【第15話】チカラを。

文字数 2,607文字

【2034年、イバラキ。言霊みれい】 
 初夏の朝露が木々の葉に灯る中、創(つくる)と彼、……『ジョーカー』がやってきた。 
ジョーカー。貴方があの、
 私の問いに創が答えた。 
そうだよ。みれい。
 創は『ジョーカー』の前でひざまずき、うやうやしく頭(こうべ)を垂れる。その後、振り向き私達へ腕を差し出した。 
この人が、世界の支配者『ブラック・ダド』その人さ。
 創は緑色の帽子を深くかぶり私達の前に立った。 
そして、
 堂々と構えて私達に言いのけた。 
この人はボクの『父さん』になってくれたんだ。
 ――創は剛(たけし)おじさんを否定していた。 
 私の動揺を見て創は言い捨てる。「やれやれ」と言いたげに頭を振った。 
 緋色も義腕の彼『ブラック・ダド』の姿を見て驚いていた。 
……隣町のおじちゃんが、あの『ジョーカー』で、『ブラック・ダド』? そ、そんな可笑しな話が!
 ジョーカー、いや『ブラック・ダド』その人がハットを外し一礼。緋色へ声をかける。 
……すまない。だがこれが真実だ。受け容れてくれ。緋色くん。
 そして『ブラック・ダド』は私達を見渡し言った。大きくその手を横(せかい)に広げた。 
私は、……ここに居る皆を選ぼう。
 私達の一人、一人の腕を取って語りかける。 
緋色くん。みれいくん。タタミくん。楽々くん。
 私達4人へ手を再度広く伸ばした。 
おいで我が家へ。我が『ホーム』へ。
 その目は心から愛しく、優しく、私達が好きな『ジョーカー』その人の瞳だった。彼は最初から私達を偽ったことは無かった。 
私は選んだものを見捨てない。救ってみせるから。
じゃ、じゃあ僕も?
 あわてて駆け寄る『コージ』へ、何故か『ブラック・ダド』は手を伸ばす事をしなかった。眼で簡易に見やるだけだった。 
すまないがキミはダメだ。
「……心苦しいが」と一言。彼は近寄った『コージ』を払いのける。 
キミとキメラの皆を、私は選ぶことが出来ない。お金なら与えよう。去っていくといい。
え?
皆に教えておこう。
『ブラック・ダド』はよく通る声で私達に語った。世界の実情を。人の選ばれる意味を。 
この世界は、日々、秒刻みに生き物が増え続けている。手を加えなければ決して減ることは無い。直接の原因は『ノアの大移民』だ。
 皆がただ茫然と聞き入っていた。 
キミ達子供が生きていく上で、私たち家族は、100、1000、万の経済的、食糧的負担を抱える。飢えなければならない。それを回避する為には、
『ブラック・ダド』は『コージ』を見ること無く、――言い捨てた。 
例えば、『名も分からぬキミ』。キミは死ぬべきなんだ。
『コージ』を守る為にキメラの皆が動いた。『コージ』を守ろうとその爪を光らせ『ブラック・ダド』へ襲い掛かる。止める間も無い出来事だった。 
――所詮。畜生、という事か。
 静かに抜かれた刃の前に『しまちゃん』と『パブロフ』が斬られた。『スバリナ』を守って『タマちゃん』が斬られる! 
……!
 片腕を斬られながらも『タマちゃん』は冷静にステップを踏んだ。私は『タマちゃん』の本気を未だ見たことが無い。だけど、それは間違いなく『必殺』を秘めたものだった。 
……!
『ダド』の剣と、『タマちゃん』の爪が交差する。 
 一瞬の対決。そして、 

 倒れたのはタマちゃん、――だった。 
帰投してくれ! 父さん! すぐに! 完全にその傷を塞ぐんだ!
『タマちゃん』の一撃は『ブラック・ダド』の頬を浅く割いただけだった。だが、それだけで『タマちゃん』は勝っていたのかもしれない。 
『ペスト』を、『タマ』はボク達の中で唯一『ペスティス』を内包している! 引いてくれ!
 創は控えていた無人機に、強引に『ブラック・ダド』を押し込み、そのレバーを引いた。 
 ローターが音を立て無人機は空へ去っていく。その後、 

