十七 玲のお母さん

文字数 2,260文字

 この日の夜(月曜)。
「あなた、大原まり子さんと知りあいなのね・・・」
 僕は湯船に浸かって背後から明美を抱きしめていた。
「休み明けの実習で、大原まり子さんと同じグループになったの。
 彼女、この夏、友だちが入院したので個人的に看護したと言ってたわ。
 友だちってあなたでしょう?」
「入院してた時の事を、話してなかったね。
 大原まり子さんとは入学当時の新歓行事で知りあって、それ以来のつきあいだよ。
 友だちだった。それ以上にはなる気がなかったよ」
 僕は大原まり子との出会いから、僕が入院して退院するまでを話してあげた。

「そんな事があったんだ・・・。
 下半身を拭いてもらったの?」
 明美は不満そうな態度になった。
「大原まり子さんがしなければ看護師がするよ。
 話したように、看護師の平田麻美はストーカーだった。
 大原まり子さんがいなければ、僕は被害を受けてた・・・」
「でも、しゃくだな。触られたんでしょう?」
「うん、でも、今みたいにはならなかった・・・」
「こんなふうにならなかったの?」
 明美が僕に触れた。優しく握っている。
「うん」
「どうして?触られたら、それなりに反応は・・しないか・・・」
 明美は僕の性格を思いだしたらしく、そのあとの言葉を口にしなかった。

「初めて僕に会って、その一週間後に、会いたいと僕に電話するまで、明美のここはどうなった?」
 僕は明美の胸の谷間を優しく撫でた。
「ドキドキしてた。キュンともしてた・・・」
「僕は、大淵さんから、明美の相談相手になってくれと言われて、お母さんを元気づけたり、明美の悲しみを少しでも無くすくらいは、僕にもできるかも知れない、そうしなければ、お母さんの事で悲しみを抱えこむ明美がかわいそうだと思った。
 そして、明美に一目惚れしている僕に気づいた。
 僕も、明美を思うと、今も、ここがキュンとする。ドキドキもするよ。他の人に、こんなふうになった事はない・・・」
 明美の胸の谷間と膨らみを撫でた。
「大原まり子さんに身体を拭かれても、僕はこんなふうにはならなかったよ・・・」
 僕を握っている明美の手を、僕は握った。
「初めていっしょにお風呂に入った時のしょうちゃんを思いだして、大原まり子さんと何もなかったのはわかってたよ・・・」
「看護でも、他人が触れたのを聞かされると不満なんだろう」
「うん・・・」
「こうしていても?」
 明美の胸をやさしく撫でた。
「ダメ、もっと不満になっちゃう。がまんできないよ・・・・」
「僕もだ。そしたら、急いで上がろう」
「うん!」
 僕は明美の向きを変えて口づけした。明美は、明美に触れた僕の手をそのまま押さえて、ゆっくり動かしたまま、離そうとしなかった。

 そして一時間後。
 僕はベッドの中で明美を抱きしめていた。
「やっと一つになれたね。私、うれしい!」
「うん、僕もだ。いっしょになれて、よかった・・・」
 僕は強く明美を抱きしめた。ほんとうによかった。
「最初、痛かったけど、今は身体が溶けたみたいで、動けない・・・。
 しょうちゃんは?」
「僕もだよ・・・。そのままにしてて。拭いてあげる。着せてあげるよ・・・」
「うん・・・。しょうちゃん、面倒くさくない?私の事?」
「なにが?こうして身体を拭いて、パジャマ着せてる事か?」
「うん・・・」
「気にならないよ。たいせつな明美だもん。こうして拭いて、着せてあげる」
「湯上がりも着せてもらってるから、いつもになっちゃうね」
「ああ、いつも着せてあげる。寝てていいよ。主婦もしてるんだ。疲れるだろう」
「うれしいなあ」
「僕もだよ。ベタベタしていいよ。明美にされるの、大好きだよ」
「うん・・・。そしたら、抱きしめてね・・・」

 パジャマを着せて、明美を抱きしめた。
「しょうちゃんが働くようになったら、しょうちゃんの子ども、産みたいなあ・・・。
 それまでは、今日みたいに、ちゃんと避妊しようね」
「うん、わかってるよ・・・」
 明美はしっかり考えている。今日も事前にふたりで相談して、明美が準備していた。
 試験が終ってからと約束していても、何が起こるかわからないからと考えて・・・。

「・・・」
 明美から、寝息が聞える。
 僕は明美を抱きしめて、明美の寝顔を見ていた。すると、
『しょうご~』
 大学病院を退院して以来ご無沙汰していた、僕の守護霊の玲が、久しぶりに僕の肩口に出てきた。
『久しぶりだね・・・』
『そんなことないよ。いつも傍にいたよ~』
『どこにいた?わからなかったよ』
『お母さんといっしょにいたよ。あけみお母さんだよ~』
『そうか!やっぱりそうか!よかったな!』
 僕はうれしかった。言葉で表せないほどうれしかった。
『玲。寒くないか?』
『だいじょうぶ。お母さんがアーガイルのクツシタはかせてくれたよ。
 下に発熱する下着着てるよ。
 上着は、あたしのお気に入りだよ。
 お母さんもお気に入りだよ』
 玲は濃いグリーンのアーガイルのカーディガンを着ている。ズボンは紺のコーデュロイ、アーガイルのクツシタ、カーディガンの中は白いタートルのセーターだ。
『お母さん、かわいいね!あたし、お母さんにそっくりだね!』
『そうだね。二人ともかわいいよ。大好きだぞ』
『うん、だいすき!
 そしたら、お母さんといっしょに眠るね・・・』
 いつのまにか、玲はピンク柄の起毛のパジャマに身を包んで、明美の腕の中に抱かれていた。
『はやく、玲と三人で暮らしたいな・・・』
『うん、あたしも待ってるね。また、あしたね』
『わかったよ・・・・』
 そう返事をしたと思っていたら、いつのまにか眠っていた。
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