第3話

文字数 908文字

 閉店による解散退社、店がつぶれた場合は履歴書にこう書くようだ。大成は自室にこもり転職サイトをのぞいている。
 彼の転職における第一条件は、キッチンとホールがちゃんと分業になっている事であった。最近は兼業の店も多いが、吃音症を考慮するとやはり分業一択である。以前、キッチンとホール兼業の店で勤めたこともあるが、結果的に、石井くんにはホールに立たせないように、という誰も得をしない暗黙のルールが出来てしまった記憶がある。同じ過ちは二度と繰り返したくはない。
 また町場の飲食店は土地にもよるが、基本的に横の繋がりは薄く、その店独自のマナーやルールが出来やすい。例えば面接時の服装一つにしてもそうだ。社会人ならスーツは当たり前、な所もあれば、うちはそんなに堅苦しい店じゃない、という所もある。
 さらに転職サイトを使わず、求人は店頭への張り紙ですます場合もあったり、もしくはSNSで求人を募集する場合もある。手段も多過ぎれば不便に感じる。大成は昼間は足を使い夜はパソコンを使い、職を求めた。
 そうして一軒、とあるレストランに目が止まった。店の規模は小さそうだが、規模の割にメニュー数が多い。という事はコックにはなかなか大変な店だろうが、分業である可能性が高い。他のコックなら自分のスキルを磨くためなどと言うのだろうが、そんな事はどうでもいい、分業かどうかだ。喋らなくて済むなら、それに越した事はない。サイト経由で応募できるのも都合が良かった。張り紙から探す場合は電話をしなければならない。その点だけでも応募のハードルはかなり下がる。
 善は急げで応募をクリックし、必要項目を入力したが、最後の備考欄で手が止まった。さて、吃音症であるかを知らせるか否か。隠せるものではないが、自ら開示する事は抵抗がある。だが知らせないというのも不誠実な気もする。しばらく思案し、大成は吃音症である旨を記入し送信を押した。
 すると言い様のない悲観的な考えが湧いてきた。この段階で見切られると吃音症が原因で落ちた事になるのだろうか。懺悔の直後に咎められるような、幾度となく繰り返した逃れようのない不安と不満が粘り付き、離れる事はなかった。
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