船を降り辿り着いた大都市『ホビロン』そこにヒトの姿は幾万と無かった。在ったのは逃げ遅れた幾百の人と、それを追う『キメラ』の姿だった。
是妖怪! 妖怪kurieitazu,与妖怪一起攻击了! 妖怪kurieitazu攻击了!(化け物だ! 化け物クリエイターズが化け物を送ってきた!)
「逃げろ!」「殺される!」そんな意味の言葉で『ホビロン』の地は満ちていた。
だが、民衆を踏み潰し蹴散らしていたのはボクらでは無い。あちらの方だ。
邪魔だよ、愚民ども! ここは退去を命じた場所のはずだろうに。いつまでも居るんじゃないよ!
――祈(いのり)姉ちゃんの顔をした、ボクが作った怪物だった。
あらあら、お早いお着きで。ええ! キメラ『イノリ』は私が使わせてもらってまーちゅ。より良くイジってね。
イノリキメラが大きな鼻息を噴き出す。怒りに震える創を前に、彼女に乗った『フォーチュン』が笑った。
まぁ、創くんキミとの違いは、私はコイツを乗り回して使う事にあります。この機動性、力強さ、乗り回してこそ真価が在る。
殺したい! 銃で蜂の巣にしてやりたい!
気持ち悪い仮面の内側でフォーチュンは声を弾ませた。
こ・れ・は・私の騎乗型キメラ『イノリ』です。ゴミはゴミ箱に捨てないと悪用されちゃいますよ? 解りまちたか? 創くん。
イイ顔してるでしょ? この子! 最高に気持ち悪い! 乗り心地も悪い! ビタビタ、って。だがそれがイイ♪
イノリを弄って創られたキメラは縦横無尽に駆け、仲間達を踏み潰した。鎌を振るい、私達のキメラを次々に刈っていく。その巨体と鎌に家族が、1人、1人、また1人と殺されていく。
イノリから私達を守る為に緋色と人魔(じんま)が自身の武器で鋭い鎌を受け止める。緋色と人魔の怪力にも、イノリの熊と馬の脚は止まらなかった。イノリの顔をしたアレが、ヨダレをまき散らして威嚇する。
イノリに乗ったフォーチュンの後ろには、ものすごい数の漆黒のキメラが居る。クマ? ゾウ? トラ? ヒョウ? どれも普通のキメラでは無い。奇形ばかりが此処に居た。
その一角を『ファジー』の弓で撃ち崩し、殺めても、その数に大きな変動は無かった!
楽々! 銃は身を守る為にだけ使って!! 攻めるのは神器を持つ私達と人魔(じんま)でいい!!
……死んじゃう。
楽々がその言葉を飲み込んだ。いつも陽気なその声が縮れ途切れる。イノリの猛攻、そして騎乗したフォーチュンの銃をさばきながら、緋色が何十の敵キメラを倒したというのだろう。人魔がイノリ相手にどれだけの傷を負ったというのだろう。2人のその腕がどれだけの赤に染まったというのだろう。
……私達は、何を敵に回したんだろう。無尽蔵に湧くキメラを先の世界に、土煙の中一面に見て、
諦めるわけがないのに、諦めたくなんてないのに、諦めきれるわけがないのに、
……指示を出す声が擦れていく。
創の撃った銃が運良く『フォーチュン』の仮面をはじいた。
その現れた顔に、その顔に張り付けられたモノに、創は言葉を無くした。
お、オマエ、剛おじちゃんの顔を! 剛おじちゃんの顔を、オマエは剥(は)いだのか?!
叫ぶ緋色がイノリの力にはね飛ばされる。フォーチュンを前に創の腕が完全に止まった瞬間だった。
イノリの前部剛腕、カマキリの腕が大きく振りかぶられた。あっ、という間に『フリーシー』の剣と一緒に創の腕が斬り落とされた。
残りカス『化け物クリエイターズ』から『赤い宝』、まずは回収♪ っと。
私は覚悟した。タタミへあの『メモリースティック』を手渡す。
タタミの震える肩を抱いて私は言葉に残した。
タタミ。この中に私が書いた物語がある。これを貴女に任せるからっ! あとはお願い! 私の夢を!
私はタタミの静止の声を振り切り、もしもの為にとっておいた爆弾の束を体に巻いた。
背中を任せていた緋色へすれちがい様言葉を掛ける。
緋色。みんなをお願い! 絶対、絶対守ってね! 世界で一番大好きな、世界で一番強い私の緋色!!
私は緋色をはね飛ばし、イノリを抱いた。
熱を伴う世界は、圧倒的な光に――ミチテイタ。
あらあら。この御嬢さん、私にバースデープレゼントですか? ずいぶんと汚い燃焼でしたけど♪
みれいが爆死した。
嬉々とした表情でイノリから降り爆発の跡から『青い宝』をフォーチュンが取り出す。
言葉が無かった。力が何処かへ消えていく。
あっさり死んだ御嬢さん、爆発から貴重なお宝を守ってくれてアリガタウ♪
フォーチュンが剛父さん(クズ)の声で、あの頃の頼もしかった父さん(クズ)の声で、歪に笑う。
みれいのモノとは比べられない程の恐ろしい光と爆風が、視界先の敵味方を巻き込んだ。キメラの皆が光の中へと消えていく。
薄れゆく光の中から現れたのは、父さん『ブラック・ダド』だった。
頼もしい父さんが助けにきてくれた。首を振り弱い心を外へと弾く。放心気味の緋色を文字通り叩き起こした。
死んでる場合かよ緋色! みれいの言葉を聞いてなかったとは言わせないぞ!
親友を罵倒し、その背を起こそうとして、自身の右腕が無い事に気が付いた。
『マム』だ! 無人機で空を舞う『マム』がボク達を、
気付いた時には飛び込んでいた。父さんを、『ブラック・ダド』を守る為にこの体を盾に!
身体を貫通する痛みと共に、ボクは其処で気持ちの悪い言葉を聞いた。