【第5話】隻腕のヒトの物語。

文字数 1,288文字

【2033年、イバラキ。ヒト腹創】
『ペスト』のワクチンは未だボクらの手に無い。フォーチュンが扱う『ペスト』により強い耐性を得られるよう、ボク達はより良い食事を選んだ。その管理担当をボクは実の姉『祈(いのり)』に任せた。 
みんなぁ、お夕食出来たよぉ!
 姉の言葉と温かな食事に皆が喜ぶ。日々の少ない資金からひねり出した究極の贅沢が、姉の手料理だった。
わぁい♪ 祈(いのり)大好きぃ♪
祈(いのり)! 私の嫌いなの入れてないでしょうね?
それはどうかなぁ?
 姉は笑いながら『楽々(らら)』の疑惑を否定しない。 
総隊長~、『祈』がイジメルよぉ~!
 そしてボクへの報告(ちくり)だ。本を片手に『楽々』をあしらう。貴重な食料を味わう為にボクも自身の席へと向かった。
今回は私も一緒に作った。
た、タタミが? あ、あんた料理なんか出来たわけ?
「えへん!」と、『タタミ』がその幼い胸部を強調する。 
頑張った。みんなぁ、いっぱい食べて大きくなぁーれ!
 タタミは寡黙な表情で手を大きく広げた。その頬に付いたチーズがつまみ食いの産物であることは疑いの余地がない。 
まぁ、あんたが一番小さいけどね。
 楽々の言葉が聞こえたのか聞こえていないのか、手を広げたままのタタミは尚も頬を動かしている。 
それは、私も呼ばれていいのかね?
 建屋の柱に背を預けていたジョーカーが口にした。 
はい! ジョーカーさんも是非食べていってくださいね♪
 ジョーカーが姉の言葉に寡黙に微笑む。ボクは前々から聞きたかった事を彼に問いかけた。 
ジョーカー、その腕はかなり前からソレなのかい?
……ほう。これに気づいたのか、キミは。
「まだ家族にも気づかれていなかったんだがね」と、義手を手直しジョーカーが困ったように微笑む。

 少し時間をおいてジョーカーは答えた。 
腕のいい技師にやってもらった。もうかなり昔の話だ。
 良い人に直してもらったんだろう。思い出すようにするその横顔は、とても優しいものだった。 
みれい。何を書いているの?
 食事を終えたみれいを追って、タタミがバラック奥の薄汚れたPCを覗き込んでいる。 
う、うわ! ちょっとタタミ覗かないでよ!
なになに、『……戦士は独りだった』って、 みれい小説書いてるの?
 その反対側から楽々が覗き込む。みれいが必死に隠すがこんな小さな家では隠せるものも隠せない。 

 観念してみれいが手を上げる。 
あ、うん。私バカだけど、ちょっと夢だったりしたんだよ。
「……小説家」と、か細い声で、いじいじと指を弄りながら『みれい』が話した。 
それであのおっさんを主人公に? 何てタイトルなの?
 みれいの背もたれを揺らし『楽々』が嬉々として訊ねる。その言葉に頭をかいてみれいは応えた。 
ははは、こんなのどうだろ。
 乾いた笑い。バラック端の光在るダイニング、そこで黙々と食事を摂るジョーカーを見てみれいが話した。 
たった1人で闘い続ける戦士を謳ったお話なの。……『独りの戦士』って云う。
 それは幼馴染である、彼女の一抹の夢だったのかもしれない。自身の文を眺めるみれいの瞳は、PCの照り返しを受け誰よりも煌めいていた。 
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登場人物紹介

『ヒト腹創』(ひとはら つくる)


168センチ、60キロ。

18歳。男性。


体細胞クローンを、ほぼ完璧に生み出す事が出来る「クリエイター」。

理知的だが、高慢な性格の持ち主。

チーム「化け物クリエイターズ」のリーダーを務める。

『言霊みれい』(ことだま みれい)


170センチ、56キロ。

18歳。女性。


チーム『化け物クリエイターズ』の副隊長。創の造り出した生き物に知識を与える『エンチャンター』。

『独りの戦士』という作品を執筆している。

『泉緋色』(いずみ ひいろ)


192センチ、82キロ。

18歳。男性。


創、みれいの幼馴染。いつも笑顔で『化け物クリエイターズ』の皆に振る舞っている。6年前に『ペスト』で右腕を失った。

『飼葉タタミ』(かいば たたみ)


144センチ、38キロ。

13歳。女性。


『化け物クリエイターズ』の飼育兼お茶汲み隊長。調教技能に長け『化けクリ』のキメラを鍛えている。緋色の事を『先生』と呼び慕っている。

『楽々』(らら)


155センチ、45キロ

16歳。女性。


チーム『化け物クリエイターズ』の諜報兼採取担当。タタミの親友的な存在。何事にも直感で動くタイプ。

『ジョーカー』


190センチ、88キロ。

52歳。男性。


謎の戦士。片腕を失っており義手を付けている。その剣の技術に並ぶ者は居ない。

『歯車フォーチュン』


178センチ、68キロ。

50歳。男性。


鳥形の仮面を付けた男。6年前、奈久留を死に追いやった男でもある。チーム『化け物クリエイターズ』の永遠の宿敵。

『スズキコージ』


152センチ、61キロ。

13歳。男性。


タタミに名を与えられた男の子。『コブタ』と呼ばれ茨城を彷徨っていた際、『化け物クリエイターズ』に保護される事となった。

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