第15話 太陽と月に背く男、オイゲン・フォン・サヴォイエン③

文字数 1,456文字

プリンツ・オイゲンはハプスブルグ家の王三代に仕えたのですよね。
レオポルト一世、ヨーゼフ一世、カール六世だな。軍人としてのキャリア前半は、旧態依然としたオーストリア軍のなかで苦労したらしい。上官ともよくぶつかった。しかしスペイン継承戦争で、マールバラ公ジョン・チャーチルに出会う。
ウィンストン・チャーチル首相のご先祖ですね。プリンツ・オイゲンとマールバラ公は、”twin constellation in glory”(栄光に輝く双子の星)と呼ばれるほどの見事な共闘ぶりだったそうです。
ブレンハイム戦勝利の後に、プリンツ・オイゲンを迎えるマールバラ公: US public domain
オイゲンにはまた、優秀で信頼の厚い部下たちが参じていた。シャルル・フランソワとトマ・ド・ロレーヌや、グイード・フォン・シュターレンベルク、外交においてはパッシオニー枢機卿などだな。グイードとは後々揉めたらしいが。
忠誠を尽くす理知的な軍人であると同時に、人間的な魅力のある方だったんでしょうね。戦果を上げる度に受け取った褒賞は、学問芸術へ費やされ、ライプニッツやルソー、モンテスキューとも親交を結んでいたようです。
モダンというか、実利的な思考の持ち主だった。軍を効果的・効率的に采配する能力が高かった。一方で冷徹で打算的とも言われていた。オイゲンのカリスマに頼るようになったオーストリア軍は結局、根本的な組織改革が遅れてしまった。
スペイン継承戦争から、四国同盟戦争、ポーランド継承戦争と、ヨーロッパ諸国は次々と同盟相手国を変え、敵と味方と裏切りの入り混じる、混沌とした様相になってきました。
そんななかでオーストリアは、オイゲンの活躍もあって、最大版図を手に入れる。しかしハプスブルグ家には大きな問題が有った。男系子孫が生まれない。
兄(ヨーゼフ一世)の娘たちが他家へ嫁げば、国土が分割されてしまう。また自分にも成人した男子がいなかったカール六世は、国事詔書を発布して、ハプスブルグ家の長子相続と女子の扶助的な相続による一体性を認めるよう、各国・諸侯に迫りました。
オイゲンはこの国事詔書承諾の取り付けに奔走したらしい。外交手腕も相当なものだ。オーストリアは、この国事詔書のおかげで、マリア・テレジアが受け継ぐことになる。
なんでもプリンツ・オイゲンは、バイエルンか、プロイセンのフリードリヒ王太子(後の二世、フリードリヒ大王)をマリア・テレジアの結婚相手として推薦したそうで、実現したら凄いことになっていたでしょうね。
マリア・テレジアは結局ロレーヌ公次男のフランツ・シュテファンと婚約して、オイゲンはロイヤル・ウェディングをボイコットしたらしい。なかなかの反骨だよな…
歴史に「もし」は無いと言いますが…マリア・テレジアにオーストリアを継承させることを可能にしたのはプリンツ・オイゲンで、その子がマリー・アントワネットであるということは、フランス革命にも何がしか繋がってくるという、あの方の関わった因果とは恐ろしいものです。
一途に仕えてきたハプスブルグ家の王女が、ブルボン家に輿入れすると聞いたら、本人の憤慨はどれほどと思うがな。
半世紀に渡るブルボン家への復讐は、そうして終わってしまうのですね。
ナポレオンをして、『偉大な七人の軍人』のうちの一人と称されたオイゲンだが、生涯結婚せず子供もいなかったため、亡くなったあとの膨大な資産は、全て国に接収された。
外交と戦争が近代化されようとする過渡期に、何を目指して前線で戦っていたのでしょうか…
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