今までに何回も経験してきた。つらい別れの方が多かったのだが良い余韻を残した別れもあったと思う。そして、別れの中でも会社との別れは会社員にとっては特別なものになる。何故なら会社員にとって会社という存在は、良くも悪くもその人の人生にとって大きな部分を占めるからである。会社など人生の一部に過ぎないと言う人もいるが、会社の仕事は1日8時間労働としても1日の三分の一を占める。さらに通勤時間を含めれば、会社に関して占められている時間はもっと長くなり、人生の一部に過ぎないという指摘はあてはまらない。
 私の場合、つらい会社との別れは大学を卒業して入社した最初の会社である広告会社を24歳で辞める時だった。当時の私はその会社に入社してから2年と10ヵ月が経った時で、まだ若くて一途な気持ちが強かった。勤務期間は3年にも満たなかった、だが最初に入社した広告会社の3年は大変長く感じた。そして仕事に対しては自分なりに一生懸命に取り組んだし、広告会社の営業マンとして実績を残せるようになってきた。何より自分の担当した広告が新聞に掲載されるというという仕事が好きだった。
 だが広告の仕事自体は好きだったのだが、その会社は、30代から40代の社員が退職するのが多かった。それに対して自分が学生時代に思っていた会社というのは、入社したら定年まで勤め上げるものだと思っていた。その為、今は良くても自分が年を取って会社を辞めさざるを得なかった時にどうしょうと言う不安が大きくなった。そうした将来に対する不安が大きな理由で会社を辞めたのだが、何故か悔しくてそしてせつなくて退職した日、会社を退職した日の夕方、外に出ると涙が止まらなかったのを思い出す。
 退職する時には次に就職する会社も既に決まっており、希望に胸を膨らませても良かったのだが、そうはならなかった。先への希望よりは会社を辞める事を決めた自分に対して自責の気持ちが強かった。何故なら私としては一度会社に入社したら、定年退職まで務めるのが当たり前だと思っていたからである。その気持ちを会社に裏切られたのと思う気持ちと会社の上司とさらに上の営業部長は私に対して良くしてくれたという感謝の気持ちが入り混じった複雑な気持ちだった。会社には私は裏切られたが会社の上司を突然の退職という形で私は裏切ったのである。私にとって初めて入社した会社とはつらい別れだった。
 1回目の就職には失敗したが次に入社した会社では定年延長の65歳まで40年間勤め上げる事が出来た。最初の受験の中学受験の時にも私は失敗した。だが2回目の高校受験には失敗はせずに成功した方だと思っている。どうも私という人間は自分では先手必勝を得意とすると思っていたのだが、最初は失敗しているケースが多い。そして失敗した悔しさを晴らす為に次は失敗しないように努力していくタイプのようだ。2022年3月31日は2回目の会社を退職する日だった。今度はやるだけの事はやったという清々しい気持ちで退職する事が出来た。良い余韻を残して次の新しい事に進めるという良い会社との別れだった。
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