 創は無我夢中で『タマちゃん』の亡骸にすがっていた。 
タマ? こ、こんな死に方あるかよ? おかしいだろ? なんでキミが死ぬんだ? キミは、父さんに選ばれる子だったはずだ! 名前だって『ブラウン・パル』って決めていたのに! なんで?!
 創は『タマちゃん』の亡骸を抱いて離さなかった。けれどその手を離させたのは、結局、あの緋色だった。『タマちゃん』の顔に出来るだけキレイな布を用意し、掛ける。『しまちゃん』と『パブロフ』の顔にも布を掛ける。私達は静かに深く黙祷した。 
 創と無人機の全ては、残らず空へ帰っていった。パスパス。と悲しげな音を立て大気へ放たれていく。 



 その跡に私達と、『化け物(なかま)』の死体を遺して。 
【2034年、アラスカ『ホーム』。グリーン・ブラザー】
おかしい。おかしいだろ? こんなのおかしい! な、何でだ?
 可笑しかった。何故可笑しいのか解らない。けれど絶対何かが可笑しかった。ただ真理を1つそこに見た。 
そうだ。
 手を打ち頷く。きっとそうに違いない。 
みんな、みんな弱かったからいけないんだ! みんなみんな強かったら、父さんは、きっとみんなを選んでくれた。
 それが世の真理なのだと解った。きっと全ての根本はそこに在る。 
なら、
 それからのボクはきっと早かった。行動が何より優先された。 
ボクはその先駆けを創らないと、
 そうだ。ボクが創らないと。 
最強のキメラ。クローンじゃない、キメラの最強形を!
 地下の保冷室から命の次に大切な『姉の卵巣』を取り出す。それは未だ瑞々しい血の色を現していた。 
【2034年、イバラキ。言霊みれい】 
 創と別れた私達は緋色の土地に『学校』を建てた。建築を営む夫婦に習い一から皆で造る。ほぼバラックだった農場の建屋が徐々に家へと替わっていった。これが出来れば冬も凍えなくて済むに違いなかった。 

 ここで『みぃちゃん』達キメラや『真衣ちゃん』の事を教育することにした。 

 教育は私とタタミ、そして楽々が行った。 

 そこで緋色が話してくれた。この土地を緋色に譲ってくれたのは、あのおじさん『ブラック・ダド』だった。と。緋色は淡々と語った。 
 そんな緋色が行った事は、 

 隣町の隣町の更に隣町の工場(こうば)まで行って、左手用の『真剣(ぶき)』を手に入れる事だった。 
 頭を下げ少ない生活費から本当に貴重な『紙幣(おかね)』を求めた。 
……。
 緋色は深く、深く頭を下げて地に付けて皆に頼んだ。緋色は今初めて、 



 武器を、――『力(ちから)』を求めた。 
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登場人物紹介

『ヒト腹創』(ひとはら つくる)


168センチ、60キロ。

18歳。男性。


体細胞クローンを、ほぼ完璧に生み出す事が出来る「クリエイター」。

理知的だが、高慢な性格の持ち主。

チーム「化け物クリエイターズ」のリーダーを務める。

『言霊みれい』(ことだま みれい)


170センチ、56キロ。

18歳。女性。


チーム『化け物クリエイターズ』の副隊長。創の造り出した生き物に知識を与える『エンチャンター』。

『独りの戦士』という作品を執筆している。

『泉緋色』(いずみ ひいろ)


192センチ、82キロ。

18歳。男性。


創、みれいの幼馴染。いつも笑顔で『化け物クリエイターズ』の皆に振る舞っている。6年前に『ペスト』で右腕を失った。

『飼葉タタミ』(かいば たたみ)


144センチ、38キロ。

13歳。女性。


『化け物クリエイターズ』の飼育兼お茶汲み隊長。調教技能に長け『化けクリ』のキメラを鍛えている。緋色の事を『先生』と呼び慕っている。

『楽々』(らら)


155センチ、45キロ

16歳。女性。


チーム『化け物クリエイターズ』の諜報兼採取担当。タタミの親友的な存在。何事にも直感で動くタイプ。

『ジョーカー』


190センチ、88キロ。

52歳。男性。


謎の戦士。片腕を失っており義手を付けている。その剣の技術に並ぶ者は居ない。

『歯車フォーチュン』


178センチ、68キロ。

50歳。男性。


鳥形の仮面を付けた男。6年前、奈久留を死に追いやった男でもある。チーム『化け物クリエイターズ』の永遠の宿敵。

『スズキコージ』


152センチ、61キロ。

13歳。男性。


タタミに名を与えられた男の子。『コブタ』と呼ばれ茨城を彷徨っていた際、『化け物クリエイターズ』に保護される事となった。

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