悪いなおっさん。妻の棺を乱暴に扱うから、つい強く握っちゃったな。
緋色はフォーチュンの腕を取り、しみじみとその黒い仮面を見下ろす。フォーチュンの手を握り、強く言葉を残した。
おっさんが、奈久留に『アレ』を食わせてくれた人なのか?
答えなんて聞かなかった。緋色は残された1本だけの腕でフォーチュンの顔面を地面へ強く叩きつける。仮面の下の顔がひしゃげてフォーチュンは蛙のように鳴いた。
俺の前に顔を出したら、その頭蓋、……木端微塵にしてやる。絶対にな。
誰も正視できないその笑みに、フォーチュンは全てを放りだし逃げ帰った。『フォーチュン配下』の連中を追うチカラは『化けクリ』の誰にも残っていなかった。剛おじさんも、市原家の財産も取り返すことは出来なかった。私達が守れたのはたった1つ、奈久留だけだった。
やっと出てきた言葉がソレだった。涙がこぼれて仕方なかった。
震えるこの言葉をゆっくりと聴いてくれた。頭1つ分高い場所から私の全てを包んでくれる。
分からない。たぶんあいつに、ごめん! ごめん緋色! 私が居たのに、創たちを!!
緋色は私の言葉を否定しないでくれた。泣きじゃくる言葉を全て、緋色は認めてくれた。
みんな、みんな殺されちゃった! 緋色! 私どうしたら! いったいどうしたら!!
緋色は飽きることなく頭を撫でてくれる。ゆっくり、時間をかけて慈しんでくれた。
焼き払われた野、広がる陽の光を前に皆へ緋色を紹介した。私の幼馴染なんだ! って。
楽々に、タタミに、キメラのみんなに腕を広げて言い募る。私の自慢の!
緋色は2人に言った。急遽焚いた焚火の前、持参したお米で作った雑炊を飯盒からよそり、その1本の腕で皆に振舞った。
楽々とタタミ、特にタタミが緋色の言葉に目を輝かせている。
剛(たけし)おじさん、創のお父さんが教えてくれた言葉なんだ! 世界は、この『DDD』でだいたいどうにかなる! って。
緋色の大仰なボディランゲージを見て、タタミは絵本を読む子供のようにその目を煌めかせていた。
反芻し、何故だろうタタミは独り嬉しそうに笑っていた。緋色から受け取ったお米を大事そうに頬張って、幼い誰よりも可愛い笑顔で。