【第7話】DDD。

文字数 1,309文字

【2033年、イバラキ。言霊みれい】
その手をどけろ! このゴミクズが。
 フォーチュンが喚き緋色の太い腕を振り払う。
悪いなおっさん。妻の棺を乱暴に扱うから、つい強く握っちゃったな。
……ひ、ひいろぉぉぉ!!
 私は緋色に懇願した。彼に願い、訴えた!
そいつが! そいつが! そいつが奈久留を!
 緋色はフォーチュンの腕を取り、しみじみとその黒い仮面を見下ろす。フォーチュンの手を握り、強く言葉を残した。 
おっさんが、奈久留に『アレ』を食わせてくれた人なのか?
 答えなんて聞かなかった。緋色は残された1本だけの腕でフォーチュンの顔面を地面へ強く叩きつける。仮面の下の顔がひしゃげてフォーチュンは蛙のように鳴いた。 
1つだけ言っておく。
 緋色の溜めに溜めた言葉だった。
次、
 その目だけは笑顔を表していた。
俺の前に顔を出したら、その頭蓋、……木端微塵にしてやる。絶対にな。
 誰も正視できないその笑みに、フォーチュンは全てを放りだし逃げ帰った。『フォーチュン配下』の連中を追うチカラは『化けクリ』の誰にも残っていなかった。剛おじさんも、市原家の財産も取り返すことは出来なかった。私達が守れたのはたった1つ、奈久留だけだった。 
……緋色、
 やっと出てきた言葉がソレだった。涙がこぼれて仕方なかった。 
待たせすぎだよ。本当に、……待たせすぎ。
 私の言葉に緋色はこの頭を撫で応えてくれた。
ごめんな。……創は?
 震えるこの言葉をゆっくりと聴いてくれた。頭1つ分高い場所から私の全てを包んでくれる。 
分からない。たぶんあいつに、ごめん! ごめん緋色! 私が居たのに、創たちを!!
 緋色は私の言葉を否定しないでくれた。泣きじゃくる言葉を全て、緋色は認めてくれた。 
みんな、みんな殺されちゃった! 緋色! 私どうしたら! いったいどうしたら!!
 この肩を抱いて緋色は私へ言った。 
とりあえず、
 緋色は飽きることなく頭を撫でてくれる。ゆっくり、時間をかけて慈しんでくれた。
とりあえず、飯(めし)。それからだよ。みれい。
 焼き払われた野、広がる陽の光を前に皆へ緋色を紹介した。私の幼馴染なんだ! って。 
私の、私の!
 楽々に、タタミに、キメラのみんなに腕を広げて言い募る。私の自慢の! 
ヒーローなんだよ!
って。 

 楽々とタタミは嬉しそうに頷いてくれる。 
 緋色は2人に言った。急遽焚いた焚火の前、持参したお米で作った雑炊を飯盒からよそり、その1本の腕で皆に振舞った。 

 楽々とタタミ、特にタタミが緋色の言葉に目を輝かせている。 
どんな時も、
 緋色があの高い星空を指さす。
どんな事でも、
 手を、その片方だけの腕をこの世界へ大きく開く。 
どんと来い!
 最後はその厚い胸板を叩いて言った。 
剛(たけし)おじさん、創のお父さんが教えてくれた言葉なんだ! 世界は、この『DDD』でだいたいどうにかなる! って。
 緋色の大仰なボディランゲージを見て、タタミは絵本を読む子供のようにその目を煌めかせていた。 
……DDD。すごいね。ステキだね!
 反芻し、何故だろうタタミは独り嬉しそうに笑っていた。緋色から受け取ったお米を大事そうに頬張って、幼い誰よりも可愛い笑顔で。 
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登場人物紹介

『ヒト腹創』(ひとはら つくる)


168センチ、60キロ。

18歳。男性。


体細胞クローンを、ほぼ完璧に生み出す事が出来る「クリエイター」。

理知的だが、高慢な性格の持ち主。

チーム「化け物クリエイターズ」のリーダーを務める。

『言霊みれい』(ことだま みれい)


170センチ、56キロ。

18歳。女性。


チーム『化け物クリエイターズ』の副隊長。創の造り出した生き物に知識を与える『エンチャンター』。

『独りの戦士』という作品を執筆している。

『泉緋色』(いずみ ひいろ)


192センチ、82キロ。

18歳。男性。


創、みれいの幼馴染。いつも笑顔で『化け物クリエイターズ』の皆に振る舞っている。6年前に『ペスト』で右腕を失った。

『飼葉タタミ』(かいば たたみ)


144センチ、38キロ。

13歳。女性。


『化け物クリエイターズ』の飼育兼お茶汲み隊長。調教技能に長け『化けクリ』のキメラを鍛えている。緋色の事を『先生』と呼び慕っている。

『楽々』(らら)


155センチ、45キロ

16歳。女性。


チーム『化け物クリエイターズ』の諜報兼採取担当。タタミの親友的な存在。何事にも直感で動くタイプ。

『ジョーカー』


190センチ、88キロ。

52歳。男性。


謎の戦士。片腕を失っており義手を付けている。その剣の技術に並ぶ者は居ない。

『歯車フォーチュン』


178センチ、68キロ。

50歳。男性。


鳥形の仮面を付けた男。6年前、奈久留を死に追いやった男でもある。チーム『化け物クリエイターズ』の永遠の宿敵。

『スズキコージ』


152センチ、61キロ。

13歳。男性。


タタミに名を与えられた男の子。『コブタ』と呼ばれ茨城を彷徨っていた際、『化け物クリエイターズ』に保護される事となった。

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