九 省吾の人生

文字数 952文字

 また、ここに来ちゃったぞ。玲の忠告どおりしてたのに、何がいけなかったんだ?
 僕は、難題門の門扉と難題門に続く城壁に埋めこまれた、大量の頭蓋骨と所々で金色に輝く観音像の顔を見あげていた。
「いかんのお。省吾の人生じゃ。母親に決めさせるな!
 省吾が決めねば誰が決める。
 のお、玲ちゃん・・・」
 美具久留の爺ちゃんが玲の頭を撫でて微笑んでいる。 
「うん。お母さん、探すね。
 しょうご~。もどって、お母さん、さがそう~」
 玲が、美具久留の爺ちゃんに微笑んだとたん、僕はベッドにいた。


「あ、そうだわ。昨日、学生部でいろいろ尋ねたら、教務部の人が、単位不足でも三年までは進めると言ってたわ。
 今学期は出席できないから単位を取れないけど、来期と三年で単位を取ればいいと言ってこの履修表を書いてくれたわよ。
 奨学金はこれまでと同じに支給されるから、入院中も問題ないわ」
 母は履修表を僕によこした。
「ありがとう。助かった。心配事が一つ消えた。
 大原まり子さんと話があるんだ。すまないけど、ふたりにしてもらえないか・・・」
「ええ、いいわよ。そしたら、明日の午前中に来ますね。
 まり子さん。いろいろお世話になってるのに、お礼もできなくてごめんなさいね。
 夕飯をごちそうしたかったけど、次の機会にするわね。
 はい、これ、下着が入ってる。洗い物はこのバッグに入れといてね。
 それじゃあ、明日の朝に・・・」
 母は着がえが詰まったスポーツバッグを僕によこして、目配せして病室から出ていった。

「母は独断と偏見が酷いから、注意してね」
「うん、あなたから聞いてたから、心配ないよ」
 僕が説明しようとしたら、大原まり子が、あなた、記憶してないかも知れないからと言って母の事を説明した。
 大原まり子は、僕の実家はN県N市のT区にあると言った。母は、大原まり子から僕が事故に遭ったと連絡を受けて、大した事はないと思っていたらしいが、首を捻挫して顔面を含む数ヶ所を骨折したため、緊急手術すると聞いて、手術後に病院に来たとの事だった。宿泊先は大原まり子が手配した、男子学生寮の来客室だ。
 大原まり子が説明を終えると、病室に配膳ワゴンが入ってきた。
「さあ、夕飯が来たよ・・・」
 大原まり子は僕に微笑みながら、夕飯のトレイをベッドサイドテーブルに置いた。
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