【第21話】決戦前夜。

文字数 1,904文字

【2034年、モンガル。歯車フォーチュン】
こんなものかな。ホーム・ホルダーも。
 自室のホールにてしゃぶりつくしたチキンの骨を舐める。そこにはもう髄液すら残っていない。唾と一緒に屑箱へ放る。
飽きた。飽きましたよワタシ。
 ホームに蓄えられたデータ、知識の全ては閲覧し、この頭に容れておいた。言ってみれば、あいつらの『ノウミソ』は全て舐め尽くしたようなものだ。
手に入れるモノももう無さそうですし。……主席。聞こえてるかい?
『はい。フォーチュン様。全て順調です』
 モンガル大帝国新国家主席へベルを飛ばす。携帯端末の中央にその顔が映った。1秒で応えた彼へ私は笑顔で言ってやる。
年明けにアラスカへ核を5つ、それで終いにしよう。その後、私が新たな『ホーム・ホルダー』を結成する!
『仰せのままに』
 端末を置くと、自室から繋がるホールへの暗幕を解かせた。
さて、私たちも日本に残した『ゴミ屑』を片づけようか?
 暗幕の先、律し並ぶモノ共が一様に応える。
「「「「「ハイ。フォーチュン様」」」」」
迎え撃つよ。我が、フォーチュン『ファミリー』!
 私の言葉に整然と並んだ幾万の『化け物』が敬礼する。こいつらは私が創った最強の部隊、私の遺伝子を継いだ『化け物』だ。
 今、この『モンガル』の地にありとあらゆる『化け物』を集めた。
……役に立ってくれよ。雌豚ども!
 私の前に幾つもの艶めかしいクローンが並ぶ。チカラ持ちし少女達はこぞり押し退けあいながら私の靴を舐めた。

【2034年、イバラキ。言霊みれい】
イジってごめん。けど、絶対強くしてあげるから!!
ミンナガンバレ! 『スバリナ』オウエンシタ!
あんたもよ! 『スバリナ』!
 私達はキメラの皆をあらゆる方法で弄り強化した。

 資金は悲しいくらい溢れていた。
 それは全て創が持ち帰ったもの。創のチカラがあってこそだった。
やっと銃が使えるー! 楽々ちゃん、圧倒的安堵だよっ♪
 弾薬の詰まった銃を手に楽々が飛び跳ねる。銃弾や剣などの武器の補充も食糧の補充も申し分ない。
 後方の創から言葉が在る。
そしてボク達には『切り札』が居る。……おいで。
 創に招かれ、私達の居住区へ銀色の足が踏み込んできた。
 現れたのは長身の騎士、銀の甲冑に身を包んだ者、――『化喰人魔(ばくら じんま)』だった。

 人魔は片言の日本語で話した。
ワタシハ、……善ヲシラナイ。悪モシラナイ。ケレド、
 その目は元と成ったあのヒトと同じ優しい光を宿している。
タオスベキハ『創』ノテキ。ソレダケハワカル。
チカラを貸してくれるのか? あんた。
 人魔は緋色に向かって頷いた。緋色がその肩を手粗く叩く。緋色と並んで様になる仲間を私は今初めて見た気がする。
よろしく頼む! あんたなら申し分ない! 心強いよ!

 あれから、何匹かの家族が『ペスト』で亡くなった。感染の危険を少しでも下げる為、私達の農場から近隣に住む皆を離すことにした。それでも、金内さんをはじめとした工房のみんな、贔屓の商店街のみんなが恐れずに私達をサポートしてくれた。

 緋色は毎日お祈りをしている。毎朝、誰よりも早く起き、昇っていった魂へ祈りを捧げていた。もちろんその隣には『タタミ』の姿が在る。言葉無く2人で祈っていた。



 

 その翌日、私達はあの『ヒタチナカ』の街を去っていた。農場の世話、学校の管理は信頼できる知人へお願いしておいた。もう、きっと心残りは無い。
 月を頭上に仰いで貨物列車の荷台の上、飲みに飲んだ。食べた。歌った。美味しそうに『ヒユイマギイナ』を飲んで酔っ払う『タタミ』が居た。荷台に作ったお立ち台で踊る『楽々』が居た。『緋色』から教えを乞う『コージ』の姿が在った。『創』は最後の最後まで本を手に勉強をしていた。
 そんなみんなを前に私は書きかけの物語の最後を描く。
……。
【Fin.】と書いた文章を閉じる。PCの充電残量も残り僅かだ。
 私はそのデータをメモリースティックへ移し、ポケットに押し込める。見上げた空は星の光で満ちていた。
戦士達は皆であの地に帰った。その手は永久(とわ)に離れる事はない。そして末永く末永く幸せに……、
 呟きは冷たい夜風に砕けて溶けた。儚く散ったモノ皆をまるで嘲笑うかのように。
 夜明けを前に皆が浅い眠りから目を覚ました。陸路を終えた私達は風に煽られながら港へ足を進める。振り向き、私は檄を飛ばした。
行くよっ! みんな!
 私達『化けクリ』メンバーにはあの『真衣ちゃん』も含まれていた。岸に寄せられたクルーザーの前に立つ船長、船員の皆へ一礼する。
 私達は一路大陸へその舵を切ったんだ。
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登場人物紹介

『ヒト腹創』(ひとはら つくる)


168センチ、60キロ。

18歳。男性。


体細胞クローンを、ほぼ完璧に生み出す事が出来る「クリエイター」。

理知的だが、高慢な性格の持ち主。

チーム「化け物クリエイターズ」のリーダーを務める。

『言霊みれい』(ことだま みれい)


170センチ、56キロ。

18歳。女性。


チーム『化け物クリエイターズ』の副隊長。創の造り出した生き物に知識を与える『エンチャンター』。

『独りの戦士』という作品を執筆している。

『泉緋色』(いずみ ひいろ)


192センチ、82キロ。

18歳。男性。


創、みれいの幼馴染。いつも笑顔で『化け物クリエイターズ』の皆に振る舞っている。6年前に『ペスト』で右腕を失った。

『飼葉タタミ』(かいば たたみ)


144センチ、38キロ。

13歳。女性。


『化け物クリエイターズ』の飼育兼お茶汲み隊長。調教技能に長け『化けクリ』のキメラを鍛えている。緋色の事を『先生』と呼び慕っている。

『楽々』(らら)


155センチ、45キロ

16歳。女性。


チーム『化け物クリエイターズ』の諜報兼採取担当。タタミの親友的な存在。何事にも直感で動くタイプ。

『ジョーカー』


190センチ、88キロ。

52歳。男性。


謎の戦士。片腕を失っており義手を付けている。その剣の技術に並ぶ者は居ない。

『歯車フォーチュン』


178センチ、68キロ。

50歳。男性。


鳥形の仮面を付けた男。6年前、奈久留を死に追いやった男でもある。チーム『化け物クリエイターズ』の永遠の宿敵。

『スズキコージ』


152センチ、61キロ。

13歳。男性。


タタミに名を与えられた男の子。『コブタ』と呼ばれ茨城を彷徨っていた際、『化け物クリエイターズ』に保護される事となった。

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