【第18話】3つの宝。

文字数 1,459文字

【2034年、イバラキ。ヒト腹創】 
 タタミがボクへその正体を明かした。 

 移民『ノア』の重要人物が自身の父だと云う。そしてボクに託したものが在った。 

 父から継いだ『タカラモノ』だとタタミは言った。 
赤い宝、青い宝、黒い宝、計3つの石。これがすごいモノなのは分かるけど、これが本当は何なのか、わたしには解らない。宝とは云うけど、本当は恐ろしい『パンドラの箱』なのかもしれない。
 ホームから持ち帰った機材で調べ分かったことは、驚愕の事実だった。この3つの石は硬度の高い金属でありながら、 

 ……生きていたのだ。呼吸を行っている。 
生きた金属? 生命核を持った金属だっていうのか? そんなバカげたモノがこの世界に在るというのか……、
 けれどこれを使えば可能になるかもしれなかった。 

 背後からボクの顕微鏡を覗く緋色へ話す。 
緋色、ボクに奈久留(なくる)の体を預けてくれないか?
 白い棺桶で冷凍保存されている親友『奈久留』の体は未だ『壊死』していない。奈久留の細胞は『ペスティス』と同化し生かされていた。 

 寧ろ奈久留の五体全てが『ペスティス』だった。 

 この生きた金属は『奈久留』の体をきっと『活かす』ことが出来る。 

 先日の緋色の言葉を思い出す。 
『――弄る器ってのは、肉体じゃなきゃ、生き物じゃなきゃダメなのかよっ? もっと、こー、ないのか?』 
 もし、理屈が現実にまかり通るなら、ボクは緋色の言葉を実践できるかもしれない。 

 ボクは創りたい! 人の器の理想形、――『神器(じんぎ)』を。ボクを信じてくれた友の為に。 

『黒い宝』の中に、もう人間に戻れない『死体の意志』を、奈久留という名の『ペスティスの記憶』を移していく。 
 ボクは出来る限り解りやすく緋色に説明した。 

 俯きボクを正視できない緋色へ丁寧に教えた。 

 奈久留の『意志と腕』を緋色の為に使おう。と。 

 この石があれば『緋色と奈久留を繋ぐ』ことが可能、だと。 

 フォーチュンに、世の不条理に打ち勝つためには『チカラ』が、『ペスティス』が、『奈久留の腕』が緋色には必要だという事を。 

 それは、 

『ブラック・ダド』、ホームホルダーの長を超える為にも『必要』だと。 

 そして、 

『奈久留の腕』を移植したら最後、緋色(キミ)は、 



【誰にも触れる事は許されない】 

と。 

 成功する確率もいちじるしく低い。緋色にペストが感染る可能性も、緋色が死ぬ可能性もある。 

 それでも、キミは、 
チカラが欲しいかい?
 ……ボクは、親友の目に問うた。 
【2034年、イバラキ。飼葉タタミ】 
 先生の手術が決まった。リーダーの執刀で明日の朝一に行われる。 

『奈久留さんの腕』と『黒い石』『緋色先生』3つの『結合手術』だと云う。 

 これが成功すれば先生にも『右手』が出来る、らしい。 

 難しい手術だろうけど、きっとみんな心配していない。リーダーと先生なら乗り越えられる事を疑わない。 
 それなのに、みれいが声を押し殺して、
……。
 ……泣いていた。納屋の中でいつまでも。リーダーから何かを聞かされてからずっとだった。 
 その日畑から帰ってきた先生は、しばし逡巡した後わたしに視線を合わせその言葉を発した。 
タタミ、
 夕日を背負ってその表情はなかなか窺えない。 
……俺でよかったら今日、今夜デートしようか?
って。表情は解らないけど、頭を盛んにかいている。 
 心臓がバクバク鳴って、思考も停止してしまいそうだった。おそらく照れているであろう先生の姿も、わたしは正視する事が出来なかった。 
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登場人物紹介

『ヒト腹創』(ひとはら つくる)


168センチ、60キロ。

18歳。男性。


体細胞クローンを、ほぼ完璧に生み出す事が出来る「クリエイター」。

理知的だが、高慢な性格の持ち主。

チーム「化け物クリエイターズ」のリーダーを務める。

『言霊みれい』(ことだま みれい)


170センチ、56キロ。

18歳。女性。


チーム『化け物クリエイターズ』の副隊長。創の造り出した生き物に知識を与える『エンチャンター』。

『独りの戦士』という作品を執筆している。

『泉緋色』(いずみ ひいろ)


192センチ、82キロ。

18歳。男性。


創、みれいの幼馴染。いつも笑顔で『化け物クリエイターズ』の皆に振る舞っている。6年前に『ペスト』で右腕を失った。

『飼葉タタミ』(かいば たたみ)


144センチ、38キロ。

13歳。女性。


『化け物クリエイターズ』の飼育兼お茶汲み隊長。調教技能に長け『化けクリ』のキメラを鍛えている。緋色の事を『先生』と呼び慕っている。

『楽々』(らら)


155センチ、45キロ

16歳。女性。


チーム『化け物クリエイターズ』の諜報兼採取担当。タタミの親友的な存在。何事にも直感で動くタイプ。

『ジョーカー』


190センチ、88キロ。

52歳。男性。


謎の戦士。片腕を失っており義手を付けている。その剣の技術に並ぶ者は居ない。

『歯車フォーチュン』


178センチ、68キロ。

50歳。男性。


鳥形の仮面を付けた男。6年前、奈久留を死に追いやった男でもある。チーム『化け物クリエイターズ』の永遠の宿敵。

『スズキコージ』


152センチ、61キロ。

13歳。男性。


タタミに名を与えられた男の子。『コブタ』と呼ばれ茨城を彷徨っていた際、『化け物クリエイターズ』に保護される事となった。

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