先生は隣りの隣りの隣町の工場(こうば)で、長さ1m程の太い『鋼の棒』を手に入れた。
数枚の紙幣で粘って交渉したという。それは鋼、その材質の値段だった。
それから、先生を強くする為にわたし達は皆で先生を鍛えた。
巨大猫キメラの『ぶっち』相手に、一撃も与えることが出来なかった。巨体ながら俊敏な彼女に触れる事が出来ない。
わたしの鞭をかわすことが出来ずに服をボロボロにした。貴重な服が1着無駄になった。
巨大猫キメラ『みぃちゃん』を含む3体と、みれい相手に『チカラ』だけで打ち勝った。
休んで、食べて、寝て、訓練して、訓練して、訓練して、訓練して、西の国の手勢を相手に戦って、戦って戦って、戦って戦って、守って、寝て、戦って、休んで、空いた時間は全て農作業に明け暮れた。
先生は強化した『キメラ』の全員を相手にして、誰も傷つける事なく、全てを『棒』で制した。
そう。先生は話にならない程、……強かった。こと闘いにおいて先生は天性の才能を持っていた。
先生はあの『鋼の棒』に緩衝用の布を巻いて、皆、全てを圧倒するくらいに強かった。片手しかないことがその筋力を最大限に鍛えていた、としても強すぎた!
みれいも、楽々も、あのコージさえもが泣いていた。先生の強さは、
たった1つ、……わたし達に残された希望だった。
な、ならさ、あの棒をトゲトゲにして『ペスティス』の菌を塗りたくれば!
楽々。覚えてるでしょ? 『フォーチュン』の大ネズミを。あの時、私達がどれだけの土地を焼く事になったのか?
みれいの言葉に楽々がうな垂れる。
そうだ。あの時は、町を全て焼いて廻った。滅菌する為に何日も『わたし達の手で』街を焼く事になった。
タマちゃんは本当に例外だった。
タマちゃんは『ペスト菌』を自身で制御出来た。その知恵も有った。
あの地獄を思い出し皆が気持ち沈ませる中、……先生だけは冷静だった。
先生は言う。真衣ちゃんを背負いながら腕立て伏せを行って。
タマの、あの一撃は『死の恐怖』を、刻み込んだはずだ。
指3本での腕立てをしている。真衣ちゃんも嬉しそうに先生の背の上で笑っている。
それはきっと、あの『ブラック・ダド』にさえも。きっと例外なく。
そう言って先生は真衣ちゃんを下ろし畑へ向かった。今日は『トマト』と『キュウリ』を収穫できると言う。
畑へ向かう姿を追いかけて皆が朝陽の中を奔った。皆で大地へ、実りへ感謝し、その恵みを味わうのだ。
それが今のわたし達『化け物クリエイターズ』の姿だった。
『おじさん! お願い! 俺、何でも仕事するから! 奈久留(なくる)に苗字をちょうだい! 次の誕生日に、俺、奈久留にプロポーズするんだ!』
『ヒイロ。ナクルと一緒に居たいなら、1回、離れないとダメだぞ?』
『なんで? ずっと一緒にいたいのに! 何で離れないといけないんだ?』
『自立しないと。自分だけじゃなく、大好きな相手も。お互いが、お互いを守れるように、強くならないと』
『ヒイロも、ナクルも、強くならないとな! 誰にも、どんな悪い奴らにだって、どんな不条理な現実にだって、負けないように』
脳の奥底で、おじちゃんの声が聞こえたような気がした。
鍬を『鋼の棒』に持ち替えて、町外れの巨木を前にした。
シン、と振り下ろした鋼の棒は、
樹齢千の巨木を2つに割いた――。
『――北の魔女『ナクル』よ、この聖なる剣に裁かれるがいい!――』
心、技、体。
熱く、清く、――ココロよ、――沈め。
泉緋色(いずみ ひいろ)、誰よりも、どんな事にも強く在れ。