第15話 反骨精神を持ったリーダー 野球界

文字数 2,141文字

 ミスタープロ野球の長嶋は野球選手としては初めての文化勲章を受賞した。その野球界の誇りである長嶋がTBSテレビで放映された番組の中で「自分の中で唯一誇れるものがあるとすれば、それは何度も逆境に立たされても負けないで、その度に立ち向かって挑戦していった反骨精神だ」と語った。長嶋は巨人軍の不動の4番バッターとして活躍、特に巨人が1965年から1973年迄の9年連続日本一を達成した時の中心選手である。その常勝巨人のチームリーダーだった長嶋が誇れるものは「反骨精神」というのは意外だった。
 そもそも反骨精神とは権力者に対しても自分が正しいと思う信念を曲げないで立ち向かっていく精神である。普通に考えればプロ野球のトップに君臨する巨人は強さと権力の象徴であり、その巨人でミスタージャイアンツと呼ばれる長嶋は強さと権力の中心に存在するリーダーである。その長嶋が「反骨精神」を持って野球に挑戦していたとは驚きだった。
 華やかさばかりが目立つ長嶋だが、プロ野球のデビュー戦は国鉄スワローズのエース金田の前に4打席4三振という最悪のスタートだった。又、巨人のV9が終了した1974年に常勝巨人軍の監督だった川上が退団、翌年の1975年から長嶋が監督の座に就いたのだが、監督1年目の成績は最下位の6位になり監督としては最悪のスタートとなった。
 ただ長嶋の凄いのはプロ野球選手としても監督してもこれ以上の屈辱はないという最悪の逆境状態から本人の努力によってその後は見事に復活している処である。しかも、ファンの期待を裏切らずにすぐに立ち直るのも天才と言われる凄い処である。そしてその長嶋を支えているのが、反骨精神だった。
 六大学野球のスター選手で期待されて巨人に入団した長嶋だが、プロ野球の投手の投げるボールは最初は打てなかった。それを猛練習によって克服して打てるようになって入団1年目から巨人の中心選手として活躍するようになっていった。そして勝負強いバッティングと華のあるプレーは、今までのプロ野球選手にはなかった個性的なもので多くのファンを魅了した。又、長嶋の持っていた天性の明るい性格も多くのファンに好かれる理由でアンチ巨人はいてもアンチ長嶋はいないと言われる程だった。
 そして、長嶋は1974年に現役を引退すると間を置かず、翌年の1975年には巨人軍の監督にはなった。だが4番長嶋がいなくなった巨人の戦力低下は大きかった。そして川上監督がV9を達成した時のレギュラー選手は同じ選手が起用されている事が多かった。その為、主力選手達が年齢を重ねてかってのような活躍は出来なくなっても、彼等に代わる若い選手達は育ってなかった。さらに1965年から導入されたドラフト制度が定着してアマチュアの一流有名選手が12球団に均等して入団するようになっていた。
 こうして長嶋が巨人の監督として引き受けたのは巨人軍の戦力が低下してきた最悪の時期だったと言える。しかし、長嶋はこの逆境も乗り越える。最下位になった翌年の1976年にはセリーグの優勝を果す。そして1977年もセリーグ優勝をして2年連続の優勝監督になった。しかし、その見事な復活を遂げてセリーグで優勝しても日本一にならないと済まないのが巨人の監督の大変な処だ。さらに1978年、1979年、1980年と3年連続セリーグの優勝を逃すと巨人軍の周囲から長嶋の監督としての責任を問う声も出て、長嶋は責任をとって巨人軍の監督を辞任してしまう。
 暫くは野球から距離を置いていた長嶋だが、ファンの長嶋監督を再任を望む声は大きく1993年に巨人軍の監督に復帰する。すると翌年の1994年には最終戦まで優勝の行方がもつれるなかで中日ドラゴンズを破って優勝、さらに日本シリーズでもパリーグの覇者である西武ライオンズを破って監督になって始めての日本一を達成した。
 長嶋監督の野球は野球ファンに夢を与えるような豪快な野球だった。その為、1993年にFA制度が導入されると中日から落合、ヤクルトから広沢、西武から清原など他チームの4番バッターを巨人に入団させて、ドリームチームを作りあげた。この野球の姿勢はV9を達成した管理野球でチームプレーを重視した川上監督の野球とは全く違う野球であった。その為、勝つ時は相手を圧倒して勝つが、細かいプレーには弱い面もあった。その為、4番バッターばかり集めても野球は勝てないと批判された事もあった。
 だが長嶋が監督になって前任者の川上監督と同じ管理野球をしていたら野球ファンは満足できたろうか?現役時代から長嶋は個性的で豪快なバットスイングや華麗な守備をファンに見せていた。長嶋は監督になってもファンにアピールして見せる野球をやろうとした。それ迄の巨人軍の監督は管理野球でチームプレーを重視したが、その巨人の野球を変革しょうとした。
 このように長嶋はリーダーの座についても満足しなかった。そして失敗しても逆境に強い反骨精神を持ったリーダーとして挑戦し続けた。反骨精神を持って挑戦するのは2番手にいる者だけでない事を長嶋は教えてくれた。個性的である事の魅力、そしてTOPの座にいるリーダーでも現状に満足する事なく変革していく姿勢を見せてくれた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み