第4話

文字数 676文字

 翌日早速、返信があった。大成に緊張が走る。もし昨日の内容で断られたら、自分の全人格を否定された気になるだろう。とにかく過剰に反応する自分に振り回されてしまう。そうなると次を探す気力まで削がれる事になる。大成は冷蔵庫からキンキンに冷えたビールを取り出すと、一気に喉へ流し込んだ。素面ではいられそうにない。
 しばらくすると頭はもやに覆われ、体は浮遊感を覚え出した。この感覚に溺れるまで三十分はかかっただろうか。砂上の自信が満ちてくる。やっとこさ大成は返信を開いた。すると内容は面接の案内であった。
「よっしゃ!」
大成は一人、歓声を上げた。安堵から、体中が開放感に包まれ、大きく息を吐き出した。返信を開くまでにかかったビールは三缶に達している。
「コスパ悪いな」
自分を嘲るように呟いた。
 すると襖の向こうから
「ちょっと、なんでビールないの?あんた飲んだでしょ」
パートから帰ってきた母の声が聞こえた。あれ以来、母とは口を聞いていない。大成はだんまりを決め込んでいる。
「なに、まだ怒ってんの?ガキじゃないんだからさ」
呆れたように母が言う。その声を聞くと、自分を包むハリボテの高揚感はあっという間に霧散し、いつも心底に沈殿している鬱屈が顔を出す。
(くたばれバカ親が!)
心中、毒づいた。振り幅の大きい一喜一憂に自身が振り回されている。
(開き直りたい…)
吃音というのは往々にして言語だけでなく、行動や精神のブレーキになり得る。開き直るとは、ブレーキの如何を問わずアクセルを踏む事、やけくそを望む感情だ。獰猛で衝動的な鬱憤に、大成は頭を抱えた。
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