【第1話】創るもの。

文字数 1,144文字

み、見づけたぁぁ。
 ぼろぼろの衣類を纏った男が汚物の山からそれを掲げていた。黄ばんだティッシュにこびり付いたソレを。 
細胞ぉ! 他人(ひと)の細胞ぉぉ!
 2033年。街の桜は皮を剥がされ、葉も持ち去られている。その枝が花を咲かせる時はもう2度と来ないだろう。荒廃したこの街で生きるには食糧とただただ資金が必要だった。 

 街を歩く生活困難者は、アルミ、スチールの空き缶ではなく新鮮な『ゴミ』を集めている。ゴミに付着した『DNA細胞』を彼らは伝手(つて)で他人(ヒト)へ売るのだ。 
 不思議に思うかもしれないがそれは流通としてまかり通った。その買い手の1グループがボク達、 

 ――『化け物クリエイターズ』だった。 
 ボク達『化けクリ』は動物のDNA細胞から命を作り出した。 
 それは犬だったり、猫だったり、そしてその大半は、――変異体(ばけもの)だった。 
出来たよ『みれい』。さっさと命を吹き込んでやってよ。
 採取された細胞の核をボク達は弄る。遺伝子情報を書き換え、ベースとなった生き物と同じ種の卵細胞に組み込みそれを培養、加速度的に成長させる。けれどこの生命体(にくかい)に知恵は無い。誰もが彼らに知識を持たす事が出来ないし、それをやろうともしない。けれど、――ボク達は違った。 
口が多い。さっさとやるから黙れ。
おお、こわっ。
 肩をすくめるボクを追い払うと、その子はおもむろに培養液前のモニターに座る。話しかけ、PCから連動する電気パルスを培養タンク内の細胞へ打ち込んでいく。 
 彼女は、細胞から生まれたモノに知識を吹き込む『生命付与者(エンチャンター)』。 

 名を『言霊(ことだま)みれい』という。 

 ボクらは、彼女のチカラによりこの世界でカネを得ることが出来た。知識持つ化け物を使って、世界(よのなか)で戦う事が許された。 

 イバラキの街『ヒタチナカ』は多くの瓦礫に溢れている。桜の並木は倒れ、地に在った根は食われた。砂場で遊ぶ幼子はこの『ヒタチナカ』に残っていない。 
 世界が『ホーム』と呼ばれた4人の家族に支配された時代。 
 ボク達は何も持ちえなかった。 
 父も母も、土地も金も、苗字も。 

 父が居た過去があるとするなら、父はアソコ、前方の集積所でゴミを漁っている。鬱々と呟きゴミ拾う『アレ』は、自分が信じた患者に財を食い尽くされた道化だ。 
 命を救う! と世に立ち上るも、疲弊し債務を抱えこの時代に負けた『ゴミクズ』だ。 

 母は他所の男とこのあばら屋を出て行った。 
 元の苗字はいい値段で軍の男に買われていった。 

 ボクに残ったのは何十もの借用書と、たった1人の姉だけ。 
 苗字を持たないボクは自身をこう名乗った。偉大なる父を謳い、 



 ――『ヒト腹(はら)創(つくる)』――と。 

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

『ヒト腹創』(ひとはら つくる)


168センチ、60キロ。

18歳。男性。


体細胞クローンを、ほぼ完璧に生み出す事が出来る「クリエイター」。

理知的だが、高慢な性格の持ち主。

チーム「化け物クリエイターズ」のリーダーを務める。

『言霊みれい』(ことだま みれい)


170センチ、56キロ。

18歳。女性。


チーム『化け物クリエイターズ』の副隊長。創の造り出した生き物に知識を与える『エンチャンター』。

『独りの戦士』という作品を執筆している。

『泉緋色』(いずみ ひいろ)


192センチ、82キロ。

18歳。男性。


創、みれいの幼馴染。いつも笑顔で『化け物クリエイターズ』の皆に振る舞っている。6年前に『ペスト』で右腕を失った。

『飼葉タタミ』(かいば たたみ)


144センチ、38キロ。

13歳。女性。


『化け物クリエイターズ』の飼育兼お茶汲み隊長。調教技能に長け『化けクリ』のキメラを鍛えている。緋色の事を『先生』と呼び慕っている。

『楽々』(らら)


155センチ、45キロ

16歳。女性。


チーム『化け物クリエイターズ』の諜報兼採取担当。タタミの親友的な存在。何事にも直感で動くタイプ。

『ジョーカー』


190センチ、88キロ。

52歳。男性。


謎の戦士。片腕を失っており義手を付けている。その剣の技術に並ぶ者は居ない。

『歯車フォーチュン』


178センチ、68キロ。

50歳。男性。


鳥形の仮面を付けた男。6年前、奈久留を死に追いやった男でもある。チーム『化け物クリエイターズ』の永遠の宿敵。

『スズキコージ』


152センチ、61キロ。

13歳。男性。


タタミに名を与えられた男の子。『コブタ』と呼ばれ茨城を彷徨っていた際、『化け物クリエイターズ』に保護される事となった。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色